二雪
あっという間に一カ月が過ぎ去り、祥雲は焦っていた。
琴音が術者として強くなっているのは確かだがヒトキリという妖魔を相手にするにはやはり力不足。
状況を好転させるべく祥雲は予定をいくつか前倒しにして次のステップへと進めた。
「武器選び……ですか?」
「そろそろ妖魔退治も慣れてきた頃だろ。いつまでも練習用の木刀を振り回していても仕方がない」
琴音が手にするのは倉庫で埃を被っていた何の変哲もない普通の木刀。
霊力を込めれば妖魔にも通用するが、武器としてそれを選ぶメリットは少ない。
琴音が武器を用いることに長けた術者である以上は武器との相性次第でその戦闘力は飛躍的に高まることに加え手に馴染ませるといった意味でもそろそろ決めておく必要があった。
「何代か前の当主が武器コレクターでな。たしかこの部屋がそうだ」
神社の地下に蟻の巣のように張り巡らされた二条家の隠し部屋。
電気が通っていない時代から放置された部屋の数々は壁に備え付けられた蝋燭に火を灯すことでようやく部屋の全貌が把握することができるといった有様であり、地下独特のジメジメとした陰気とカビ臭さは二人の鼻を盛大に刺激する。
「これは……」
明かりが灯された部屋の中を見渡すなり琴音は驚く。
八畳ほどの部屋に所狭しと置かれた刀の数は三十振り以上。
その多くはただならぬ気配――俗に言う妖刀や霊刀と呼ばれる類のものであり異質ともいえる独特の存在感を放っていた。
「拝見させて頂いても?」
「ああ、自分の目で見て決めてくれ」
祥雲の許可を得るなり鞘から刀を抜いて刀身をなぞり始める琴音。
好奇心から琴音の背後に張り付いていた祥雲だったが、地下特有の閉塞感に息苦しさを覚えたことで刀選びに没頭する琴音を一人部屋に残し部屋をあとにする。
「お待たせしました」
琴音が件の部屋から出てきたのはそれから一時間後。
待ちくたびれた祥雲は携帯ゲームで暇な待ち時間を潰していた。
「それでいいのか?」
「はい。これに決めました」
儀礼的な色合いが強く装飾も含め雪のように真っ白な刀。
祥雲がその刀を一目見て感じた印象は威風堂々とした高潔さだった。
「なんというか……お前とは相性が良さそうだな」
祥雲は武器を用いて戦う術者ではなかったが、琴音と白刀の組み合わせという絵面を見ていると自然とそう思えた。
「あの、この刀の名前とかってわかりますか?」
「さあな。俺の親父が言うには実力はあっても運に見放されて大成しなかった無名の鍛冶師が作ったものらしいから名前なんてものはないかもな」
「これほどの刀が無名……」
「なんでも無名良品の刀をコレクションする風変わりな当主だったんだと」
良いものが必ずしも高い評価を受けるとは限らない。
琴音が手にする白刀はまさにそれを体現していた。
「では……僭越ながら《二雪》と名付けさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「なにか由来でもあるのか?」
「私は二人の二条家の当主様のおかげでこの白く美しい雪のような刀と出会えましたのでそう名付けようかと」
恥ずかしげもなくそう答える琴音。
自分が名前の由来に含まれていると知った祥雲は少し気分を良くした。
「せっかくだし、その刀を使って模擬戦でもやるか?」
「でもこれ真剣ですよ」
「おいおい、真剣なら俺を斬れるとでも?」
「いえ、決してそのようなことは……」
「木刀の時とは違って、もしかしたら俺の肌に傷ぐらい付けられるかもな」
常識的に考えれば真剣での修業など一歩間違えば大惨事。
あまり気が進まなかったが琴音は祥雲の提案に合意した。
なぜなら敵は鋼のような祥雲の身体に重傷を負わせたほどの妖魔。
そのことを踏まえれば祥雲の身体に傷一つ付けられない限り、ヒトキリと戦っても勝ち目がないという琴音の考えは至極まっとうなものだった。




