鳥居
「どこから話を聞いていた……?」
「さぁーな。忘れちまったぜ」
「もしも最初から全部聞いてたって言ったらどうする?」
しらばくれる鉄山と祥雲の反応を試すようにニヤつく千草。
祥雲はそんな二人に対して威嚇するように舌打ちした。
「何の用だ? ウチの《鳥居》は閉じてるはずなんだがな」
「おかげで毎度こじ開けて入らないといけないから正直疲れるんだよなぁ~」
「自覚がないみたいだから言っといてやるが、お前らがやってることは人の家にピッキングして侵入する空き巣と同じだからな」
「そう固いこと言うなよ。ヒトキリに殺されかけた時は助けてやったろ」
「助力を頼んだ覚えはない。何を言われようが鳥居の解放は絶対にしないからな」
琴音からすれば傍観に徹するしかない意味不明な会話。
それはかつての九字護身が発明した鳥居を使った瞬間移動技術の話だった。
当初は九字護身同士の交流を目的として作られた技術も、必要以上の交流が招いた諍いなどを理由として今やどの九字護身も鳥居に〝鍵をかけている〟状態となって久しく技術としては無用の長物と化していたがヒトキリの一件で役に立ったのは事実。
鉄山と千草はそれを理由に二条家の鳥居を開かせたいという下心があった。
「じゃあさ、鉄山はいいから私にだけ鳥居を解放してよ。アタシのとこの鳥居も祥雲に対しては解放するからお互い出入り自由ってことでどう?」
「てめえ千草、俺を出し抜こうとはいい根性じゃねーか」
「黙れハゲ」
「露出狂が調子に乗るなよ」
「誰が露出狂よ! 風魔の伝統衣装を馬鹿にするとか殺されたいの?」
「やれるもんならやってみな。てめえの腕でそれができるのならな」
犬猿の仲とばかりにいがみ合う鉄山と千草。
祥雲はそんな二人に呆れ、琴音は我関せずと部屋の隅で空気に徹していた。
「ん……? なんだ……?」
そんな中で感じた霊能者特有の嫌な予感。
直感でその正体に気付いたとて既に手遅れ。逃げ出すタイミングは完全に失われていた。
「あらあら、みなさん。ごきげんよう~」
「胡達さん……」
「お久しぶりです……」
部屋に入ってきた胡達を見て後ずさる鉄山と千草。
胡達を前にして唯一表情を変えなかったのはその正体を知らない琴音だけだった。
「祥雲君、気分はいかがですか?」
「おかげさまでだいぶ良くなりました。ありがとうございます」
「今日は病み上がりにピッタリなお菓子をたくさん焼いてきたんです。せっかくなんでみなさんで召し上がって下さい」
そう言って手にする風呂敷を机の上に置くと豪快に広げてみせる胡達。
中には玉手箱を思わせる高級そうな装飾の箱。
鼻歌交じりに胡達が箱を開けると〝真っ黒な物体〟がその姿を現した。
「胡達さん……。これは……?」
「見ての通りクッキーです。ちょっと焦げましたけど味には自信があります」
あり得ないと固まる一同。しかし直球でそれを口にできる勇者はいなかった。
単に見た目だけなら消し炭と比べてもなんら遜色がない。
胡達をよく知る三人はこの時点ですでに絞首刑寸前の死刑囚みたいな絶望に満ちた青い顔をしていた。
「自信作なんでどうぞ遠慮なさらずに食べて下さい」
「あのですね……じつは俺、牛乳アレルギーなんすよ!」
「あらあら、でも安心して下さい。牛乳は入ってませんよ」
そう言って天使のような悪魔の笑顔を浮かべながら鉄山を手招きする胡達。
鉄山から見てその姿はもはや死神だった。
――だが断れば死あるのみ。
死線を全身で感じた鉄山は観念するようにごくりと生唾を呑むといそいそと胡達のもとへ向かった。
「いただきます……」
消去法で一番小さなクッキーに手をつける鉄山。
その直後、鉄山の携帯電話が不吉を告げるように鳴り響いた。




