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もう一人の師匠

 琴音の申し出によって実現した瑠璃との一戦。

 その結果は順当この上ないもので琴音は瑠璃を相手に手も足も出なかった。

 「筋は悪くないがあまりにも脆すぎる。それと絶対的に実戦経験が足りない」

 ありのままの感想を述べる瑠璃。

 初の遠距離型の相手との対戦だったことを差し引いてもお釣りがくるほどの実力差。

 琴音は誰が見てもそうだとわかるぐらい意気消沈していた。

 「相手が必ずしも正面から攻撃を仕掛けてくるとは限らない。いい勉強になったな」

 「はい……」

 「焔家といえば世界でもトップクラスの火系術者の血統だ。並の術者じゃ手も足も出なくて当然なんだからそう落ち込むな」

 その気になればダメ出しはいくらでもできたが珍しくフォローに回る祥雲。

 祥雲は無意識だったが傍から見てその姿は見事なまでに師匠だった。

 「目に見えるものしか見えていない。常に周囲を意識するべきだ」

 術式としては〝放射型〟に属し、主に中・遠距離で力を発揮するタイプの瑠璃。

 当然ながら妖魔の中にはそれに似た攻撃手段を用いる個体もおり、瑠璃のアドバイスは不特定多数の妖魔を相手にする戦場において非常に有益なものだった。

「常に周囲を意識する……」

「コツを掴むまでが大変だが掴みさえすれば寝ている間でも自然とできるようになる。なんせ体が覚えるからな。それができるようになれば運悪く流れ弾に当たったり不意打ちを食らうといった不測の事態はほぼなくなるだろう」

 気読力の高等技術である〝気読陣(きどくじん)〟。

 それは自分を中心とした一定距離にある存在を気配だけで感知するといったものであり、達人ならば舞い落ちる落ち葉の数を瞬時に把握することができるという。

 「基礎技術を修めたばかりの人間できるもんじゃねえだろ」

 「私はそうは思わない」

 「琴音が術者として本格的な修業を始めたのは三カ月前だぞ」

 「三カ月でここまで……?」

 「剣術以外のことはほぼ俺が教えたようなものだ」

 瑠璃はポーカーフェイスを崩さなかったが内心そのことにかなり驚いた。

 なぜなら通常では考えられないような成長速度。

 今の琴音レベルに達するまでには普通ならば二、三年は要する。

 それを僅か三カ月で到達したというのだから九字護身の血筋に匹敵する天賦の才を感じずにはいられなかった。

 「鉄は熱いうちに叩けという。今教えるべきだろう」

 「教える側の身にもなってみろ。他人事だと思って簡単に言うなよ」

 「では、私が祥雲の代わりに教えてもいいか?」

 「それは本気で言ってるのか?」

 「四方八方から攻撃するのは得意だから祥雲よりもうまく教えられる自信がある」

 「そこまで言うのなら別にかまわんが生兵法で終わるのはナシだ。それこそ戦場では命取りになるからな」

 「もちろんだ。責任をもって手取り足取り教えるさ」

 当の本人である琴音を無視して新たに誕生したもう一人の師匠。

 その状況についていけずオロオロとする琴音を少しでも安心させようと瑠璃は精一杯の笑みを浮かべたが、客観的に見てそれはドS丸出しの底知れない怖さがある作り笑顔に他ならなかった。


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