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01 土の中にいる


『土の中にいる』


と言っても生き埋めになっている訳では無い。周囲には不自由しない程度のスペースと心ばかりの灯りがある。灯りといってもライトやランプがある訳じゃない。だけど不思議と視界は良好で周りを見通すことが出来た。見通すほど広くないけどね。


突然、眩い光に襲われたと思ったらいつの間にか禍々しい空間を漂っており、なんか魔王がどうとかなどと一方的に聞かされた記憶が朧気にありつつ、気がついたらこの有様という訳だ。



妄想レベルにありえない事ではあるが、ひとつの可能性は脳裏に浮かんでいる。いやほんと、こんな事考えてること自体が恥ずかしいくらい信じ難いことだけど。


なんにせよ、ここから抜け出さないことにはどうにもならないな。



と、俺は手元に一冊の本が転がっている事に気づいた。表紙には見たことも無い模様が書かれていたが、不思議とその文字を理解することが出来た。


表題は『ダンジョンマスターのすすめ』。手のひらサイズで2cm程の厚みがある。


とりあえず開いてみる。1ページ目は前書き、2ページ目は目次となっていた。


前書きの内容を一言に要約すると「レッツ エンジョイ ダンマスライフ」だ。ずいぶんとポップな文章で自己啓発本の如く励ましの言葉が綴られていた。


パラパラと流し見する。序盤はチュートリアル、中盤は細かな説明や応用編、解説、図鑑などのようだ。


とりあえずチュートリアルに目を通す。レッスン1は「穴を掘ろう」だ。


説明によると、ダンジョンマスターは思い描く通りにダンジョンの構造を操ることができ、念じるだけで地面を掘ったり、灯りを灯すことができるとある。


完全に魔法の類だな。


非現実的だが、まぁ状況が状況だけにあまり疑いの気持ちも沸かない。


とりあえず試してみるか。


説明には念じるだけと書いてあったが、気分的に手を掲げて狙いをつける。


目指すは上だ。


外の景色を見ればここがどこだかのヒントは得られるかもしれない。


右手を天井にかざして穴を掘るという気持ちを込める。


あ、掘った土が落ちてきて生き埋めなんてことないよね?


なんて一瞬の不安を他所に、土はあとかたもなく消え失せて頭上には綺麗な円柱状の縦穴が生まれた。


すげぇ、ほんとに念じるだけで穴が掘れた。


現実離れした現象に俺の確信は一歩前進。胸中ではワクワク感と、夢であって欲しい気持ちが入り交じっている。


穴を掘ることが出来たってことは、俺はこの本に載っているダンジョンマスターってことでいいのだろうか。


掘るってよりは、土を消滅させたって感じだ。小さな穴の向こうには満天の星空が広がっている。外は夜みたいだ。


そして肝心の地上だが、掘った縦穴の長さは目測2mくらいありそうだ。さらに今いる空間自体の天井が2mくらいだから、ここはだいたい地下4mくらいの場所ってことか。割と浅い所にいるみたいでよかった。


今掘った縦穴を上るのはどう足掻いても無理だ。

仕方ない、斜め上に掘り進んでいくか。


「あっ…」


不意に聞こえた声に頭上を見上げと、こちらに向かってパンツが迫ってきていた。失礼、女性と思しき脚が迫ってきていた。


『親方、空から女の子が!?』なんて言う暇もなければ、その女の子の体重がりんご4個分なんてこともなく、一般成人男性と比べて下の中程度の腕力しかない俺が4mの高さから落下して来る女性を受けきれる道理などあるはずもなく…なんの抵抗も出来ないまま下敷きになった。


いい膝を鳩尾にもらって呼吸が止まる。痛い、痛いなんてもんじゃない、痛すぎてものすごく痛い、息ができない。夢なら痛くないはずなのに。夢なら覚めてもいいくらいの衝撃のはずなのに。どうして夢から覚めないんだ。俺に認めろというのか、これが現実だということを。


必死に酸素を求めながら未だに自分にのしかかっているそれを見上げる。


相手もこちらを見つめていて目が合った。


顔が近い、少女は頬を染めて小さく声を上げた。


悪いが俺はそのラブコメには乗ってやれない。顔の近さに頬を染める事も、湧き上がるトゥンクから起こる動悸も、恋に落ちる余裕もない。そして偶然にも胸を掴んでいるなんて事もない……最後のはあって欲しかった!何やってんだ俺の右手!?


そんなわけだから早く俺の上から、未だに腹に据えている膝に体重をかけないようにゆっくりと早く降りてくれ。


「と、とりあえず…降りてくれないか…」

「これは失礼致しましたわ」


この状況にそれほど表情を変えていない彼女は俺の上から体をずらす。


「ぐえっ」


慌てなくていいから、怒ってないから、頼むからゆっくり慎重に降りてくれ。


復活した呼吸で必死に酸素を取り込みながら体を起こし、改めて彼女を見る。


肩を超えるブロンドの髪に整った顔立ち、高級そうなドレスを纏ったその姿はどう見ても日本人ではない。こんなほら穴など似つかわしくない、絵に描いたようなお姫様がそこに立っていた。


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