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元凶

 人間相手ならば優に百回は殺しているだろう。

 妖力を削る作業を延々と繰り返す中で祥雲は意味もなくそんなことを考えていた。

 対峙する妖魔ヒトキリは脅威だ。それは間違いない。

 過去に戦った強力な妖魔がそうであったようにヒトキリにもなんらかの《能力》が備わっている可能性が高いと警戒する祥雲だったが、現時点でそれを使う気配はまったくと言っていいぐらいないのが少々気掛かりだった。

 「そろそろ倒されてくれると嬉しいんだがな」

 改めて地道な手段だと実感した祥雲は面倒臭がるようにそう呟く。

 途中で何度かヒトキリの首を落とそうとしたもののそのすべてが失敗に終わった。

 つまるところヒトキリは知ってるのだ。

 妖魔にとって首を落とされるということは死に直結しているのだと。

 「だぁー……まったくもって忌々しい!」

 少しでも楽をしたいという邪念は祥雲にとって予期せぬ伏兵だった。

 宝くじだって買わなければ当たらない。それと同列でヒトキリの首を落とそうと誘う邪念は確実に祥雲の集中力を削ぎつつあった。


 「いやああああああああッ!」


 突如として祥雲の耳に突き刺さる金切り声。声の主に視線を移した祥雲は固まった。

 その一瞬の隙を突いてヒトキリが攻撃するも祥雲はそれを紙一重で躱す。

 「チッ……」

 僅かに掠ったらしくパラパラと地面に落ちる黒髪。

 しかし今の祥雲にとってそんなことは取るに足らない些細なことだった。

 「何してる!? 早くここから逃げろ!」

 本来はそこにいるはずのない人物が現れたということで高鳴る心臓。

 触発されるように急変する場の空気。

 それを感じとったのかヒトキリは得物を持ち直した。

 「それがお前の能力か!」

 脈打つ太刀に尋常じゃない妖気が集中する。

 ヒトキリの能力を瞬時に看破した祥雲は大慌てて琴音のもとへ向かった。

 『僥倖……!!』

 太刀から放たれたのは禍々しい黒紫色の飛ぶ斬撃。

 狙いが祥雲だったならばそれは容易く避けられただろう。

 ゆえにその矛先は祥雲の動揺を誘った娘に向けられていた。

 「くそがッ!」

 ヒトキリと琴音の一直線上を遮る祥雲。

 そうしなければ琴音が死ぬ。

 険しい表情を見せた祥雲は腕をクロスさせて防御の構えをとる。

 「ぐッ……!!」

 必殺技といっていいぐらいの斬撃をまともに受けてパックリと裂ける祥雲の両腕。

 夥しい出血と同時に表情を苦痛に歪めた祥雲は地に片膝をついた。

 「ああっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!」

 祥雲のもとに駆け寄った琴音は自分が足を引っ張ったという自責の念から懺悔するように大粒の涙をボロボロと零して壊れたラジオのように何度も謝罪の言葉を口にした。

 「なぜここに来た? お前も霊能者の端くれならここに来るべきではないと分かったはずだ」

 「怖いんです。これ以上誰かを失うということは……」

 呟くように意味深なことを口走る琴音。

 何となく事情を察した祥雲だったが、そんな祥雲に向かってくる悪しき気配。

 祥雲はすぐさま気配の主を牽制するように睨んだ。

 『知った気配だと思ったら何時ぞやの小娘か……』

 「どうゆうことだ。こいつに何をした?」

 『フッ、知れたこと。その娘の両親は拙者が斬った。今までに屠り喰らった中でも特に美味だったぞ』

 口元をいやらしく歪めたヒトキリが語った衝撃の事実。

 それは琴音にとってのトラウマ。祥雲が知らない琴音の過去。

 の元凶である妖魔から最も触れられたくない過去を暴露された琴音は震える手で祥雲に縋り付いた。


 「お前だけは許さん!」


 琴音の家族を殺した妖魔。そう思うと居ても立って居られなかった。

 激情に駆られた祥雲は仇討とばかりにヒトキリに突っ込む。

 「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 鬼気迫る祥雲を前にヒトキリは冷静だった。

 今までは本気を出していなかったとばかりに繰り出した鋭い斬撃。

 さすがの祥雲もこれは回避せざるを得なかった。

 「さっきの飛ぶ斬撃。あれには斬った相手の霊気を吸う能力も備わってたわけか」

 『いかにも』

 「だとしたらかなりマズったな……」

 絶え間なく流れ続ける出血の影響からか霞む視界。

 ヒトキリから距離を置いたところで限界を迎えた祥雲はその場にへたり込んだ。

 『終わりだ』

 引導を渡すべくヒトキリは祥雲に向かい歩き始める。

 本来ならば勝てていた相手なだけに、祥雲の心には今だかつてないぐらい複雑な感情が蠢いていた。

 「駄目だ……動かん……」

 尋常じゃない腕の違和感に目を向けてみると骨の一部が露出していた。

 僅かに残された霊力も鎮痛剤代わりにすることで精一杯。

 祥雲はその見た目以上に満身創痍な状態を強いられていた。


 「こんなところで終わりとは無様だな」


 そんな祥雲を見兼ねたように掛けられた声。

 釣られて見てみるとそこには一人の男が立っていた。

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