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99 モグネコの過去 2

とりあえず俺が襲われたのは偶然、たまたま2人が殴り合おうってところのちょうど間に俺の方が転移してきたって事だ。なんつータイミング。


右を見れば、俺がダンジョンに隔離した人達。左を見ればモグネコ族達。雰囲気的にも明らかに対立している構図となっている。


それぞれから俺の登場に対してのリアクションがあがっているが、モグネコ族は歓迎と困惑が半々、人間側からは嫌悪ムードが感じられる。


「勇者!勇者じゃねえか!」


ルルに張り倒されたタイショーが俺を見つけて声を荒らげる。


「てめぇ!てめぇだろぃ!人間を!てめぇ!どういう了見でい!?」


何回『てめぇ』って言うんだよ。興奮しすぎて全然文章になっていない。


「勇者だと!」


ミスティに倒された人が俺を見つけて声を荒らげる。


「勇者!貴様!貴様っ!こんな場所に!貴様!勇者!貴様ぁ!」


何回『貴様』って言うんだよ。なにこれ2人で俺を挟んで、新手の音ゲーか?


「なんだようるせえなぁ」

「黙らせるわ」


そう言うやいなやルルは鞘で躊躇なくタイショーを殴りつけた。

地面にめり込みピクピクと痙攣するタイショー。

こわっ、人ってこんなに躊躇いなく誰かを殴れるもんなんか?


「あなたも黙るです」

「きさ…はなっ!?はおあ!ほらは!」


ミスティは特に何かした様子は見えなかったが、反対側で騒いでいた男は急にアゴを抑えて悶えだした。


睨み合う両陣営を見渡して―――説明を求めるならこの人だろうな。


「で、村長、こりゃどういう状況だ?」

「勇者殿……それは…その、なんと言えばよいのやら」


村長は気まずそうに言い淀む。何か後ろめたい事でもあるんだろうか。


「全部………」


ルルにやられたタイショーが必死に体を起こしながら訴えてくる。


「全部…お前のせいだろうがぁ!お前が人族なんて連れてくるから!お前のせいで、ミケが襲われちまったんだろうが!」


それを聞いて、モグネコ族側にいるミケを見る。集団の中でも、ミケだけが人族に近い容姿をしているのですぐに目に留まった。ミケは俺と目が合うとビクリと体を震わせて大人の影に隠れた。


「そうなのか?」


村長に話を振る。


「………その通りですじゃ。それまでも小さな衝突はあったのじゃが、ミケの事があって、人族達が押しかけてきて、今に至っております」

「ちょっと、それじゃ私達が悪いみたいじゃない」


人族側から声を上げたのはシスターの格好をした女。たしか、教会に逃げ込もうとした時にアイリーと言い合ってた感じの悪い奴だ。


「こっちは怪我人がでてるのよ。奴隷種族が人間様に手を挙げて、もっともらしいこと言ってんじゃないわよ」

『そうだそうだー』『なにさまのつもりだー』


シスターに協調して後ろのやつらも好き勝手に野次を飛ばす。


「うるせー!てめぇらこそ何様のつもりでぃ!」


タイショーが言い返すが、こっちは同族からの後押しはない。モグネコ族達は耐えるように俯いて黙っている。



なんだろう

なんでモグネコ族は言い返さないんだ?

被害者なんだろう?

なのに好きかって言われて、なんで黙ってんだ?

絶対的な上下関係でもあるみたいに

我慢するのが当然のように


この光景はなんていうか―――――気持ち悪い



あぁそっか、ムカついてんだ俺。

一方的に好き勝手ほざいてるコイツらに腹が立ってんだ。

もしかしたら、そこまでされて黙り込んでるモグネコ族にもムカついてんのかもしれない。

なんか、自分でも自分の感情がよくわからない。

ただ、今この状況、この現状、この瞬間がたまらなく嫌だ、不愉快だ、イライラする。


「黙れ………………うるせぇつってんだろうが!?」


ストレスの限り、地面を蹴りつける。

怒りにも似た俺の心の内を吐き出すように周囲の至る所から尖った石柱が飛び出した。

その轟音にのまれて、さすがに全員が静まり返った。


「俺が話を聞く。代表者だけ残れ。それ以外は解散だ」


俺の声は全員に届いたと思うけど、誰も動こうとしない。特に人間側は、他の人がどう動くか伺うも誰も動かないから自分も動けないって様子だ。

俺もちょっと衝動的に脅すような感じになっちゃったしな。皆がビビってしまうのもしょうがない。


「あ……あとから出てきて、何勝手に仕切ってるのよ」

「あ?」


声の主は人間側のシスター。少し声は震えているけど、反抗的な目付きで俺を睨みつけている。


「これは私達とこいつらの問題でしょ。あなたには関係ないんだから、出しゃばらないでよ」


でしゃば……こいつ…………落ち着け俺、深呼吸だ。


………ふぅ~


大丈夫落ち着いた。


みんな興奮状態だからな、仕方ない。第三者の俺が冷静でいないと収拾つかな―――


『そーだそーだ!こんなとこに閉じ込めやがって』『元はと言えばてめぇのせいだろうが!』『王都に帰せー!』『誘拐犯!』『だっせぇ仮面つけやがって』


再び浴びせられた野次に、俺の中の何かがプッツンした。


「黙れクソ共があああああああ!!!!!!助けてもらっといて誘拐犯?閉じ込められた?なんじゃそら!!!ふざけんな!!!マジで言ってんのか?ああっ!?ふざけんなよ!!ふざけんなよ!!!ああああああ!!!」


抑えようのない怒りに体が震える。気持ちのままに叫んで、地団駄を踏むように地面を蹴りつけるがイライラは全然減らない。

なんだ?俺が悪者か?俺が悪いんか?こいつらと喋ってるととにかくイラつく!


「ススム様」


頭に手を回されたかと思うとそのまま引き寄せられ、顔が極楽の沼に沈む。


「どうか、落ち着いてください」


聞こえてくるのは、柔らかな声と、あたたかい心音。

急な事態にも関わらず、まるで抵抗する気が起きない。

甘い香りに、怒りは荒らげていた息と共にゆっくりと消化されていく。


「落ち着かれましたか?」


シスターアイリーが優しく問いかけてくる。


はい、お乳着かれました。ぁいや、落ち着きました。

気持ちが落ち着いてくると、今度は今の自分の状況を思って違う感情でまた鼓動が早くなっていく。


「すすすすみません、もう大丈夫です落ち着きました」


アイリーの胸から抜け出して気持ちを落ち着かせる。落ち着いたとは言ったけど、あんな体勢で落ち着くわけが無い。けど怒りは落ち着いたから、つまり落ち着いたわけだ、俺は気持ちを落ち着かせる。

もう自分で何言ってるかわかんねえ、落ち着け俺。


とりあえず咳払いひとつ。


「ごほん。とにかくだ。ここは俺の場所だ。そしてモグネコ族は俺の管理下にある。そしてあんたらも俺がここに連れてきた。そしてこの争いに関しては第三者だ。つまり、仲介するなら俺しかいないって訳だ、ユーノウ?。つべこべ言わずに代表者だけ出てこい」



こうしてようやく、本当にようやく、一触即発…というか既に爆発していた人族側とモグネコ族の話し合いの場がセッティングできた。

結果的に1番爆発したのは俺だった気もするが―――


はぁ………疲れた。俺、良い人過ぎるのでは?

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