37 実力のススメ
令和最初の〇〇とかみるとイラッとします。
というわけで、令和最初の投稿で~す(˘ω˘ ≡ ˘ω˘)
マッドボアの肉はめちゃくちゃ美味かった。
BBQで、自分で仕留めた獲物だという気持ち的な補正が入っているからかもしれないけれど、異世界に来て食べた物の中でいちばん美味い。
箸が止まらない、フォークだけど。
皿に盛られた肉は瞬く間になくなってしまった。
「いや、マジうめぇ!」
「マジウメ?お気に召したようでなによりですわ。すぐに次をお持ち致します」
「おぉ、ありがと」
クレイが手を差し出してくれて、俺は何も考えずに自然と皿を渡した。
――っと、
「あ、フォーク邪魔だよね。持っとくよ」
皿に乗せっぱなしだったフォークに手を伸ばすが、クレイはすごい勢いで皿を引いた。
「何の問題もありませんわ」
「いや、肉をよそうのに邪魔かなって」
「何の問題も、ございませんわ」
「え、あ…そう。わかった」
ちょっと怖い顔で睨まれてしまった。なにか気に触ることでも言っちゃったかな。
なんて気にしたけど、新たな皿を持ってきてくれたクレイは満面の笑みだった。
「ありがとう」
「いえ、たんとお食べ下さい」
なんで睨まれたのかわからないけど、タイミングがあれば謝るか理由を聞くかしたかったが、うまいきっかけもなく、クレイも機嫌を損ねている様子もなくて切り出せなかった。
ウォーリーは食べ頃の肉を絶やさないように気を使いつつ、フットマンとリリは思い思いにBBQを堪能していた。
リリは漫画のお約束かのように皿に肉をチョモランマ盛り盛りモーリーに盛って、丸いピンクの悪魔よろしく掃除機で吸い込むかの如く消し去っていっていた。明らかに質量の法則を超えてやがる……
「やっぱりガラマッドボアは味が段違いだな」
ウォーリーは横たわる巨大猪を叩きながら話す。
「やっぱりそいつがガラマッドボアなのか?」
「あぁ、大雑把に言えばでけぇマッドボアの事ですが、一応、牙がツノみてぇに育ったやつがガラマッドボアでさぁ。たまにでけぇのにツノがなかったり、ちいせぇのにツノがあったりで揉めるらしいですがね」
「揉めるって?」
「討伐の報酬が違いやすからね」
「あぁ、なるほど」
俺が狩ったマッドボアは至って普通の猪サイズだ。そしてクレイの仕留めたガラマッドボアは象ほどの大きさがある。
これでツノの有無で俺の方が報酬が多いですよと言われたら、そりゃ確かに納得いかない。
「にしても、クレイってめっちゃ凄いんだな。一撃でこいつの首を落とすなんて」
「いえいえ、大した事ありませんわ」
「俺、剣のことは全くわからんのだけど、クレイは実際どれくらい強いもんなの?」
これは非常に気になるところだ。
巨大な魔物を一閃できる剣士がこの世界ではどれほどのものなのか。
「そうですなぁ。首都でも上位に入ることは間違いありやせんが、何番目かと聞かれるとわかりやせんな。お嬢は他の者と手合わせしたりしやせんから」
「そうなんだ。騎士団だし、稽古とかするもんだと思ったけど」
「お嬢は嫌われとりやすから、ははっ」
おいおい、そんなこと言っていいのかよ、って思ったけどクレイは気にした様子もなくすまし顔をしていた。
その後ろで未だに肉を食べ続けているリリが目に付いた。
「ちなみにリリは?強いの?」
「リリは強いですよ。私などよりもずっと」
クレイがそう答えてくれた。
「へー、そうは全然見えないけどね」
食べるのに夢中で口の周りを汚しているリリの姿はただの子供にしか見えない。
「あのガキは特別製だからな」
「え?」
「ってあぁおい!焼いてやっからオイタすんなっての!」
意味深なことを呟いたウォーリーは自分で肉を焼こうとしているリリを見つけてそちらへ行ってしまった。
それを何気なく目で追って、網の横に転がっている俺が仕留めたマッドボアが目につく。
解体はしてあるが、大きなブロック肉は綺麗なままで減っていないようだ。
クレイの仕留めたガラマッドボアと見比べてため息がでる。
やっぱ弱いよなぁ、俺。
俺は普通の猪で手一杯だった。
ガラマッドボアなんてきっと手のつけようがない。
表面を触ってみたけど、毛も皮膚も圧倒的に固くてとても土の柱でどうこうできる気がしない。
そもそもダンジョンマスターって自ら戦いに赴く必要があるのだろうか。
ダンジョンを創るのが専門なんだから“待つ”“誘う”が得意なタイプなのではないだろうか。
敵を倒すのではなく、敵に来て頂いて、敵に倒れてもらう戦い方をすべきなんじゃないか。
そうだよ、なんで俺はわざわざ敵と対峙して勝つ方法を模索してたんだ。
俺はダンジョンマスター、待つのが仕事だ。
……
……………
…………………………ダメだよなぁ
ねぐらで待ってても何の実りにもなりゃせんな。
お金を稼ぐには、ご飯にありつくには外に出ないと行けない。
やっぱり自ら敵陣に赴くか、こっちが待ってても向こうからやってくるような仕組みを考えないとなぁ。
なんか、どうすれば部屋に引きこもったまま生きていけるかを考えるのに似てる気がしてきた。
これがネオニートを目指すということか。
ま、別に何か使命がある訳でもなし、未だにダンジョンマスターってなんぞって状態だしな。
若干の戦う術と、最低限の収入は確保出来てるんだ。それでいいじゃないか。
敵がいるわけでも、命を狙われてる訳でもないんだ。
ぼちぼちやっていこう。頑張ってるぞ俺!
「なにか来ますね」
クレイは剣に手をかける。
他の3人もそばに置いておいた武器を拾い上げて構えをとる。
4人が視線を向ける方からは真っ黒な塊がこちらに向かって走ってきていた。




