25 魔物創造のすすめ
2章の始まりです。
よろしくお願い致します。
「うーむ……」
俺は今、ダンジョンの拡大に勤しんでいる。
ダンジョンといっても召喚されて以来ずっと寝床にしている洞穴のことなんだが。
初めて街に行った際に崖の上から地表まで降りる階段を掘っていたわけだが、今回はそこから更に地下に向かって穴を伸ばした。
俺が掘った穴は俺のダンジョン扱いとなり、自由に改良や移動ができる。特にMPなんかを消費するような感覚もない。
そういえばこの世界に来てからまだ魔法って見たことないな………いや、1度だけあるか。
2日酔いになった時にアーヴァインに回復魔法を掛けてもらったのを思い出した。
まぁそれは今は置いといて。
でだ。
道を作ったり部屋を作ったりしてみたのだが、どうも思い描くようなダンジョンっぽくない。
理由はわかっている。
中が空っぽだからだ。
モンスターもいなければ宝箱もない。ただただ仄暗い岩肌の通路と時たま現れる謎に広めのスペース。
ススム、これダンジョンちゃう、ただの入り組んだ洞窟や。
そうなのだ、これでは住人を無くしたアリの巣と何ら変わりない、ただの穴なのだ。
このままでは迷路のアトラクションくらいしか使い道がない。
いや、いっそ迷宮アトラクションとして金をとるか?
いやないな。
俺がダンジョンをちゃんと改修しようと思い至ったのは黒鎧の男との交戦があったからだ。
交戦といっても奴からの剣を1度凌いだだけだけど。
それで、ちゃんとダンジョンマスターの能力を使えるようになろうと思って訓練も兼ねてダンジョン作りに乗り出したのと、奴が去り際に『また会おう』とかいってたから、本当に攻めてきたらどうしようという不安から寝床に防衛線を張る意味としてダンジョン化したいと思ったわけだ。
主に後者が理由の割合を大きく占めている。
びびりで悪いか?世の中、臆病者ほど長生きすんだよ。
で、この巨大なアリの巣迷宮アトラクションをここからどうすればいいかはちゃんとわかっている。
ずばり、モンスターだ。
俺はマニュアル本を開く。
そこに書かれているのは『魔物の創造』についてだ。
それによると、ダンジョンに魔物の死体を取り込むと、その魔物を創造できるようになるらしい。
しかも従順で、ダンジョン内の好きな場所に作れて、出すも引っ込めるのも自由自在、しかも倒されても何度でも再生利用できるという。
きた、ついにチート能力きた!俺TUEEEEE時代の到来だ!
俺に与えられた能力はこれだったんだ!
と、胸踊るのはいいが、今は何も創造出来ない。
何故ならばモンスターを1度も退治したことがないからだ。というかまだ遭遇したことすらないからだ。
魔物もきのこと同じで1度、元となる素体をダンジョンに取り込まなければ創り出すことは出来ない。
街で魔物の素材らしきものは見たことあるから魔物自体はいるはずなんだけど、幸か不幸か、未だに1度も遭遇していない。
というわけで俺の次の目標はずばり、魔物狩りだ。
魔物を創造できるようになってダンジョンに放つ。想像するとちょっとワクワクしてきた。
とりあえずは生活費を稼ぐためにキノコクエストをこなさなければ。そしてその前に腹ごしらえをしなければ。
俺はヒカルダケを創造してカゴに詰めると、それを背負ってリユースコレクションに赴いた。
今朝のリユースコレクションは少し賑わっていた。
俺が来たのがいつもより少し早い時間だってのもあるけど。
いつも朝と昼の間の微妙な時間に来るから人がいることはほとんどないしアーヴァインには迷惑がられる。
3つのパーティが朝食をとっていたが、ちゃんと覚えているのはアマゾネスだけだ。女4人で構成されたパーティだが、むさ苦しいリユースコレクションで唯一の女性メンバー達なので目につく。
一人一人の名前は知らないし話したことはないけどね。
「よいしょっと。おやじー、飯くれー!」
キノコを詰めたカゴを下ろしていつものカウンター席につく。
俺も慣れたものだ。山賊のねぐらだと言われてもなんの違和感もないこの場所で熊みたいな親父にタダ飯をせがむことになんの緊張も躊躇も感じなくなった。
特に何が食べたいとかは言ったこともないし聞かれたこともない。いつものように程よい量の適当なメニューが俺の前に並べられる。
特に好き嫌いもない俺は文句を言わずにそれを食べる。
強いて言うなら野菜が少ないのがこの店への不満ではあるが、それを口にしたこともない。
今日の朝食はパンと厚切りのベーコン、それに目玉焼きだ。
パンを割ってベーコンと目玉焼きを挟んで食べる。これに軽く葉物があれば完璧なんだけどなぁ。
「おまえ!それ!何やってんだ!!」
急に大声がして振り向くとアマゾネスの1人が俺を指さしていた。
「これか?挟んで食べると美味いんだぜ」
この世界にはパンに肉を挟んで食べるという発想がないのだろうか。
それともそういう食べ方は行儀が悪いとか?
どちらにしても立ち上がって大声出すほど驚かなくてもいいだろうに。
指をさされて全員の注目が俺に向く。
そして、うちの何人かが驚いたように立ち上がって俺に向けて抜剣した。
「な、なんだなんだよ」
「おまえ、その籠!」
「ん?キノコがどうかしたか?」
「それ、ヒカルダケだろ!?」
「あぁ、そうだけど」
その言葉を聞いて、全員が一斉に俺から距離をとった。
「馬鹿かおまえ!そんなカゴいっぱいのヒカルダケ持ち込んで、何のつもりだ」
つもりも何も、飯食ったら納品しに行くだけだけど、皆は何をそんなに驚いてるんだ。
「おらぁ知ってるぞ。こいつ、ギルドで山ほどのヒカルダケを起爆させたんだ!」
「俺も聞いたぜ、全身にヒカルダケを巻き付けてギルドに乗り込んだとか」
「あたしは、ヒカルダケを食いすぎてこいつ自身が爆弾と化してるって聞いたわ」
何言ってんだこいつら。どこでそんなデマが流れてんだよ。あと最後のやつは嘘だって気づけ。
「おいあんちゃんよぉ。おめぇこの店に恨みでもあんのか」
振り返るとアーヴァインが睨みをきかせていた。
結局早々に店を追い出される事となった。サンドイッチを手に持っていたので朝食を食いっぱくれなかっただけ幸いだろうか。
ったく誰だよ。根も葉もない悪評を言いふらしてる奴は。
しょうがないからパンを齧りながらギルドの買取所へ向かった。
ヒカルダケを換金したお金を握りしめて市場に向かう。
今日こそはこれでクエルダケを買うんだ。
クエルダケなら店に持ち込んでも追い出されることもないだろうし、なんならアーヴァインの店に直接仕入れてやってもいいな、あそこの料理は肉しか出ないから丁度いい。
そんなことを考えながら歩いていると目の前に見慣れた顔があった。
日課のようにギルドにクエルダケを納品しているキノコのような髪型の男。通称:ミスターマッシュ。……いや、ミスターキノコヘッドだったか?
自分で勝手につけたあだ名だったが忘れてしまった、まぁいいや。
キノコ頭は周囲を警戒するような素振りを見せて建物の中に消えていった。
そこはトンネルのようになっていて地下に続く暗い通路になっていた。
俺は興味本位に後を追うことにした。
というわけで2章の投稿を開始します。
執筆しながらなので1章みたいにバカスカと投稿はしませんが、定期的に更新したいと思っておりますのでよろしくお願い致します。




