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ブリーフィング

妖魔戦争も終盤に差し掛かったところで祥雲のもとに届いた召集令状。

 それは十二区奪還を目的としたものだった。

 「すでに知ってる者も多いと思うが壊滅した十二区に再び巨大な巣穴が開かれ、妖魔の群れが周辺の拠点に攻勢を掛けつつある。諸君らには巣穴の殲滅をお願いしたい」

 政府関係者とおぼしき男は登場するやいなや無愛想にそう切り出した。

 場所は表の世界では市役所として機能するビルの三階にある会議室。裏の世界においては妖魔局が活動拠点として使っているとだけあって、黒服サングラス姿の男たちが授業参観を思わせるぐらい背後に控えており、召集された霊能者たちは半ば缶詰状態で椅子に座らされていた。

 「門番はヒトキリ。門付近には一万を超える妖魔がひしめいている」

 「おいおい、二百人ほどの術者でそれを殲滅しろって言うのかよ。自殺行為だぜ」

 いかにも血の気が多そうな若者が噛み付く。

 他の者も他人事ではないだけあって男の言い分に頷く者さえいた。

 「妖魔が各拠点に攻勢を強めている今、これ以上の戦力は投入できない」

 「報酬は? こんな危険な任務に割り当てられる以上は当然手厚いんだろう?」

 「乙級以上の報酬は通常の二倍を約束しよう。それと医療班を三個小隊用意した」

 「ハッ、怪我すんのは前提かよ。準備がよろしいことで」

 国からの召集である限り参加は絶対。それは暗黙の了解となっている。

 それゆえに召集そのものに異議を唱える者はいない。

 今回の特徴として呼集された者すべてが一定の場数を踏んだベテラン。

 言い換えればそれだけ難易度の高い任務である事を暗に示していた。

 「作戦決行は三日後。詳細は追って連絡する。以上解散」

 質問などは一切受け付けないとばかりに一方的な解散。

 参加者達は今回のブリーフィングに期待していなかったのか解散と同時に席を立ち、我先にと会議室から退出する。


 「よお、二条」


 退出しようと席を立った祥雲の肩に馴れ馴れしく置かれた手。

 その手が誰のものであるかは明白だったが、祥雲は白々しく言った。

 「なんだ鉄山。お前もいたのか」

 「ずいぶんな挨拶だな。それよりも一つ提案があるんだが……」

 「どうせ俺と組んでヒトキリを倒そうとかだろ」

 「わかってるなら話が早い。賞金は半々で手を打たないか?」

 「いいだろう。お前と組めば少しは楽できそうだ」

 「決まりだな。作戦会議も兼ねて飯でも食いにいこうぜ」

 利害一致による同盟。三年前の恐山戦では黄金タッグとして知られていた。

 だからこそ急造であってもチームワークといった意味で不安はない。

 万全を期すには鉄山の協力も必要との判断から祥雲は鉄山の提案に乗った。

 「そういえばお前、団体行動は苦手なくせにマジで部隊で動いてるんだってな」

 「突然なにを言い出す? 琴音のことはお前も知らんわけじゃないだろう」

 「気になってたんであれこれ調べさせてもらったぜ。琴音ちゃんの家族のことは気の毒に思うがあまり入れ込み過ぎるなよ。お前らしくない」

 「余計なお世話だ。干渉するがお前の領分か?」

 「まっ、突然こんなこと言われても野暮だわな。悪く思わんでくれよ。琴音ちゃんは二条にはもったいないぐらい器量良しだから、どうやったら喧嘩別れして俺とくっつくか模索してたんだ」

 鉄山は茶化すように誤魔化したが、祥雲はその真意を汲み取っていた。

 出会った頃とは比べものにならないぐらい強くなったとはいえ、琴音は術者としてはまだまだ発展途上。対してヒトキリは術者としては完成の域に達している祥雲を破ったほどの強者。

 よっぽどのことがない限り琴音に勝ち目ないと考えるのが自然だった。

 「祥雲!」

 建物を出るなり祥雲のもとに駆け寄ってきた人物。

 「おっ、琴音ちゃん。久しぶり~」

 「お久しぶりです」

 「しばらく見ないうちにおっぱいでかくなった?」

 「あの……」

 「はははは、冗談だよ。今から二条と飯食いに行くんだけど一緒にどう?」

 「では、お言葉に甘えて……」

 鉄山のセクハラに引きながらも祥雲がいるという理由で誘いに乗る琴音。

 今日一日は束の間の自由が約束されているにもかかわらず、すっかり祥雲の弟子としての立場が板についた琴音は祥雲が妖魔局から出てくるのを近くの壁にもたれ掛かってじっと待っていた。

 まるで忠犬のような振る舞い。鉄山はからかうように祥雲の肩を小突く。

 そんな三人の前にとある人物が立ち塞がった。

 「ほう、鉄山が奢ってくれるのか。それなら店で一番高い料理を注文しないとな」

 「げげっ、てめえは瑠璃!」

 「相変わらず見事な頭だな。鏡として有効活用できそうだ」

 「こいつは俺に恨みでもあるのか? いつも毒吐かれてる気がするんだが」

 「たぶんお前のことが好きなんだろう。好きな相手にはいじわるしたいって心理だ」

 「なるほど、そうゆうことか。でもいくら美人だとはいえスーパー毒吐きキャラは俺の好みじゃないから二条にやるよ」

 「美人なら誰でもいいんじゃなかったのか?」

 「相手によるだろ」

 「黙って聞いてれば……君達まとめて消し炭にしてくれようか?」

 祥雲と鉄山のやり取りに対して脅すように掌に炎を召喚して見せる瑠璃。

 相も変わらぬポーカーフェイスはどこまでが冗談でどこからが本気なのかを判断するには困難を極め、祥雲も鉄山も苦しそうに笑って誤魔化すしかなかった。

 「すると、辻桐だけが別行動か」

 「私ならここにいますが」

 「うおっ……!? 前々から思ってたけど、影薄過ぎだろ……」

 「所詮は裏方ですから」

 「そう拗ねるなよ」

 「拗ねてません」

 「鉄山が最高の料理を奢ってくれるってよ」

 「それは是非いただきます」

 「ちょっと待て、なんでさっきから俺が奢るって流れになってんだよ」

 「ん、違うのか?」

 「女の子はともかく野郎の飯代は知らん」

 「露骨な男女差別だな。フェミストが黙ってないぜ」

 「やかましい! 男女区別だ!」

 一行が訪れたのは裏の世界では数少ない寿司屋。

 価格設定は表の世界の十倍ほどだったが、死ねばそれまで。

 だからこそ誰もが遠慮なく最後の晩餐とばかりに自分の好みを注文した。

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