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26 栽培のすすめ

周囲を警戒しながらトンネルの中へ消えたキノコヘッドを好奇心からあとをつける。


暗い通路の先にあったのはわずかな明かりしかない暗い広い部屋。


そこには所狭しと木の幹が並べられていた。


「誰だ!」


俺に気づいたキノコヘッドが声を上げる。


「よぅ」

「おまえは閃光のススム、どうしてここに」


なんだその二つ名は、てかなんでみんな俺のこと知ってんだよ。

閃光のススムって、ちょっと恥ずかしいからやめて頂きたい。


「いや、ここに入っていくのが見えたから何となく」

「ううう嘘をつくな!俺のキノコの秘密を探りに来たんだろ!」

「キノコの秘密?髪型の話か?いや、あぁ、なるほど。これ、キノコを育てているわけか」


キノコヘッドは俺の登場に動揺しているようだ。


暗くて良く見えていなかったが、目を凝らすと並べられた木の幹からキノコが生えているのが分かる。


「おまえ、これが何かわかるのか?」

「いや分かるも何も、そうじゃないか」

「知らなければ普通これを見ても、キノコの生えた木を並べているとしか思わないはずだ。まさかお前も俺と同じ事を!」


いやすまん。俺のキノコ飼育はこんな手間や努力を要しないチートなんだ。


「考えてみればそうか。あれだけのペースで同じきのこばかりの納品。栽培でもしていなければ無理な話だ。そうだろう、おまえはヒカルダケを栽培しているんだろ」


俺は大して喋ってないのに勝手な決めつけで話を進めるキノコ頭。当たらずも遠からずなんで訂正もしないけど。

それにしても、キノコの栽培ってたしか、木に穴開けて菌を植えるだけの割と簡単なものだったような記憶があるんだけど、この辺りではメジャーではないのだろうか。


「キノコの栽培ってそんなに珍しいのか?」

「珍しいかだって?これは僕が自分で見つけた方法なんだ。他では聞いたことない。まさか、僕が知らないだけで他でもやっている所があるって言うのか!?」

「いや、俺も聞いたことないけど」


うん、そういう話を聞くほどこの世界に詳しくないしな。


「そうだろうそうだろう。山に行けばいくらでも採れるキノコをわざわざ育てようとは誰も思わなかった。だが実際に栽培してみると色々とメリットがあることに気づいたんだ。君もそうなんだろう」

「あぁ、まぁそうだな」

「君はキノコの栽培のメリットをどう捉えている?」


このキノコ、グイグイと饒舌に迫ってくる。

好きなものの話になると早口になるタイプか?

ちょっと挙動不審感もあるし、これがいわゆる陰キャってやつなんだろうな。

俺も人の事は言えないけど、俺自身は早口になるタイプではないと強く思っているけど、オタク気質の友人の多かった前の世界では周りにもそういうやつは少なからずいたからわかる。

確かに冒険者ギルドで見かけた時も、屈強な冒険者と比べてちょっと毛色が違う感はあった。

どの世界にも似たような人種はいるもんだな。


何となくあとをつけてしまったが、思ったほどワクワクするものもなかったのでそろそろ切り上げたいところなんだが、そのタイミングが掴めない。

会話の出口を探りつつ仕方なく話に付き合うしかない。


適当に思いつく栽培のメリットをあげる。


「そうだな、危険を犯して採取に行かなくてもいいとか、かな」

「そう!その通りだ!何よりも安全なことが1番のメリットになる。だけどね、それ以上の利益があるんだよ。もしかしたら君は気づいていないかもしれないけどね」

「なんだよ」

「ふふっ、それはズバリ、ブランド化だよ」


キノコ頭はキノコを1本、苗木から採って俺に渡す。


「どうだい、素晴らしいだろ」

「はぁ」

「クエルダケの中でも上質のサイズだ。森ではなかなか見られないサイズだろ」

「そうだな」


森でクエルダケを見たことないけど面倒なので適当に返事をする。というかあれだけ所望していたにも関わらずまともにクエルダケを見たの初めてかも。


「これだけの上物を探すとなると大変だけど、自分で育てれば品質を安定させることが出来る。それはずばりブランドになるというわけだ。僕は街の一流レストランと独占契約を結んで高額でキノコを卸しているんだ」

「ほう」


この話にはちょっと感心した。食品の品質の安定、ブランド化は元の世界では重要視されていた、というか当たり前だった。


そういや俺の知ってる異世界転生ものの話でもブランドで儲けるみたいな話がいくつもあったな。

俺も将来的にそういう手段を手に入れて一財産築くのもいいかもな。


その発想にたどり着いたこのキノコ頭は割と有能なのかもしれない。


「用途が品質に左右されないヒカルダケを栽培している君には関係ない話かもしれないけどね」

「ん?あぁそうだな」


たしかに、見た目や味が求められる食用キノコと違って道具の材料として機能が備わってさえいればいいヒカルダケやシビレルダケは形を整えても価値にはあまり影響しないかもな。


なんにせよ、コネとか持たない俺は冒険者ギルドしか卸し先はないんだけど。


………ん?


「おまえ、レストランと独占契約してるんだよな」

「あぁそうだ。この街一番の、貴族も御用達の店だ」

「だったらなんで冒険者ギルドにも納品してんだ?」

「………………それはっ!いや違うんだ!ただならぬ事情があって然りで」

「それって独占契約にも違反してるんじゃないか?」

「そこは相手方に了承を得ている!何も問題はない!」


俺の指摘に急に焦り出したキノコ頭。


だがそれは、独占契約の件を指摘されたからじゃない。


俺はこいつが焦る理由に検討がついている。


わざわざ額が割安になる冒険者ギルドに少数のキノコを勤勉に納品する理由。


その目的はずばり、冒険者ギルドの受付嬢だ。


契約云々の話関係なく、一目見たときから気づいていた。こいつはあの受付嬢が好きなのだ。


だから窓口で納品できるだけの数のキノコを決まった窓口で収めている。実に簡単な理由だ。


「わかってるわかってるって。そう誤魔化すことでもないだろ。確かに可愛いもんな、あの子」

「きき、君は何を言ってるんだ」

「隠すなって。あの受付嬢に会いたいから納品クエストをこなしてるんだろ。いや、いいじゃないかそういうの」


俺の煽りにキノコ頭は湯気が出るんじゃないかってくらい顔を真っ赤にする。


「僕は彼女を眺めて、ちょっとだけお話出来ればそれでいいんだ!」

「ほんとかぁ?じゃああの子が他の男にとられてもいいって言うのか?」

「なななっ!?」

「あれだけ可愛ければ他の男もほっとかないだろうなぁ、すぐに彼氏が出来ちゃうかもなぁ、なんなら俺が口説いちゃおっかなぁ」

「僕は……僕は……」


キノコ頭はワナワナと震えながらブツブツ呟いている。


ちょっとからかい過ぎてしまったかな。


こういうタイプは追い詰められると何をしでかすかわからんからな、刺される前にやめておこう。


「冗談だよ冗談。なんならお前と受付嬢の仲を応援してやってもいいぞ」

「だかっ、だから、僕は彼女にそんな不埒な感情は――」

「恥ずかしがるなって。子供じゃあるまいし、そんなの普通だよ、ふ・つ・う。それは悪いことじゃない。でな、代わりといっちゃなんなんだが―――」


2人の仲を応援してやるという根も葉もない事を材料に、俺はキノコ頭にある頼みをした。


応援するというのは嘘じゃないよ。言葉通り陰ながら応援してやるさ。加勢や助力するとは言ってない。


こうして俺はキノコ頭の案内である場所へ向かった。

ガチャの結果が散々だったので少しでも同情してくれる人は評価だけでもつけて頂けますと幸いです。


嘘です、読んでいただけるだけで今日も元気です。


いやほんといいですって、お気になさらず、え?マジっすか?ありがとうございます!

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