21 誘拐のすすめ
安心してください。
たぶん話数は飛んでおりません
ここは……どこだ?
気がつくと手足を縛られて床に突っ伏していた。
朦朧とする頭をなんとか働かせて記憶を辿る。
ゴードンの屋敷を出てからしばらくして、俺の進路を塞ぐように黒ずくめの人影が現れた。
いつの間にか背後にも黒ずくめの者がいて…そこで記憶は途絶えている。
気絶させられてどこかに連れられたって所だろうか。
クソっ、頭がズキズキする。
俺を攫うやつの心当たりをかんがえると真っ先に浮かぶ肥えたおっさん。
ゴードン、あいつしか考えられん。
部屋の扉が開いて誰かが入ってくる。
「ススム、で間違いないな」
「え、あの、ススムって誰ですか?」
男の声に対して震えた声で答える俺。
「とぼけるな、顔は割れている」
なんだよ確信してんなら聞くなよ。
自然と舌打ちが漏れてしまった。
「だったらなんだ」
「大人しくしていれば痛い目に遭わずに済む」
そういって男はトレーを床に置く。
よくは見えないが乗ってるのはたぶん食べ物みたいだ。
「どうやって食えってんだよ」
「這ってでも来ればいいだろ」
そう言い残して男は部屋から出ていった。
俺がいるのは部屋の奥側、対して男は部屋に数歩入ったところにトレーを置いていった。距離にして10メートル弱くらいはあるだろうか。そして両手足を縛られている俺。
正直いって腹は減っている。
だけど男の態度がムカついたからあの飯は食べない。絶対にだ。これは男の意地だ。
幸いにも俺には食料を確保する術がある。
ここはおそらく地下だ。周囲の土から自在に操れる気配をビンビンに感じる。
その気になればすぐに縄を切って脱出だってできる。
だがこれはチャンスだ。一連の黒幕を知るいい機会だ。今回の接触を逃す手はない。
なーに、いつでも抜け出せるんだ、まだ慌てるような時間じゃない。
それに飯の心配もない。なんせ俺にはキノコを生み出すという素敵な能力があるからな。
というわけで、とりあえず飯にするか。
カモーン!クエルダケ!
と念じてみるが全く生えてこない。というか、能力が発動するイメージが全く沸かない。
………ああ!?
そうだ、俺まだクエルダケ創ったことないじゃん。というか見たこともない。
そうだった。いつの間にかクエルダケの納品クエストをこなした気になってたけど、なんだかんだでまだやってなかった。俺が収入を得たのはヒカルダケの納品クエストだ。
くそ、てことは俺が今創造できるのは閃光キノコのヒカルダケと、麻痺キノコのシビレルダケだけかよ。オワタ、俺の完璧なディナープラン終了のお知らせ。今がディナーの時間かは知らんけど。
試しにシビレルダケとヒカルダケの2種を1本ずつ生やしてみたが…まぁ、腹が減ってるからって食えるもんじゃない。
捕まってるフリをするために縄を解くことはしたくなかったが仕方ない。
俺は地面から鋭利な突起を伸ばし、手足を拘束するロープを切った。
そして男が部屋に残していったトレーの前へ向かう。
男の態度が気に入らなかったから食わないと決めたが仕方ない。
俺は飯を食った。
腹が減っては戦はできぬ、この敗戦は明日の勝利のためだ。
ついでにドアが開かないかと試して見たけど、やはり開かなかった。
安全に地面から抜け出せるからわざわざここを使うことは無いけどね。
飯を終えたら自分で手足にロープを巻き付けて次のアクションを待った。
ドアの開く音で目を覚ました。いつの間にか眠っていたようだ。
部屋に入ってきた明かりを見ると、2つの人影が浮かんでいる。
1人はリユースコレクションの連中を彷彿とさせるようなワイルドな格好をした体格のいい男。
もう1人はひと目で良い仕立てだと分かる気品を感じさせる服に袖を通した華奢な男だ。
華奢な男がこちらに寄ってきて、俺を見下す。俺もじっと男を見返した。
「狂犬のお気に入りだというからどんなものかと思えば、冴えない男だな。おい、貴様は何者だ。どうやってあの狂犬に取り入ったんだ?」
見た目通りの偉そうな態度で俺に問いただしてくるが、俺は反骨心から答えなかった。
だいたい、さっきから言ってる狂犬って誰のことだよ。
相手も俺の目を見て、俺が答える気がないことを察したようだ。
「まぁいい。ゴードンはもう動き出してるようだしな」
「ゴードンが。また子供たちに何かする気か」
「子供たち?あぁあの私の馬車に飛び出してきた奴らか。街に蔓延る雑草のくせに私の馬車に傷をつけやがって腹立たしい。本当なら明日にでも全員処刑してやるところだったのだが、それも狂犬に邪魔されている。全くもって腹立たしいことだ。しかしそれも時間の問題だ。先生と一緒にいるところを見られたかもしれんからな、何がなんでも生かしてはおけん」
「私の馬車?子供を轢いたのはゴードンだろ」
「ふはは、そうだったそうだった。子供を轢いたのはゴードンの馬車だ。子供というのは素直でいいね。相手の名乗った名前を当然のように信じてくれる。いや実にいい」
「お前が轢いて嘘の名前を名乗ったのか」
「そうだ、我ながら素晴らしい機転だった。そのおかげでことがうまく事が進んだ上に、ゴードンまで消すことができるのだからね」
「ウェンリー卿、こいつはどうするんだ?」
「ティム!名前を呼ぶな!……まぁいい、こやつもどうせここで消えてもらうのだからな」
そういって華奢な男、ウェンリーは下卑た笑い顔で俺を睨む。
子供らの件はこいつの仕業だったのか。
元々それの解決を目的に動いていた訳だけど、なんかそっちがついでみたいに事の真相を知ってしまった。
ということはゴードンが黒幕というのは俺の勘違いだったってことか?
いやだとしてもあいつの態度とか行動とか怪しすぎだろ!
「そうだ。せっかくだからゴードンと貴様、一緒に始末してやろう。どちらを先にするか…やはり貴様か、目の前で友人を殺されるゴードンの顔はさぞかし愉快だろうよ」
「は?」
「なんだ?あまりのショックに悲鳴すらマヌケになったか。これは傑作だ」
「いやそうじゃなくて。なんで俺とゴードンが友人って事になってんだ?」
「いまさら何を誤魔化そうというのか。夜中に訪問するなど懇意の仲に決まっておろう。事実、あいつはお前が攫われたことを知って私兵を準備しているぞ」
「ゴードンが?俺を助けるために?」
「そうだ。お前の髪を送り付けてやったからな、すぐに察したのだろう。急いで兵を集めてもうこちらに到着している」
「あいつら、こっちの切り札も知らずに建物囲んで勝った気でいやがるぜ」
「いや、冗談抜きでそんなことしてもらう義理なんてないんだが…」
100歩譲ってゴードンが黒幕じゃなかったとして、なんで俺なんか助けに来るんだ。むしろ敵対してるまであるってのに、本気でわからないんだが。
いや、俺のことなんか別に気にしてないのかもしれない。
自分の命を狙ってる奴に都合よく喧嘩を売られたんだ。そりゃ打って出るだろ。
それで俺も死ねば一石二鳥ってか。
ここらが潮時だな。
子供らを陥れようとしている犯人はわかった。
ゴードンが仕留めてくれればそれでよし。そうじゃなくても相手がわかっていれば出直せる。
俺は緩めに巻いておいた手足の縄を解いて立ち上がった。
「なっ!こいつ。下がれっ!」
俺の行動に咄嗟に反応したウェンリーの連れは、ウェンリーを突き飛ばして俺から遠ざける。
配慮のない押し出しを受けたウェンリーは勢いよく後ろに倒れ込む。
だがそこには俺が気まぐれで生成した2本のキノコが生えている。
人1人分の重みを受けたヒカルダケは凶暴な閃光を撒き散らした。




