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閻魔庁総務課の月子さん  作者: 泪
プロローグ
2/7

人違いですか、そうですか……

 ふと気が付くと、私は死に装束を着て、先が霞んで見えるほど長い列に並んでいた。

 周りはうっすらと明るいものの草1本生えておらず、遙か遠くまで続く道がぼんやり光っているだけ。

 列に並ぶ人々の顔は無表情で、こんなに大勢の人間がいるのに誰も一言も喋らず、ふらふらと歩いている。


「私、死んだ?」

 この状況を見ると、死んだんだろうな……まあ、恋人もいないし両親も私が就職してすぐに、事故で2人揃って亡くなったしなあ。

 未練が無いと言ったら嘘になるけど、あのまま生きていても孤独死一直線だったし、痛みとか苦しさを感じずに死ねたのは良かったと言えるのかしら。

 どれくらい歩いたのか、疲れる事もお腹が空く事も無かったから分からないが、ようやく列の先に見えた建物に入ると、

「次の方、どうぞ」

 穏やかな男性の声と共に、1つの部屋の扉が開いた。


「失礼します」

 一礼をしてその部屋に入ると、黒いスーツに黒いネクタイの35歳位の優しそうな男性が、机の向こうからこちらを見ていた。

「おや、珍しいですね。記憶や意識がここまで残っている霊体は、かれこれ150年ぶりでしょうか、どうぞお座りください」

 勧められるままに、事務机の前に置かれた椅子に腰掛けると、彼は机の上の台帳をぱらぱらと捲り、不思議そうな顔で私に問いかけてきた。

「高本月緒さん、24歳……で、合ってます?」

「いえ、高木月子、42歳ですが……」

 そう答えた途端、さっきまでの穏やかな顔を一変させ険しい表情を浮かべた彼が、がたっと椅子から立ち上がり、

「申し訳ありませんが、少々お待ちいただけますか?」

 と私に一声かけて廊下に出ると、別の部屋扉を開けて吠えた。

「ごらぁ死神課!! 魂狩ってくる人間、間違えてるじゃないですか! 担当者、出て来なさい!」


 あれから応接室のような部屋に移され、ふわふわのソファーに座る私の目の前には、20歳位の男の子と60手前位の頭髪の薄くなった男性が土下座してます。

「「申し訳ありませんでした~!!」」

 彼等の横で、最初に対応してくれた方が般若の形相で腕を組んで彼等を睨んでます……どうやら私は、人違いで殺されてしまったらしいです。

「謝れば済む問題じゃ無いでしょう。貴方方のせいで、この方はもう輪廻の輪を外れてしまったのですよ」

「そんなの知らねえよ、たかが人間の魂じゃねえか。何で俺がこんな事、しなきゃなんねえんだよ」

 ぼそっと、土下座している若い男の子が呟くと、

「このままでは、何の罪も無い魂が消滅してしまうのですよ」

 それが聞こえたのか、彼の怒りがヒートアップしてますね……私としては、輪廻の輪を外れたって魂が消滅って言われても、死んだらそれで終わりだと思ってましたからなあ。

 生き返れるってのなら話は別ですが、それは無理だしねえ。

 まあ、合コンに遅刻しそうだからって、焦って別人殺しちゃうような新人死神君は反省しろって言うか、人の命を扱うような仕事は向いてないから転職しろよとは思うけどね。

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