白虎丸篇 2
「…………」
「……………」
沈黙。
白虎丸と散歩に出てからどのぐらい経ったのだろう
最初は多少なりとも会話があったのだが、歩くに連れ徐々に話すこともなくなってしまった
辺りもすっかり日が暮れてしまったし、特に進展はない
こんなので好感度に変化出るのかなぁ…画面の向こうだった時は二人きりになればそれなりに良い雰囲気になってたはずなのに、やっぱり男性経験の乏しい女の限界ってこのぐらいなのかしら…はぁ…
「なぁ」
「は、はい」
前を歩いていた白虎丸が徐ろに口を開いた
「そろそろ戻るか?日も暮れてくると厄介なんだよこの辺りは」
「厄介って?」
「あー…別に俺がいるからお前は気にしなくていい」
日が暮れると厄介…家の周り…あれ?何かそんな設定があったような…
と、同時に背中に冷たい空気がピリリと漂い寒気が全身を襲う
まるで誰かに睨まれているような感覚だ
歩みが自然と止まると、前を歩いていた白虎丸が私の方へと振り返る
「…チッ、はえぇな」
私に向かって舌打ちをし、睨みをきかせた白虎丸は腰に差した刀へと手を持っていく
正確に言えば“私”ではなく、私の“後ろ”にいる“何か”
「な、なに…」
私が言葉を発しきる前に白虎丸は駆け出すと、私の後ろにいた何かに対して大きくその刀を振り上げた
振り返った先には黒い空間のような、塊のような、実体があるのかすらわからない薄気味悪いものが白虎丸の手によって真っ二つに裂かれた姿だった
「ぎぃやぁあああ」
「あぁ、うるせぇうるせぇ…鳴くと集まってくるだろうが」
少しだるそうに呟いた白虎丸は悲鳴をあげた黒い塊の口の部分であろか?という所へと刀を突き刺す
すると、悲鳴はすぐに消え、黒い塊は塵になっていった
…ってなにこれ!!なにこれ!?
ヘナヘナと腰を抜かす私の脳裏にははてなマークばかりが浮かんでいる
現実世界では見る事ないなんともゲーム性の高い生き物?が急に現れるなんて聞いてない
「あ?なに腰抜かしてやがんだ?もしかして…妖魔見るのも初めてだったのか?」
「よ、ようま…?」
ヨウマ…ようま…妖魔…?
あ、思い出した
そういえば、このゲームの設定に妖魔という妖怪のようなものが出てきて、白虎丸達はそれ等を退治する役目のある人達っていうのがあったんだっけ
それにしてもなんでこんなに命の危険がありそうな設定今の今まで忘れてたんだろ…
「……お、い!り、んね!……お……ろ…!」
あれ?白虎丸の声が遠く聞こえる
目の前には白虎丸じゃなくて、木々の隙間から見える薄暗い空
あー、これはあれですね。
気絶する瞬間だわ
▽
「ったく、いつまで寝てんだよあの女」
「白虎丸こそ…いつまでそこで…ウロウロしてるの…」
「なっ、鴉こそこんな所で何してんだよ!?」
「俺は…ご飯の準備…ウロウロしてたらそこ、通りづらい…中、入れば…?」
「あ、あぁ…今入ろうとしてたっていうか、兎に角!ほら、退いてやるからさっさと飯でも何でもやってこい!」
「…作ってくれてる人への礼儀…足りない…」
…んん、うるさい…
バタバタと慌ただしい足音と話し声で目覚めた私は、どうやら自室の硬い布団の上に寝ていたらしい
普段はベッドだから少し身体が痛いな
身体を起こして辺りを見る、うん。やっぱりここは案内してもらった私の自室となる場所に間違いない
襖から零れる光から、今は昼かな?という事はすっかり爆睡してたって事?
確か昨日は白虎丸と散歩に出て、妖魔とかいう気味悪いものを見て、そこから気絶
白虎丸がここまで運んでくれたのかな?
んー、身体痛い
とりあえず白虎丸にお礼しに行かなきゃ
口実があるなら二人きりで話すのもそんなに難しい事じゃないし、さて何処にいるのか……な…?
「ジーーーーッ」
「ひぃぃ!!」
部屋を出ようと襖を見ると、少し戸をあけた白虎丸が目だけをこちらに覗かせていた
家政〇は見た、か。お前は!!
ジーッてのは効果音であって口で発する言葉でもないからね!
「な、なにかご用ですか」
「えっ、あー、いや、起きたなら言えよ」
「覗いてないで入ってきて良かったのに」
そう言うと白虎丸はゆっくりと戸を開け中へと入って来た
何やら気まずそうな顔だ
「昨日は、悪かったな…また気分の悪くなるもの見せちまって」
「え?いや、いいんだよ、そういうお仕事だもんね?あたしの方こそ気絶なんかしちゃってごめんなさい」
「女が気絶するのは珍しくねぇって龍河が言ってたし、別に凛音は悪くねぇから気にすんなよ、それより身体は大丈夫か?」
「うん、ぐっすりって言うのかな?よく寝れたみたいで疲れもだいぶ取れてる、それよりさっきご飯が…とか聞こえてきた気がしたけど白虎丸は食べに行かないの?」
「あぁ、これから行こうと思ってたところ、凛音もはやく着替えてこいよ」
「うん、ありがとう」
「じゃあな」
そう言うと白虎丸は部屋を後にした
そういえば私、こっち来てから何も食べてないかも…と考えたら急にお腹がすいてきちゃった
着替え、着替えって…あれ?
よく見ると私、昨日着てた着物と違うものを着ている気がする
冷静に考えてみよう
この家には男のみ
着替え済みの私
意識、ナッシング
「あぁぁぁぁ…!!!」
誰、誰なの!?着替え担当は誰だったの!?
白虎丸だったにしては普通すぎた気がしたし、黄金?あー、有り得そう
でももし龍河さんだったら!?推しに身体を晒すのには早すぎだよ!
気絶なんかしている場合じゃなかった…良心でしてくれたのはわかっているのだけど、それと乙女心は別物
そうだ、ウィンドウを開いて好感度チェックしてみよう!
もしかしたら何か変化があるかもしれない
最初に見るのは、気になる龍河さん
やっぱりここは鉄板。気になる好感度はーーー
好感度1
うん、変化無いわね、嬉しいのか悲しいのか
次に黄金
着替え担当の可能性が一番高そうなのは黄金だと思うのよね
なんだかんだあのお歳で女慣れしてそうだし
好感度0
んー、こっちも変化ないかぁ
鴉に至っては予想通り0
さぁ、でも最後が一番肝心な白虎丸
きっとルートには入っているはずだからそれなりに他のみんなよりは高いはずなのだけれど
好感度10
疑惑度2
おお!上がってる!二人きりの散歩が意外に効果あったのかな…って、あれ?なにこの疑惑度ってやつ
他のみんなにはなかったはずなんだけど…
どういう事だろう?