プロローグ(2)
兎にも角にも、舞台となる白虎丸家に着いた私は唖然としていた。
大きな神社に住んでいるという設定だったし、確かに作中にも大きいと書いてあったが、思った以上だった。
決して綺麗とは言い難いけれど、どこか雰囲気のある社の隣には離があり、そこで生活を共にする事になるらしい。
「此処が白虎丸の家?」
「あぁ、御守神社って呼ばれてるよ、って言っても神主なんか居ねぇけど」
「そうなんだ...」
「いいから入れよ、一応暫くは凜音の家にもなるわけだし遠慮しなくていいからな」
「うん、ありがとう」
白虎丸に続いて離の中に入った私は履物を脱ぐとキョロキョロと家の中を見渡した。
鉄骨、なんてことはもちろんなかったけど、お婆ちゃん家のような雰囲気に少し安堵した。
洋風な世界観より馴染みやすくて良いかも。
「んじゃ、俺は湯浴びしてくるから適当に中でもフラついて待ってろ」
「えっ!?」
そう言い捨てるとさっさと行ってしまった。ふらつくって言っても人の家をそんなウロチョロ出来ないよ...
「あれ?お姉ちゃん誰?」
どうしようかとワタワタしていると後ろの玄関から声が聞こえ振り返ると、襟足の伸びた茶色の髪にまん丸の瞳をした低身長の男の子が立っていた。
この子は確か年下担当の黄金だ。
人懐っこい性格でショタコン受けのいい可愛らしいタイプ。
「あの、私は白虎丸に連れて来てもらってここで暫くお世話になる事になりました。凜音って言います」
「へぇー!そうなんだ!白虎丸のおんなになるの?」
「え!?違う違う!そういう事じゃなくて私、記憶がなくて行く場所がないから連れて来てもらっただけで...」
「なんだ、違うのかぁ、良かった!お姉ちゃん可愛いから白虎丸には勿体ないもんね!」
可愛い...?私が...?
あ!そうか、もしかして私この世界の主人公の容姿になってるの?そう思えば手とかだってピチピチだし、髪だって確かに黒髪だったけど、こんなに綺麗な黒髪ロングじゃなかった...
これは役得だわ!
「そ、そうかなぁ?」
「うんうん、僕のお嫁さんに欲しいぐらいだよ、ね?凜音お姉ちゃん」
調子に乗ってモジモジする私の耳元へ近付いてきた黄金は妖艶な笑を浮かべると、
「僕の部屋こない?」
と囁いた。
「へ!!??」
「だーかーらー、僕の部屋こな...」
「こら、やめなさい黄金」
私が硬直していると、黄金の言葉を遮るように落ち着きのある声が聞こえてきた。
振り返ると、入り口を抜けた先の通路から人影が歩いてくる。
深い青色の長い髪を一つに束ねた優しそうな顔付きの男性。
この人って確か...
「あ、龍河さんだ!なんで止めるの?」
「見てみなさい、彼女驚いてますよ。全くその口説き癖はどうにかならないのですか?」
「挨拶だよ!」
「はぁ...」
龍河さんと呼ばれたこの男性は紛れもなく私の推しキャラだ...!!
この落ち着きのある物腰、声や表情にサラサラの長い髪、間違いない!
私が[最期まで]をプレイしようと思った理由はこの龍河に一目惚れしたからだった。
憧れのキャラクターが今目の前に立っている、動いている...硬直していた身体がより一層硬直していくのがわかる。
もはや石になった気分だ。
実物もやっぱりかっこいいなぁ...。
「初めまして、先程すれ違いざまに白虎丸から事情を聞きました。大変でしたでしょう?」
「あっ、いえいえ!そんな事ないで...」
そう言いかけた時だった。
否定するように手のひらを左右に振った瞬間、目の前にゲームらしい画面が現れた。
これってウィンドウ...?
トップページに戻れたり、セーブが出来る画面だよね?
さっきの手の動きで表示されたってわけね
「あの、どうかしましたか?」
「えっ!?いや、何でもないですよハハハ...」
「そう、ですか?でしたら早速ですが、凜音さん...でしたっけ?」
「はい!間宮 凜音です」
「では凜音さん着いてきてください、お部屋にご案内しますよ、ふふ」
優しげな笑みを浮かべた龍河は私を気にしながらも前を歩いて行く。
そういえば、ウィンドウに気を取られて気付かなかったけど黄金はどこに行ったのかな?
まぁ、この家に居ればそのうち会えるか
▽
龍河に案内された部屋で、やっと一人になれて安堵する。
私の部屋となる客間は、中庭が見える少し広めの和室だつた。
思ってたより手厚いもてなしをしてもらってる気がする...。
でも、今一番気になるのはさっきのウィンドウ。
確か...手をこうだったかな...?
あ!でた、良かった。
キャラクター
好感度
セーブ
ロード
まずキャラクターっていうのはキャラ紹介って事よね?これはだいたい把握してるから後でもいいかな。
次に好感度、かぁ
んー、まだ序盤だし初期状態だよね?
でも気になるしちょっと開いてみようかな...
空中に浮かんだウィンドウを指でタッチすると、キャラクター別の好感度画面へと切り替わる。
今まで知り合ったキャラクターは画像付き、まだ知り合っていないキャラクターはシルエットで名前は[???]になっている。
誰から見ていこうかな...一番気になるのは龍河だけど、さっき知り合ったばかりだし...いいや!見ちゃえ!
ポチッ
龍河 好感度1
まぁ、そうだよね...1あるだけいいよね...
どこで手に入れた1なんだろう?
次は、白虎丸かな。
白虎丸 好感度5
あれ!?序盤にしては高くない!?
まだプロローグあたりだよね?なんでこんなに好感度が?
そのあとみた黄金の好感度は0、好感度順にいけば白虎丸、龍河、黄金の順番だ。
メインの白虎丸はわりと攻略が簡単なのかな?
何かした記憶もないし...情に弱いとか?
まぁでも好感度はそろそろ置いておいて、やっぱり一番気になるのはこれ。
セーブ
ロード
あるじゃんんんん!!
セーブ機能あるじゃんんんん!
ゲームオーバーが人生のゲームオーバーじゃないの!?
ギリギリで生きていけって事じゃないの!?
と、兎に角せっかくセーブ機能があるんだから使わなきゃよね...なんか怖いけど、押してみようかな...
ポチッ
セーブ完了 客間
...出来た?
案外何の演出もなく、サクッと終わっちゃった。
拍子抜け、でもこれってかなり重要だよね?セーブはこまめにしていった方がいいかも...。
それに、ウィンドウが出るって事はもしかしたら[はい][いいえ]みたいな選択肢も出てくるかもしれない。
そうなったらセーブはかなり重要になってくる。
重宝しよう。
ウィンドウを閉じて、横になった。
見覚えのない天井だ、ゲームでもこんな細かな所まで書かれてなかったし、リアルなんだなぁって実感する。
これからどうすればいいのかなぁ
それに、4人目のキャラクターが出てくるのも時間の問題だ。
4人目と知り合ってしまったらプロローグは終わり。
ルート選択に移行してしまう。
全員生存ルートを目指すにしても、誰のルートを選べばそうなれるのだろう?
だめだ、疑問が多すぎて頭ぐちゃぐちゃだ。
少し寝ようかな...
トントン
ん?ノック?
「はい」
起き上がって着物の裾を直すと、戸が開かれていく。
「これ...龍河から...」
スッと現れたのは黒髪。前髪でジト目の片目を隠している男の子だ。
名前は確か、鴉。
無口+不思議系キャラクターだ。
って、冷静に分析している場合じゃない!
どうしよう、ついに4人目が出てきちゃったよ!?
プロローグのまま居たかったのに...!!
「...?聞いてる...?」
「う、うん!聞いてる聞いてる!持ってきてくれてありがとう!」
「...どういたしまして、それじゃあ...」
パタンッ
い、一瞬だったなぁ...
でもこれも知り合ったという事になるよね?
そうだ、ウィンドウ、ウィンドウっと。
あ、やっぱり知り合った事になってる
さっきまでシルエットと[???]だった部分にはしっかり鴉と名前が入っていた。
好感度は0のままだけど。
とりあえず持ってきてくれたお茶が冷めたら勿体ないし、飲んで落ち着こうかな
近くまでお茶を持ってきて、啜る。
ホッとしますね、和服にお茶に和室。
うん、日本人って感じ。