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11 冒険者のすすめ

「オラァ!てめぇら!もうお天道様は昇ってるぞ!さっさと仕事に行きやがれ」


全身に堪えるがなり声に叩き起される。


頭痛が痛い……胸がグルグルする……


周囲を見ると柄の悪い男達がのそのそと立ち上がって日の射す方へと出ていく。


あぁ、思い出した。


昨日はここで飲み明かしたんだ。


クレイに連れられてここにきて、山賊みたいなヤツらに囲まれて、恐いしノリについていけないしで嫌になってたらふく酒を飲んだんだった。そこから先は覚えてない。


「ほら、おめぇもシャキッとしないか」


アーヴァインは俺を猫でもつまむように持ち上げると椅子に乗せた。脱力しきっててそのままテーブルに突っ伏する俺。


「ったくしょうがねぇなぁ」


アーヴァインは俺の頭を鷲掴みにした。するとその手から何かが体に流れ込んでくる。


「ふぁっ、ふぉおおおおお」


力が漲るような、それでいて抜けていくような、矛盾が循環するような初めての感覚に変な声が出た。


「気味わりぃ声出すんじゃねえよ。で、どうだ」

「どうだって何が………あ、頭が痛くない。すげぇ!」


頭痛も胸焼けもきれいさっぱり消えていた。


「今の、魔法か?」

「それ以外に何があるってんだよ」


呆れたように返事を返された。


そういえばクレイと初めてあった時も魔術というワードが出てたな。


こんな猪突猛進しか脳のなさそうな筋肉ダルマが回復魔法を使えるんだ。この世界の魔法はさぞかしポピュラーで簡単なんだろうな。


そう考えると穴しか掘れない俺の特技ってクソ雑魚なめくじなんじゃなかろうか。あ、あとキノコ生やせる。


こちとら右も左も分からない異世界転移者だぞ。チート能力のひとつくらい寄越せってんだ。


「寝惚けてねぇでお前も行ってこい」

「行くって、どこへ」

「冒険者ギルドだよ。冒険者になるんだろ」

「誰が?」

「お前がだ」

「お前って、ススムさんが?」

「他に誰がいるんだよ。うちのギルドに入って冒険者やるって言ってただろ。覚えてないのか?」

「えぇ全く。………え、は?このギルドに入る?」

「そうだ、お前はもうリユース・コレクションの一員だ」

「俺が山賊一家に入るだって?はは、冗談は顔だけにしとけよおっさん。え、いや、え……嘘だろ!どうしてそうなった!」

「いちいちうるせぇやつだな。もう何でもいい、あとは任せたぞ」

「おい待ておっさん!入団は取り消しだ!俺はこんな悪党集団入らねぇぞ」

「悪いがキャンセルは受け付けられねぇ。姫にお前を任されちまったからな。姫と知り合ったのが運の尽きだ、お互い不運だったな」


アーヴァインはそう言い残して店の奥へと行ってしまった。



どうしてこんなことに!?


思い返しても昨夜のことは全く思い出せない。


冒険者になるというのは正直いってやぶさかではない。異世界に行ったら冒険者になる、これはお約束だし俺自身もこっちの世界に来てからずっと頭の片隅にはあった。


だけどこんなむさ苦しい集団に加えられるのはゴメンだ。


冒険、無双、ハーレム


これが異世界転生ものの三本柱だ。


それが今の状況はどうだ。


暴漢、むさい、ハーゲムじゃないか。ハーゲムってのは『ハゲのハーレム』のことだ。俺が今作った。三大要素のどこをとっても野郎しか出てこねぇ!


終わった、無双とハーレムのない冒険なんて皮とクリームのないシュークリームみたいなもんだ。


――――何も残らねぇじゃねえか、くそっ!?



ん?


緑髪のショートカットの少女がこちらをじっと見ていた。サイズ的に幼女と言ってもいい。ローブを着用し、その容姿には不釣り合いな大剣を両手で大事そうに抱きかかえている。身長と同じくらいあるんじゃなかろうか。幼さゆえにふっくらしたほっぺが柔らかそうだ。思わず手が伸びそうになったが自重した。イエスロリータ・ノータッチ、紳士の嗜みだ。


「どうした少女よ。ここはむさ苦しいオーク共の巣窟だ。君みたいな可愛い子は来てはいけないよ。森へおかえり」

「リリ」

「リリ?お嬢ちゃんの名前かい?ちゃんと名乗れてえらいな。さあ、凶暴なゴリラたちが帰ってくる前に家に帰るんだ、お前にも家族がいるだろう」

「家族はいない、一緒にギルドに行く、頼まれた」

「頼まれた?」

「頼まれた」


淡々とした口調で単語で会話をするリリ。図太さを感じさせるジト目には多くは語らないという意思がこもっている…ように感じた。


「ついてくる」


リリは俺の同意を待たずに店を後にする。


「おい、ちょっと待てって!」


扉の先まで移動したリリはじっとこちらを見てくる。俺の話は聞く耳持たずだ。俺は仕方なくそのあとを追いかけた。



特に会話もなくリリの後ろをついていく。


昨日の夜はあんなにも恐ろしく見えた街だったが日の昇った時間に改めて見ると他の通りとさして大差はないように思えた。


緊張のせいだったのか、それとも夜の店が開くとまた様相が変わるのか。


そもそも昨日ここを通った時の時間もわからないしな。カラスが鳴く時間には帰るようにしよう。



歩き続けること15分ばかし、白壁造りの大きな建物に着いた。これが冒険者ギルドなのだろう。武器を携えたそれっぽい格好の人達が往来している。


可愛い子や感じの良さそうな人達も多い。やはりリユースコレクションは群を抜いて人相の悪いのが集まっているんだろうな。


そんな中にどうしてリリみたいな幼く可愛らしい子がいるんだ。猛獣の檻にヒヨコが迷い込んでるようなものじゃないか。何かあった時には俺が守ってあげよう。


建物の中はロビーのように広くなっており、カウンターと掲示板が備えられている。なんだ、酒場は併設されてないのか。


「ススム、こっち」


そういってリリは一番端の人気のない窓口に駆けた。俺も歩いてあとに続く。


「おう、リリの連れか?」

「そう、リリの連れ」


窓口にいたのは赤髪を三つ編みにした褐色の女性。つり上がった目をしていて時折見える八重歯が牙を連想させる。白シャツに赤いベストを羽織っている。奥に見える人達も同じ格好をしているから冒険者ギルドの制服なんだろうけど、なんだろう、他の人からは落ち着いた清楚感を感じるがこの人だけ雰囲気が違うように感じる。ボタンを外して袖をめくり、とてもワイルドだ。


「はじめまして。私はウィチタだ」

「ススムです」


名乗られたので軽く会釈した。


「リリ、お前の窓口はあっちだろ」

「今日はこっち」


そういってリリはウィチタに1枚の紙を渡す。


その紙を見たウィチタは顔に渋さを滲ませて俺を上から下まで凝視する。


「あの、なにか?」

「ふーん、あんまり悪い事してるようには見えねぇがなぁ。ま、人は見かけじゃないしな。ちょっと待ってろ」


そういって席を立ったウィチタ。


しばらくすると戻ってきて1枚のカードを差し出した。


「これは?」

「なんだ、初めて見るのかい?これはギルドカードだよ」

「へぇ」


手に取ってみた。


免許証サイズの黄土色の小さなカードに名前とギルド名、他にも記号のようなものと紋章らしきものも羅列している。


「こっち」


リリはとてとてと小走りで駆け出す。


「あっ、おい。ありがとうございました」


俺はウィチタに礼を言ってリリを追いかけた。


無口な割に忙しない子だ。


着いた先は壁一面に広がる掲示板だった。

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