14 傷心のススム
怒られた。
そりゃもうめちゃくちゃ怒られた。
冒険者ギルドで怒られて、リユースコレクションでも怒られた。
ちょっと泣きかけた。
俺が集めて…というか育てて納品しようとしていたのは『クエルダケ』ではなく『ヒカルダケ』。
衝撃を与えると閃光を放つ。
素材としての価値もあるのだが、危険指定素材のため、冒険者ギルドの建物裏の納品専用の受付所でしか納品を受け付けていない。
受付カウンターで納品でもきるものは一部だけで、基本的にはすべて専用の受付での納品になるんだと。
そうとも知らずにそんな危険なものを人の集まる建物内で広げたらそりゃ騒ぎになる。ついでに誤爆までさせたとなると軽いテロ行為だ。
元はと言えばあの男が俺に間違ったキノコを教えたからいけないんだ。
なんて言い訳は言う暇もなかった。
ちなみにその男だが、俺がキノコを爆発させた際に他の人らと一緒に倒れているのをみかけた。
今日はよく会うな。ま、そいつは自業自得ってことで。
そんなこんな、一日を振り返りながらリユースコレクションで飯を食っている。
今日は昨日ほど騒がしくはない。昨日はたまたま人数が多かったようで、全員が毎日帰ってくるわけではないという。
「はぁ…」
溜息をつきながら飯をつつく。昨日もそうだったが、ここの飯はほぼ肉オンリーの豪快な焼き料理だ。
「人の作ったもんをため息つきながら食うんじゃねぇよ」
と、自分も溜息をつきながら言うのはここの料理長兼ギルドマスターのアーヴァイン。
文句を言ってくるその顔を見あげて、もうひとつため息をついた。
「ため息をつきたいのはこっちだ。まったく、姫さんも飛んだ問題児を連れてきやがったな、なあおい」
「ごきげんよう、ススムさん」
噂をすればなんとやら、俺をここに紹介した張本人、クレイが店に姿を見せた。
今日はマントで姿を隠すことなく、初めて会った時のようにドレスを着ている。
クレイは他には目をくれず、まっすぐに俺の隣の席に座った。
「今日は大変だったようですね。街で噂になっていましたよ」
「あぁ、まったく災難だった」
「自業自得だろうが」
こちらに目を合わせず独り言のようにボヤくアーヴァイン。無視だ無視。
「そうだ、まだお礼を言ってなかった。ここを紹介してくれてありがとう。とりあえず飯に困ることはなくなったから助かるよ」
「いえ、ススム様のお力になれたのなら幸いです」
知らぬ間にリユースコレクションに加入してしまっていたのは不本意だが、飯の心配がないのは本当にありがたい。
「あの、ススム様は明日もクエストを受けられるのですか?」
「あー…そうだな。決めてないけど、そうしないとな。飯はクレイのおかげで心配ないけど手持ちが全くないのも心許ないし。服なんかも買わなきゃな」
俺の装備は廃教会で拾ったボロマントだ。リユースコレクションの連中は服も見た目も小汚いのが多いからこれでも違和感はないけど、やはり街ではちょっと周りの目が気になる。ここの連中と一緒に見られるってのも嫌だしな。
こんな野蛮な連中、俺とは絶対に合わない。
「あの、よろしければご一緒してもよろしいでしょうか?」
「ん?俺のクエストに?一緒に?」
「はい」
「んー………」
「ご迷惑、でしょうか」
俺が悩んでいるのを見てクレイが表情を曇らせていた。
「あぁいや、ごめん。クレイが迷惑とかじゃなくて、むしろ俺が足を引っ張るんじゃないかって考えてたんだ。俺、全然戦えないからさ。初級の採取クエストでもしようかと考えてたから、クレイが美味しくなかったりつまらなかったりするかなって」
「そんなことありません!」
急にずいと顔を寄せるクレイ。お酒のせいか、顔が赤い。
何をそんなに意気込んでいるのか、睨みつけているかとも思えるような力んだ目でまっすぐに俺を見つめる。
「是非ともご一緒させてください!」
「お、おぉ…わかった」
「ありがとうございます」
勢いに押されて返事してしまった。
まぁ元々断る理由もないし、ついてきてくれるんならむしろありがたいんだけど。
こうして翌日はクレイと一緒にクエストにでることとなった。