白き死の顕現(1)
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「ジーザァス......あんまりだぁ......」
ジョン・バンダー20歳。
自らの、そして移動式コロニーに住む300万人の命を救った存在である宇宙漁師に憧れた彼は、試験を受けるためにイチバ・コロニーを訪れていた。
そんな彼に再び災難が降りかかる---
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クラス5 特級宇宙危険生物
《宇 宙 ク ラ ー ケ ン》
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危険度別に5段階に分けられる特級宇宙危険生物のクラス5
---つまり最もヤバくてバッダスな生物の中でも最もクレイジーなヤツ。
「それが宇宙クラーケンよ。」
「ふーん、イポン釣り出来るのか?」
ハイデン女史は思わず頭を抱える。エルメテに対して説明した内容は以下の通りだ。
・宇宙クロマグロの千倍の大きさ
・帯電した大量の触手
・卓越したサイキック能力
・文明を幾つも滅ぼしてきた
・その他いろいろ(思い付いたら追加する)
「前例は無いわ。それどころか、他の漁法でも宇宙クラーケンを討伐した前例すら---」
その言葉を聞いたエルメテは高笑いしながら高級酒場の入口ドアを蹴り飛ばし、振り向きざまにこう言った。
「なら、このエルメテ様がその"前例"になってやる。"イポン釣り"でな」
◆
「ブラボー1、目標に攻撃を開始する」
星の海を駆ける流星群---12機のバトルシップは移動中の"白い巨大な塊"へ爆撃を開始する。
CABOOOOOOM!!
対リフレクトシールド加工ジャベリンヘッド・ミサイル(ARS-JHM)が純白のボディに突き刺さりニュクリア爆発を引き起こす!
---無傷だと!?
ARS-JHMは確かにヒットした。しかし、純白のボディには傷一つ付いていない。味方機が次々とヒットさせていくものの、対象の移動速度は全く変化していない。
ブラボー1の額に嫌な汗が滲む。突然の出撃命令、最新鋭核兵器の使用許可--目の前に存在する白い巨体。アレは一体----
-----瞬間、一機のバトルシップが消し飛んだ。
◆
「宇宙クラーケンの体内にはデビルアニサキスが大量に寄生しています。
--いや、正確には"寄生させられている"のです。」
そう語るのは今回のゲスト、宇宙神話生物学界の権威、ロマニエス大学の《サザキ・コタロジロ名誉教授》だ。
彼は狂気に蝕まれ、ときおり嗚咽しながらも解説を続けてくれた。
「本来デビルアニサキスは宇宙クジラを最終的な宿主とする宇宙寄生虫です。......デビルアニサキスにとって宇宙イカ種は本来中間宿主となる存在であり、中間宿主の体内で成体になる事はありえません。」
「---しかし、そんな宇宙クジラも宇宙クラーケンにとってはスナック、そう、卓上のドリトスに過ぎないのです。ああ......!」
サザキ教授は身体を震わせ、蹲り頭を抱える。待機していたドクターが駆け寄るが、サザキ教授はドクターの手を跳ね除け、話を続けてくれた。
「宇宙クラーケンは宇宙クジラを捕食し!成体したデビルアニサキスを体内で生け捕りにするのです!デビルアニサキスは......」
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「ブラボー1!応答せよ!ブラボー1!!!」
そう、サイキックで支配されたデビルアニサキスは生ける銃弾と化し!
「ブラボー1-----」
CABOOOOOOM!!!!!
触手の先端から亜光速誘導弾として射出されるのである!
◆
ホッカイ・ユニオン宇宙軍司令室。
モニターから部隊からの信号がひとつ、またひとつ消えていく。
「そんな......バカな事が......」
ホッカイ・ユニオンのコマンダー《マイケル・レッダー》の顔から生気が消えていく。
彼は確かに優秀なコマンダーだった。ギャングの艦隊や、宇宙海賊の強襲に対し的確に指揮を執り--常に勝利してきた。
だが、彼が戦ってきた者たちは......あくまで人だった。
「作戦は中止だ!ただちに宙域を離脱--」
〔 信 号 が あ り ま せ ん 〕
警告音と共にモニターに映し出されたレッドメッセージは、彼の心を折るには十分だった。
「A I E E E E E E E E E!!!」
マイケルの慟哭を背に、イチバ・コロニーからは宇宙漁船が次々と離脱していく。
誰もかもが宙域を離脱していく中、その一機の向かう先は別の方向を向いていた。
「アレは......なんだ!?死にたいのか!?」
発狂する寸前だったマイケルの目に映ったのは銀白のブレード・シルエット。
《S,B,エルメテウス》は、迷い無く---宇宙クラーケンの待つ方向へと出航した。
<つづく>