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98 モグネコの過去 1

ピンスモグダンジョン最深階層。ラスボス部屋よりも、その先の報酬部屋よりも更に奥、通常なら立ち入ることの出来ない場所に転移の魔法陣は設置されている。


今日は予定通りプロンタルトに戻って街の様子を見に行く。


ダンジョンに入るとすぐにピョン太から愛の頭突きを鳩尾に受け、今はレイとイワオも見送りに来てくれている。


「いってらっしゃいませ」

「あぁ、ありがとう」


レイの言葉にお礼を言う。

レイからは先日のような悲観な表情はもう見られなかった。顔ないから表情わからんけどそう感じた。



―――にしても


「なぁ、やっぱり目立たない普通の服の方がいいんじゃないか?」


俺の格好はお馴染みの勇者装備一式、マスクありのフル装備だ。


「ダメよ、今はダンジョン内に人もいるんだから」


ルルは相変わらず俺が顔を晒すことを嫌う。

なんでも俺の好きにやればいいと言うクセに、これだけは頑なに強要してくる。


「はぁ、さいでっか……」


このマスクだけはほんとに嫌なんだが……はぁ。


………ん?ダンジョンにも人がいるから?


3日前、ガルムと戦った時は誰もいなかったはずだけど、探索者でもいるのかな。

俺がダンジョンマスターになったことで、ただの大空洞と化していたプロンタルトダンジョンはダンジョンとしての機能を取り戻した。

そうなれば冒険者などが訪れてもおかしくはないのかな。

今回はワープのためにダンジョンを経由するだけであってすぐに街に出るつもりだから誰がいようと会う必要は無い。やっぱり仮面は、てか勇者の格好も必要なかっただろこれ。


「さて、いくか」

「待ってくださいですぅ」


ワープする為の魔法陣に乗り、さぁ出発ってところで、ミスティが滑り込んできた。

それにルルが噛み付く。


「なんであんたがついてくんのよ!」

「ススム様の護衛ですぅ」

「いらないわよ。私がいるんだからススムを危険に晒す事なんてないわ。これまでも、これからもね」

「あなた1人じゃ心配ですぅ。ここはやはり、王都でススム様を守り続けてきた私が適任だと思いますぅ」

「あんたがいつ、こいつの事を守ったっていうのよ」

「ずっとです~。そんなことも分からないような人にはやっぱり任せておけないですぅ」

「なんですって~!?」


なんだか騒がしくなってきた。女の子同士仲良くできんもんかね。

それに、俺をどちらが護衛するかって目の前で幼女2人が言い合ってるのを見るのはなんというか………情けなくなる、大人として、男として。

やいのやいの言ってるが、俺は2人どちらにも守ってもらった記憶ないし。


「もういいから、勝手にしろ。ほら行くぞ」

「はぁ?あんたこいつも連れて行く気な―――」


ルルがなんか言い返してきたけど知らん。とっととワープじゃ。


ワープは一瞬で完了………したはず。

一瞬、光に包まれたのは感じたが、転移先も洞窟のため景色に変わり映えがない。

とりあえずダンジョンマスターの力で場所をチェック―――――うん、確かにプロンタルトダンジョンだ。


そしてそれと同時に少し奇妙な点に気付いた。

うん、確かにダンジョン内に人がいるな。ルルが言ってたのはこれの事か。

わりと大人数、それもモグネコ村にだ。崖上の廃教会からの隠しルートはあるものの、あの村は通常のダンジョンの通路からは隔離されてるからそう易々とたどり着くことは出来ない。


「移動するぞ」


俺はダンジョンマスターの力のおかげでダンジョン内の好きな場所に転移できる。

ルル、ミスティに一声かけてすぐにモグネコ村に転移した。




「死ねえええええ!!!!」

「ぶっ殺してやる!!」

「えっ!なに!?」


転移した瞬間、左右から誰かが飛びかかってきた。右から槍、左から棍棒が迫る。


「ふりゃ!」


突然のことに気圧されて尻もちをついた俺を庇って、ルルが迫る槍を振り払った。

反対では棍棒を持った男が倒れている。どうやらミスティが止めてくれたみたいだ。


はぁ…助かった。何なんだ一体………


倒れた者達を見ると、片方はモグネコ族の若頭的存在、タイショーだった。こいつは俺の事嫌ってるからな、いきなり命を狙ってきても不思議じゃないな。

もう片方は、人間か。見覚えはない。まぁ人族の間じゃ勇者は5年前の魔物の氾濫、白昼の悪夢デイライト・ナイトメアを引き起こした張本人として嫌われてるからな、いきなり命を狙ってきても不思議じゃないな。


……………勇者嫌われすぎでは?



「おぉ、勇者殿」


モグネコ村の村長が声をかけてきた。


「この場を収めに来てくださったのですか、ありがたやありがたや」


勝手に理由づけて膝をつく村長、それに続いて後ろに控える村人たちも俺を祈る。大所帯だな、村人の多くがここに集まっているようだ。


「ススム様」


続いて俺の前にやってきたのは孤児院教会のシスター、アイリーだ。


なんでアイリーがここに?


「この度は皆を救っていただきありがとうございます」


そう言ってアイリーは祈るように両手を組んで頭を下げる。


俺が………救った……?


―――あぁそうだ思い出した!咄嗟の一幕たったから忘れてたわ!


教会に避難しようとした時に揉めて、邪魔だったからとりあえず纏めてダンジョンに隔離したんだった。


「それで、街はどうなりましたか?」


そっか、そうだよね。街が襲われてる最中に地下に隔離されたんだから、地上の様子なんかわかるわけないよね。実質、俺が監禁してたようなもんか。いやマジで忘れてた。ほんと申し訳ない。


「そ、そうだな。街を襲ってたやつは~………まぁ、一応解決したよ」


『自分が殺した』とはなんとなく言いづらくて言葉につまった。

間違った事をしたとは思ってないけど、誰かを殺したという事実に後ろめたさを感じるのは、やっぱり日本人だからだろうか。

この気持ちを忘れずにいるべきなのか、それとも今いるこの世界に馴染むべきなのか。

今はまだどちらかに決めて覚悟を貫こうと思えるほどの答えはない。

まぁ今悩んでも仕方がない。時間が解決してくれるだろう。

そもそもこの世界は命に関わる場面が身近にありすぎる。その時に選択肢が自分の匙加減で決められるかもわからない。殺るか殺られるかだ。

相手の命をどうしようかなんて驕った考えを持っていたら自分の命が持っていかれてしまう。


急に顔を引き寄せられ、天国のような息苦しさに襲われる。


「―――――――――ぷはっ!?ぇ何!急に!?」


目の前には魅惑の双丘、目線をあげればアイリーの笑顔が映る。


「すみません、なにか思い悩んでいたようでしたので」


あぁそうだった。この人、ハグ魔だった。

これまでも同じような事をされて、同じような事を言われたのを思い出した。


「ちょっ何してるの!?離れなさいよ!」


ルルが俺とアイリーを引き剥がす。


「あんたが悩んでて……その…どうしてもって言うなら………あた、あたしの胸を……貸してあげなくも、ないんだからね」


もじもじしながらそんな事を言い出すルル。

こいついつも白々しいくらい急にデレるよな。


「な、なによ。そんなに見つめられると、は…恥ずかしいじゃない」


本人はあざとさを意識してないんだろうなぁ。

悩んだ時には貸してくれるという胸に目を移す。

―――うん、ないな。2つの意味でないな。


「それで、この状況はどういう事なんだ?」

「ちょ!?無視してんじゃないわよ!」


うるさいルルはとりあえず置いとくとしても、どうやら面倒な場面に首を突っ込んでしまったようだ。

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