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22 ゴードン私兵、すすめ!

ティムに突き飛ばされたウェンリーはその勢いで俺が昨晩生やしたヒカルダケとシビレルダケのの上に倒れ込む。


衝撃を受けたヒカルダケが強烈な閃光を放ち、その場にいる全員の視力を奪う。


「うおっ!なんだこの光は!」

「目が、目がああああ!?ぐああぁぁぁ………はぇ、かららら……しびぇ……」


と、ウェンリーは呂律も回らなくなっている。シビレルダケの痺れも受けたのだろう。


『うおおおおおおおおおおお!!!!』


けたたましい雄叫びと共に外が急に騒がしくなる。


そしてその喧騒は屋敷内へ、そして俺のいる部屋にまでなだれ込んでくる。


「いたぞ!ウェンリー卿だ!それに用心棒のティム!黒髪の男は保護対象だ!全員捕えろぉ!」


乱暴な足音がこちらに向かってくる。

3人で黒髪なのは俺一人だったから保護対象というのは当然俺のことだろう。

ゴードンの奴、本当に俺を助けに来たのか?


とにかく後の事は周りが片付けてくれそうだ。

まだ視力もほとんど戻ってないし、ここは大人しくしておこう。


と思ったのだが、どうにも聞こえてくる音が不穏だ。

耳に入ってくるのは金属のぶつかり合う音と野太い男達の苦悶の声だ。


「おらおらぁ!数ばっかりの雑兵がよぉ!」


ウェンリーの連れていた用心棒、ティムの調子に乗った声が聞こえてくる。


何やってるんだ、敵はたかだか1人だろ。早く取り押さえろよ。


未だに掠れる視界を凝らす。


目の前でうっすらと揺らめく赤が見えた。


「ついでだ、てめぇも死んどけ」


ちいっ!


反射的に土の壁を繰り出す。


目の前で硬いもの同士がぶつかる音が響いた。


「へへ、てめぇ戦えんのかよ」


危なかった……剣なのか棒なのか分からないけど、壁を出してなければ絶対にやられてた。


俺は地面に手をかざしてイメージする。


「けどよぉ、見えてねぇんだろ?まぐれは2度続かねぇぜ!」


再び俺に向かってくるティム。俺の視力が戻り切ってないのをいいことに背後に回りこんで短剣を振るう。

俺は再びティムと自分の間に壁を作って攻撃を阻む。


「なっ!?このっ!」


三度、違う場所、違う角度から打ち込んでくるティムの攻撃を同じように壁で阻んだ。


「てめぇ、目がやられたフリしてるってわけか」

「いいや、見えてないさ」


そう、相変わらず目はほとんど見えていないので今は閉じている。だが俺にはティムの動きが手に取るようにわかる。


ティムだけじゃない。ウェンリー、乗り込んできた兵士ら、この部屋にいる者全員の動きを完璧に把握している。


1撃目を防いだあと、俺はこの部屋の在り方を自分のダンジョンとして上書きした。


見た目の変化はないが、ここはもう俺のダンジョン、俺のテリトリーだ。


「くそっ!なんで当たらねぇ!」


ティムの横から後ろから、あらゆる角度からの剣戟を全て地面から柱を生やして防ぐ。


「ウェンリー卿を捕らえました!」


ウェンリーの捕縛を報告する兵士の声が聞こえた。当然、ティムにもそれは聞こえている。


「くそっ!くそっ!くそっっ!」


ティムは俺に背を向け、ウェンリーを捕縛している兵士に飛びかかる。


だがそうはさせない。


ティムが剣を振るったところで兵士とティムの間に土の壁を生み出す。それも特製のやつを。


驚いたティムが声を上げるよりも早く、部屋中を白が埋めつくした。


俺は作った壁の側面にヒカルダケをびっしりと生やしていたのだ。

そこにティムは剣を斬りつけたのだから当然、ヒカルダケはその特性を発揮して強烈な光を撒き散らす。


ティムも兵士もまるっと全員が閃光の餌食となる。

もちろん俺もだが、今は視力は必要ないので問題ない。

部屋にいた全員が目を押さえて身悶えている。


ちょっとやり過ぎたかな。誰も動けそうにそうにないので俺がティムとウェンリーを拘束するか。


そう思って地面でのたうち回っているティムに手を向けたその時だった。


部屋に突如沸いたように現れ、一直線に俺に向かってきた謎の影。悪寒を感じて反射的に創った俺の壁をその剣は貫いた。俺の右目、寸前ギリギリで刃が止まる。


時が止まる、息を呑む、少しずつ…体が震え始める。


剣がゆっくり引き抜かれて壁の向こうへ消える。そこで呼吸を思い出す。


危なかった。一瞬でも遅れていたら、あと少しでも壁が薄ければ、目を…いや、そのまま頭まで持っていかれていた。


「ふむ、なるほど」


壁を解除する。


そこには黒ずくめの装備で身を固めた者が立っていた。声からして男のようだ。全身の装備が黒い分、手に持った真っ白な剣が目を引く。


「あ、兄貴なのか!?」

「ティム、引くぞ」

「だけどウェンリー卿が」

「構わん、自業自得だ」


黒ずくめの男は剣を振り上げる。


くるか?

俺は防御壁をイメージしながら身構える。


しかし黒ずくめの剣は俺に向けられたものではなかった。

振り下ろされた剣はウェンリーの首を撥ねる。


「また会おう、盲目の土使いよ」


男はティムを担いで影の如き速さで部屋から出て行った。


それと入れ替わるように増援が部屋に駆け込んでくる。


部屋を見回し、敵がいないことを確認すると倒れている兵士の救助、ウェンリーの遺体の確認などに動いている。


俺のところにも数人駆け寄ってきて安否を聞いてくれた。


兵をかき分けてゴードンが姿を見せる。


ウェンリーの遺体を確認して、それから俺に歩み寄ってきた。


「なんじゃ、生きとったのか」

「まぁな、お陰様で」

「勘違いするでないぞ!べ、別にお前を助けるために来たんじゃないんじゃからな!誰か、この男の世話をしてやれ」


なに言ってんだこいつ。豚親父のツンデレ台詞とかクソキモうぜぇんですけど。


ゴードンの指示で俺のそばにいた兵士が手を繋いでくれた。男同志が手を繋ぐのはちょっと抵抗あったけど、地下から出てしまえば周囲の状況を察知出来なくなることを考えて素直にお世話になることにした。


「ウェンリー、馬鹿なことをしおって」


ゴードンとすれ違う際に呟いているのが聞こえた。


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