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観測手

 「お久しぶりです二条さん」

 「二級観測手に昇格したんだってな」

 「ええ、お陰様で」

 町の中心部に位置する噴水前で祥雲と握手を交わしたのは眼鏡がよく似合う几帳面そうなスーツ姿の女性。状況からして祥雲の知り合いである事は一目瞭然だったが、琴音にとっては初対面な人物なだけに緊張していた。

 「紹介しよう。俺が雇った観測手だ」

 琴音にとっては聞き慣れない単語。疑問は口を突いて出た。

 「かんそくしゅ……ですか?」

 「ああ、そうか。妖魔戦争は初めてだったな。観測手っていうのは所謂サポーターのことだ。例えば懸賞金百万の妖魔を五人で倒したとしてお前ならどう分ける?」

 「それはもちろん均等に二十万円ずつ……」

 「予想通りトラブルの火種となる考え方だな。五人が均等な働きをするなんて現実的に考えてまずあり得ない。どうやっても必ず貢献度が高い奴と低い奴が出てくる。それで山分けなんて言われたら頑張った奴からすりゃ不満だろうよ」

 「だったらどうやって分配するんですか? 均等に分けないとそれこそ……」

 「そうゆう時に役に立つのが観測手だ。そういった場を取り仕切ってくれる」

 その性質上、中立的であることは大前提だがグレーゾーンにおいては依頼主にとって有利にコトを運ぶ交渉屋の側面もある。不測の事態が珍しくない妖魔戦争において同業者とのトラブルはご法度。保険的な意味合いから観測手を雇っておくに越したことはないというのが一般的な考え方だった。

 「お初にお目に掛かります。第二級国家観測手の辻桐(つじぎり)と申します。以後お見知りおきを」

 そう言って琴音に握手を求める辻桐。

 改めて辻桐を見た琴音の印象としては落ち着き払った大人の女性。

 実年齢は祥雲と同じだったが、琴音の目には祥雲よりもずっと大人びて見えた。

 「こちらこそよろしくお願いします」

 見惚れていた琴音は我に返ると慌てて辻桐の握手に応じる。

 祥雲はそんな琴音の頭の上にポンと手を置いた。

 「こいつは俺の弟子の琴音。今回は《部隊》でやるからこいつの面倒も見てやってほしい」

 「契約内容と違いますが?」

 「報酬ははずむからそれで大目にみてくれ」

 「申請書類の差し替えが面倒なんですから次からは事前に言って下さいね」

 「すまん。さっそくで悪いが戦況を教えてくれ」

 「現在までの戦闘で第三区、六区、十一区、十六区、二十二区、三十五区、四十九区、五十二区、六十九区、七十五区、八十三区の拠点が陥落しています」

 「俺の管轄だと二十二区が落ちたか……。そうなった原因は?」

 「結界内部に大規模な〝巣穴〟が現れた為だと聞いてます」

 「なるほど、どれだけ堅牢だろうが内から崩されてはどうしようもないな」

 戦況の確認を進める祥雲と辻桐。

 置いてきぼりとなった琴音はただただその様子を黙って聞くしかなかった。

 「他の九字護身はどのぐらい稼いでる?」

 「(えんの)様が八億二千万円、叢雲様が五億二千万円、焔様が四億七千万円」

 「さすがは激戦区に指定されるだけあってハイペースだな」

 いずれも先発組。祥雲よりも先んじて死国入りした九字護身の面々。

 いつの時代からか非公式ではあるものの獲得賞金額はスコア的な役割を果たしており、それはある種の面子争いのニュアンスを含んでいた。

 「ヒトキリとオチムシャは今いくらだ?」

 「ヒトキリが四億六千万円、オチムシャが三億五千万円です」

 「聞いたか? 琴音」

 「えっ? えっ……と」

 庶民感覚が染みついた琴音には想像もできない賞金額――。

 それは妖魔の強さと危険度のバロメーターでもあったが、琴音の頭の中は四億六千万円という大金がどれほどのものなのかを考えることで精一杯だった。

 「ヒトキリを倒せばサラリーマンの生涯賃金の倍以上稼げるぞ」

 「はあ……」

 「そっけない返事だな。嬉しくないのか?」

 「あっ、いえ、もちろん嬉しいですけど……」

 「けど?」

 「あの……」

 「なんだよ?」

 「もしも私がヒトキリを倒したらそのお金は祥雲が受け取って下さい」

 「なんでそうなる?」

 「二条家には金銭的にも多大なご迷惑をおかけしましたし……」

 「それは俺の親父が勝手にやったことなんだから気にする必要がない」

 「でも……」

 「現当主の俺がいいと言ってるんだから稼いだ金は好きなように使え」

 「それなら祥雲。私がヒトキリを倒した時はちゃんと受け取って下さいね」

 「……ちゃんと俺の話聞いてた?」

 「好きに使えと言われてたのでそうさせてもらいます」

 恩義に報いるため稼いだ賞金は祥雲に渡すと公言して憚らない琴音。

 祥雲にとってはどうでもいい話だったがそれで琴音のモチベーションが上がるのならばわざわざ拒否する理由もない。

 そんな祥雲の考え通り琴音は有言実行しようと息巻いていた。

 「まずは今日の寝床を探すとするか」

 「それなら家を一軒確保しているのでご案内します」

 「おっ、さすがは辻桐。仕事が早いな」

 案内されたのは表の世界ではさぞ裕福な人間が住んでいるであろう白で塗装された二階建ての豪華な住まい。長旅に疲れた祥雲と琴音にとってはまさに砂漠のオアシスだった。


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