29 測量のすすめ
アイリーに是非とも孤児院に寄って欲しいと言われたので、炊き出しを終えた一行と一緒に向かっている。
本当は行く気はなかったのだが、子供らにせがまれると断るに断れなかった。
孤児院につくと、留守番をしていた子供らも合わさって熱烈な歓迎を受けた。
孤児院は建物こそ大きくないが街の中にありながら広い土地を有している。炊き出しを行っている広場と並んで、祭りやバザーなど地域の催しに使われることもあるそうだ。
子供らが走り回っても迷惑をかけることはない。
中央には見上げるほどの大きな木が悠々と佇んでおり、子供らを見守っている。
そんな孤児院の周りで、紐のついた棒を持ってなにか作業をしている一団がいた。
「あれは何してるんだ?」
「がっこー立てるんだって」
「学校?孤児院の横に建つのか」
聞くとどうやら建築士の一団のようだ。棒と紐で土地の尺を測っているってことか。
土地の計測を行っている一団に2人の騎士とドレス姿の女性が話しかけた。
遠くから見てもわかる、ドレスをまとっているのはクレイだ。
クレイはこちらに気づくとドレスの裾をつまんで優雅に一礼した。
そのまま俺に近づいてきてまた一礼。
「ご機嫌麗しゅう、ススム様」
「うん、うるわしゅう」
挨拶を交わす俺たちの元へ、クレイの連れの2人もやってきた。
「ほほー、こいつが姫さんのお気に入りか。聞いてるぜぇ、閃光のススムさんよぉ」
「昨日、ギルドで問題を起こした男か。華奢だな」
軽い調子で絡んでくる『棒』という例えが似合いそうな長身細身の男と、対称的に落ち着いた雰囲気の横幅広くガタイのいい『箱』という例えが似合いそうな男。どちらも王国軍の鎧をつけている。
守衛や騎士団など、王国の軍に所属する者は全員同じ鎧をつけている。クレイはドレスを着ているけど。
「ススム様はまたアイリー様とご一緒でしたのね」
「アイリーというか、子供たちにモテてるんだけどね」
今も俺の両腕は子供らに引っ張られてる。
「クレイ達は見回りか何か?」
「えぇ、治安の維持は騎士の務めですから」
そう言って笑ってみせるクレイ。初めて自分の事を騎士だと口にした気がするけど、やっぱり騎士なんだな。前は他の騎士から団長って呼ばれてたし、今連れてる2人にしても、クレイのほうが上司的立ち位置みたいだし。
「ここ、学校が建つんだってな」
「えぇ、ゴードン様がうまく話を進めたようですね。前々からシスターアイリーに話を持ちかけていたようですし」
「そうなのか」
またゴードンか。
そういえば前にゴードンは孤児院の土地についてアイリーを脅すようなことを言っていたな。
ゴードンの思い通りに事が進んだのだとしたら、やはりこの前の件もゴードンが怪しいんじゃないか?
被害者のフリをしつつ実は黒幕だとか。十分ありえる。やはりあいつは信用おけないな。
「あいつも物好きだよなぁ。平民の為に学校建てようなんざ、なんの得があるんだか」
「金のあるものの考えはわからん。不可解だな」
「そのようなことはございません。ゴードン様は子供たちの、ひいてはこの国の将来を考えて平民の為の学校の設立を考えていらっしゃるのです」
学校の話をする俺達の輪にアイリーもやってきた。
「頭使う仕事は貴族様に任せて俺たちゃ汗水垂らしてりゃいいだろ」
「正論だな」
「そのようなことはありません。平民の中にも商才や政、魔術や芸術に秀でた者は多くおります。それらを埋もれたままにすることは国の損益となるのです。ゴードン様はそうした才能が埋もれてしまわぬよう、平民にも学ぶ場が必要だと考えていらっしゃるのです」
「はっ、平民にねぇ、いるかねぇそんなの」
「あら、目の前のススム様だって冒険者ながら、宮廷魔術師にも劣らない素晴らしい魔法の才能をお持ちですわよ」
「えっ!?」
クレイが急に俺の話題をあげるので思わず声がでてしまった。
「まぁ、そうなのですか!」
「こいつがかぁ?全くそうは見えないがなぁ」
「魔術師か、華奢だな」
「いやいや、そんな大したもんじゃないから!クレイも大袈裟な事言わないでくれ」
「あら、私は本当にススム様はすごいお方だと思っておりますわよ」
クレイは俺が穴を掘っている姿しか知らないはずだ。たしかにその時も妙に褒められはしたけど、あれはお世辞だろう。
それなのになぜそんなに俺を持ち上げるのか。力を隠したい俺からすれば、そういうことを吹聴されるのは困るんだが。
なぜか嬉しそうに満面の笑みで話すクレイに強くも言いづらい。
「はっ、もしそうなら街が襲われた時は頼りにしねぇとな、閃光の魔術師さん」
細身の男が嫌味たらしく顔を覗いてくる。長身なため、体をかがめてもまだ見下ろされる形になって挑発が様になっている。
「街を守るのはお前らの仕事だろ」
「ははっ、ちげえねぇ!けど黒獣が出たなんて噂もたってるからよぉ。そうなりゃ頭下げて冒険者様のお力も借りなきゃなんねぇしな」
「こくじゅう?」
「なんだよ冒険者のくせに知らねえのかよ」
「無知だな」
「黒獣っつーのは魔素に汚染された魔獣の事だよ。魔王が生み出すって言われてるから、もし本当に黒獣が出たってんなら、つまり魔王が生まれたってことになるわけだ。ま、んなわけねーけどな。ははっ」
ははっ…あるんだなそれが。目の前にそのひとりがいるんだなこれが。
「なんで魔王誕生がありえないって言えるんだ?」
「これまで魔王は200年周期程で現れてきました。前回の魔王が討伐されてからまだ20年しか経っておりませんもの」
「そういうこった。魔王出現の心配のない余生を過ごせる俺たちゃそれだけで幸運ってこった。ははっ」
ははっ……ご愁傷さまです。
「それではススム様、私達はまだ巡回が残っておりますので失礼致します」
「あぁ、うん…がんばって」
クレイ達3人はそう言って立ち去っていった。
魔王の誕生に黒獣の出現か。
黒獣は魔王が生み出すって言ってたけど、モンスターを生み出すのは今の俺の目標のひとつだ。もし俺がモンスターを生み出したらそれは黒獣になるんだろうか。
まぁ試してみないとわかんないな。
とりあえずなんでもいいからモンスターを狩らねば。
まぁ、今日はもう夕方近いし明日でいいか。
俺は洞穴に戻る事にした。
タイトルの後半半分を変更致します。
ただキャラやストーリーなどは特に変わりません。
勝手ではございますが、何卒宜しくお願い致します。




