28 懲罰のすいじ
しつこく付きまとってくるキノコ頭ことマッシュ君を撒くように適当に街を歩いていると、いつかの広場に来ていた。
異世界転移して空腹で死にそうだった俺が最初に飯にありつけた場所………いや違うな、ありつけそうになった所をゴードンに邪魔された場所だ。許すまじゴードン、慈悲はない。
ここでアイリーと出会って、そのあと孤児院でご馳走になったんだっけな。
あの時と同じように、今日も炊き出しが行われていた。
「あ、お兄ちゃん!」
配給を手伝っていた幼女が俺を見つけて声を上げた。
前に孤児院で台所まで案内してくれた女の子、ミーナちゃんだ。
「おー、元気してたか」
「うん、元気してた!」
満面の笑みで答えてくれるミーナ。素直な子供は可愛い。
他の子らも俺に気づいて声を上げる。
「ゲッ!?」
そんな俺と子供らの触れ合いを見て嫌悪の声をあげる人物がいた。
その子は俺と目が合うと隣の人を盾にするように隠れて目線を阻んだ。
当然、俺はニヤニヤを抑えきれない顔で近づく。
「よぉ、何してんだ」
「な、なんでもないわよ」
そこにいたのはゴードンの屋敷に忍び込んだ容疑で捕まっていた子供らのリーダー格の女の子、たしかエリーだったか。
見ればエリーと同じように子供らをまとめていた年長の男の子もいる。
「これはこれは、ススム様。ごきげんよう」
「こんにちは、シスターアイリー」
「冒険者になったとお聞き致しましたが、炊き出しに来るということは上手くいってないのでしょうか」
「いやいや、食べに来たわけじゃないですよ。ちゃんと収入ありますから」
金がなくても食事には困らなくなったけどね。
「そうですか、それは残念」
「え、残念?」
「でも孤児院にはぜひ遊びに来てくださいね。子供たちも喜びます」
「あそびにきてー!」
「えぇ、分かりました。で、そいつらは?」
「エリーとヨーゼですか。彼らには奉行懲罰が課せられたのでこうして孤児院の仕事のお手伝いをしてもらっているんです。それに他の子らも」
言われてみれば周りでは多くの子供が炊き出しのご飯を食べている。前に俺が並んだ時は浮浪者のおっさんみたいなのばかりだったが。
「幼い子らには懲罰はありませんが、監督猶予が必要ということで、この期に全員うちで引き取ることが出来ました。急に人数が増えたのでテーブルが足りなくて、お昼はここで食べてもらってるんです」
アイリーはストリートチルドレンと化しているこの子らのことを気に病んで、保護したいと話していたな。
うまいこと全員がアイリーの手元に収まったということか。
これならば子供らの件は一件落着ということでいいな。
俺も頑張った甲斐があった。まぁ俺がしたことといえばゴードンに濡れ衣きせて人質にされただけだけど。
エリーはエプロン姿を見られたくないのか、はたまた真面目に働いている姿を見られたくないのか、悔しそうな顔でチラチラと俺を警戒しながらスープを配っている。
飯をもらいに来たわけではなかったのだが、列が途切れたところで俺はエリーの前に立った。
「な、なによ」
「ご飯を貰おうかと思って」
「なんであんたに!あんたお金に困ってないんでしょ、他所の店行きなさいよ」
「いやー、真面目に働く健気なエプロン姿の可愛い女の子が注いでくれたスープはきっと美味しいんだろうなぁと思って」
「…っ!?バカにしてんの!?」
「いやー、本心だよぁニヤニヤ」
「こいつ…シスターっ!」
「よろしいではないですか。スープは少し残っていますし、アリア様の施しは万人に平等に与えられるものなのです」
エリーはアイリーに助けを求めるもそれは叶わなかった。くやしいのうくやしいのう。
「ほら、早く注いでくれよ」
「くっ…」
それ以上の反論を失ったエリーは悔しそうな顔でスープを皿に注いでスプーンと一緒に俺に差し出した。手に持っていたゴウライニンジンをテーブルに置いてそれを受け取ると、そのままエリー目の前で食べ始めた。
「うーん、んまい、んまいよエリー」
「知らないわよ」
エリーがその場から逃げようとするので俺はその後を「うまいうまい」と言いながら追いかけた。
逃げる少女をスープをかきこみながら追いかける男。なんだか楽しくなってきたのでやめないがよくよく考えれば通報ものだな。まぁ周りの子供らも笑ってみていたから良しとしよう。
「少し作りすぎてしまったみたいですね」
「夜に回せばいいんじゃないかな、かさ増ししてさ」
「そうですね。ではそれでお願いします」
「ほいさ。ん?なにこれ………人参のミイラ?まいいや、水で戻しとこう。出汁とか出るかもだし」
そう思ってヒルシはスープの残った鍋にゴウライニンジンを放った。
エリーを追いかけるのに夢中なススムはそんなこと知る由もなく、人参の存在自体頭から抜け落ちていた。
グリッドマンおもしろい




