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13 納品のすすめ

あっ!草むらから野生の盗賊が飛び出してきたぞ!


もとい、そいつは昨日、酒場でいの一番に絡んできた小柄な男だった。

今は残念なことに同じギルド:リユースコレクションの仲間だ。


時間をおいて、場所を変えて、改めて見てもやはり小悪党にしか見えない。

こんなのと仲間とか、無意識にため息が漏れる。


「で、何やってんだお前」

「へっへっへ」


男はナイフの直撃を受けた尻を擦りながら下衆な笑いを見せている。


「なぁ、お前――」


話しかけつつ1歩前にでた。すると男は1歩分飛び下がった。


何してんだこいつ。


「あのさ――」


やはり俺が1歩前に出るとそれに合わせて1歩下がる。


常に俺と一定の距離を保ちたいのか?理由はわからんが。


だったら、


俺はもう3歩前に出る。男も変わらず3度後ろに飛び下がる。

そして俺は一気にダッシュした。

男は驚いた顔をして後ろに飛ぶが――


そこにはすぐ真上に太めの木の枝があり、面白いくらい俺のイメージ通りに自ら頭を打ち付けた。


男が墜落した隙に目の前まで詰め寄る。


「うーん………いででで。はっ?!うわぁぁぁぁ!!!」


俺が目の前にいることに気づいて後退ろうとするが、あいにく後ろは今しがたぶつかった木が立っている。男はめいいっぱい幹に背中を押し付ける。


「何がしたいんだお前…」


男は返事を返さずに怯えた目でじっとこちらを見ている。


「はぁ、まいいや。おまえさ、クエルダケってわかる?この辺に生えてるらしいんだけど」


男はあたりを何度か見回したあと、いつもの卑しい笑みを浮かべながら震える手で横を指さした。そっちを見ると木の根元にキノコが生えている。


「あれか、サンキューな」


キノコを1本抜いて観察する。細めの胴に、大きめに開いて外周だけ少し内に巻いたかさ、色は黄色だ。色はあれだが形だけいえばまんまシイタケだな。いかにもキノコって感じのキノコだ。実にキノコキノコしている。


「よし、んじゃ行くか」

「依頼、キノコ20個」

「あぁ、わかってる。とりあえず1本とれれば大丈夫だ」


1本あればいくらでも増やせる。そう、ダンジョンマスターならね。




始まりの場所、崖の上のねぐらに戻ってきた。


俺の手元には採取してきた1本のクエルダケ。


ちなみに大量発生したシビレルダケはすでに掃除してある。掃除といっても、念じて消すだけだから一瞬なんだけど。


キノコを床に置いて念じると、地面に吸い込まれるように消えた。

大丈夫だ、ダンジョンにキノコの存在を感じる。

焦る必要は無い、ゆっくりだ。


1度大きく息を吸い込み集中。明確なイメージが浮かぶ。それを現実へと手繰り寄せる。


そして――



ポコッ♪



ポップな音と共に床からキノコが顔を出した。成長過程はない。イメージしたとおりの成体が地面から飛び出した。


「おー」


リリは抑揚の少ない感嘆の声を漏らす。今日の半日で感情の揺れがまったく感じられなかったことを考えると相当驚いているとみていいかもしれないな。なぜだかちょっと嬉しい。


「キノコのこのこ元気だほいっ!」


と、謎の呪文とともに手をかざし、2本目、3本目とキノコを増やす。


リリが感動してくれるから、ちょっと調子に乗っておどけてみたり。子供が喜んでくれるのってなんか嬉しいよね。


ダンジョン内ならば元手が1本あれば無限に増やすことが出来る。


まさにチート級能力。インフィニティキノコ!アンリミテッド栽培キット!


………ちょっと悲しくなった。私のチート地味すぎ。


床に生えたきのこは全部で30本くらい。

そこから20本を採ってかごに入れ、ギルドへ納品しにいく。


「お願いします」


渡されていた受諾書をカウンターごしに受付嬢に渡す。


「クエルダケの納品ですね。良ければこちらで受け取ります」

「わかりました。では」


キノコの入ったかごをカウンターの上に置く。


「はい。………え、………はい?…………………きゃあああああ!!!!!」


笑顔でかごを受け取った受付嬢だったが、中を確認すると理解できないといった表情を浮かべ、それから絶叫した。


ギルド事務所、冒険者、そこにいた全ての者の注目がこちらに集まる。


なんだ?キノコに虫でもついてたか?


「どうした!?」


駆け寄ってきた男性ギルド員が受付嬢に問う。


受付嬢は震える手でキノコを指差す。


「これは、ヒカルダケ。それもこんなに大量に。お前!どういうつもりだ!」

「え、これクエルダケじゃないの?」


そういってカゴからキノコをひとつつまんで改めて観察する。クエルダケを知らないから真偽を確かめるわけじゃないけど。そうか、これはヒカルダケっていうものなのか。いろんな角度から眺めてみて、嗅いでもみる。うん、土臭い、採れたての証だ。


「何してる!触るんじゃない!ゆっくり戻すんだ」


ギルド員の男は半ば脅すように強い口調で指示してくる。

いつの間にか周囲の冒険者の何人かも俺に武器を向けている。

よく分からんが、たかだかキノコがなんだってんだ。


逆らってもいいことなさそうなので、言われたとおりにカゴに戻そう。


―と、鼻がむず痒い。嗅いだ時に胞子でも入ったか?


こりゃ出るな。


「は……へぁっ………へっぶし!」


やはりくしゃみは気持ちよく豪快でなければならない。たとえそれが人前であろうと、テスト中であろうと、葬儀の場であろうとだ。汝、くしゃみ我慢することなかれ。


あっ……


くしゃみの勢いでキノコは俺の指から離れ、宙を舞う。

回転しながら放物線を描き、元あったカゴへ、仲間たちの元へと収まった次の瞬間――



冒険者ギルドは爆発的な眩い閃光に包まれた。

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