12 初クエストのすすめ
11話も更新してます。お間違えのないように
みたいな前書きよく見るので真似て注意喚起してみたり
冒険者ギルドへの登録を終えた俺はリリの案内で、壁一面に広がる掲示板を眺めている。
掲示板には依頼書と思われる紙がいくつも貼られており、集まってる冒険者らはそこから紙を剥がして受付へ持っていっている。
おそらくこの中から好きな仕事を選んで受けるシステムなのだろう。
「どれにする?」
リリが俺を見上げて問いかけてくる。
どれと言われても、どんなものがあるのかさっぱりわからん。
「そうだな、おすすめはどれだ」
リリが掲示板を眺め、指差す。
「あれ、盗賊団の殲滅、でっどおああらいぶ」
「いや、他のにしよう。他にはないか?」
「凶悪犯の捜索、でっどおああらいぶ」
「いや、他だ」
「紫竜ドライゴスの抹殺、でっどおんりー」
「OKリリ君、『デッド』は禁止だ」
「リリ、でっどしかできない」
さらっと恐ろしいこと言うなこのちびっ子は。
穏やかで気の抜けた声で言われようとデッドはデッドだ。
モンスターを倒したりというのは憧れるけど実際やるとなると心の準備が必要なようだ。
ましてや人と命のやり取りなんてごめんだ。伊達に平和の国、ジャパンで20年以上生きちゃいない。
「ススム、何が出来る?」
「え?」
「ススムは何が出来る?」
「俺はな、穴を掘るのが得意だぞ」
「穴?」
「ああ。それとキノコの栽培だな」
「武器は?」
「持ってないし使ったこともない。はっきり言って戦えないぞ」
「戦えない人、足でまとい」
「リリは難しい言葉を知ってるな。偉いぞ。そうだ、俺は足でまといで役立たず、甲斐性なしの不甲斐なしだ」
そう言いながらぐりぐりとリリの頭を撫でた。
成り行きでなった冒険者だったがやはり戦えないと厳しいか。
妄想の中でならかっこよく活躍する自分の姿が浮かぶんだけど、現実的に考えるとモンスターに勝利してる自分の姿は想像出来ない。
テレビで野生動物の姿を見た時には『頑張れば勝てるんじゃね?』とか思っていたが、実際に動物園でライオンを見た時に、想像より2まわり大きかった胴回りにビビって敗北を確信したもんだ。
と、カウンターでやり取りしている者の声が耳に止まった。
「お願いします」
「はい、いつも精が出ますね」
「これしか取り柄がないもので」
「いえ、とても助かります。冒険者の方は戦闘ばかりに身を置く人が多いですから」
男が受付嬢に渡したのはキノコの入ったカゴだ。
ていうか、あの受付嬢かわいいな。対応もとても丁寧だ。俺のギルド登録を担当してくれたお姉さんとはまるで違う。同じ服を纏っているのに印象が全く違う。美女と野獣だ。
おっとっと、重要なのはそっちじゃない。男の方だ。
ウケを狙っているのかは知らないが、キノコみたいな髪型のヒョロい体つきの男はキノコを納品していた。
冒険者の仕事は何も魔物や悪人と戦うだけというわけではなさそうだ。いわゆる採取クエストというやつだな。
他にも便利屋程度の仕事なんかもあるかもしれない。犬の散歩とか。
なんて事を思いつつ掲示板を眺めるが、どれもこれも物騒なDEAD or ALIVEばかりだ。
「なぁ、薬草を集める仕事とかってないのか?」
「こっち」
リリは掲示板に沿って左側に移動する。それに付いて俺も掲示板を流し見する。
明らかに依頼の難易度が下がっていく。
これ、左から難易度順に並んでるんじゃないか?
1番多く人が群がっているのは掲示板の真ん中、左側にもぼちぼち、そして俺たちの見ていた右側にはほとんど人がいなかった。
つまり俺は高難易度の依頼一覧を見せられていたようだ。
リリの中で俺の評価はどうなってるんだ。お子様ともやしっ子で竜退治とかむしろ餌やりだぞ。
さて、低難易度のクエストはどうだろうか。
『薬草の収集』『荷物の運搬』『魔物解体の補助』『飲食店調理』『引越し作業補助』、色々あるじゃないか、なんか現代で聞きなれたバイトみたいなノリのもあるけど。冒険者のクエストというより、ただと求人板と化してるな。あ、散歩依頼もあった。ドラゴンマルマジロってどんな生物だ?
お、あったあった。
1枚の依頼書を凝視する。キノコ採取の依頼だ。
依頼書には『クエルダケ』と書いてある。文字しか書かれてないのでどんなキノコかわからない。
「リリ、クエルダケって分かるか?」
「わかる」
「そうか」
わかると言うならリリに見分けてもらおう。
さっそく依頼書を掲示板から剥がしてカウンターへ。
さっき作ったばかりのギルド証を見せるとすんなりと依頼受諾となった。
というわけで、ギルドで聞いたクエルダケの群生地だという森へ来た。背中にはレンタルした籠をしょっている。
森と言ってもそこまで木が密集しておらず割と明るい。ちょっとピクニック気分だ。
さて、木や茂みの根元を探してみるとすぐにキノコが見つかった。
「これがクエルダケか?」
引き抜いてリリに見せる。
「わかんない」
「は?」
予想外な答えに一瞬固まってしまった。
「いや、お前が知ってるって言うから来たんだが」
「リリ、クエルダケ知ってる。食べたことある」
「おい……」
知ってるってそういう意味かよ。
これから探しに行くってクエスト見ながら聞いたんだからそれくらい分かるだろ。
なんて事は口には出さなかった。こんな小さい子を気が利かなかったという理由で責めてどうすんだと思ってため息ひとつで飲み込んだ。
とはいえ、どうするか。
兎にも角にも物がわからなければどうにもならない。
誰かに聞こうにも周囲に人影もないし、一旦戻って現物を確認するしかない。
「しかたない、一旦街に戻――あれ?」
目の前にいたリリがいない。
振り返るとリリは俺の後ろに立っていた。
「どしたんだ?」
「拾った」
リリは手に持ったナイフを見せる。
「落ちてるものなんでも拾っちゃダメだぞ。危ないだろ」
「うん、危なかった」
「ん?まぁいいや。とにかく目的のキノコがわからんから一旦戻るぞ。はぁ、誰か聞けるやつがいれば良かったんだけど」
「聞く?」
「誰かいればな」
「聞く」
何が言いたいんだ?
リリは言葉足らずな単語口調だ。イントネーションや雰囲気で言わんとすることを予想して会話してるが、なんせ半日の付き合いだ、何を意図しているのかわからない事も多い。
見るとリリは森の一点を指さしていた。
そちらに目をやるが、茂みしかない。
「あっちがどうかしたのか?」
俺が疑問を投げると、リリはナイフを投げて応えた。
「あいでっ!?」
ナイフが茂みに吸い込まれると、代わりに男が飛び出してきた。
男は尻に刺さったナイフを抜いて傷口をさすっている。
「何やってんだお前」
「へっ………へっへっへ」
小人のような風貌に卑しい目付きと笑い声。その男は昨日、酒場で俺とアイリーに絡んできた奴だった。