愛の小説と僕の恋
ある日僕はある小説を拾った。タイトルは「愛の小説」。なんともそのまんまであろうか。内容もまた、恋愛小説だった。
それは、何から何まで普通の、さながら使い古されたようなありきたりな恋愛小説で、あまりにも普通すぎてもはや読むのが退屈ですらあった。
そこで僕は思い立った、この小説の通りにすれば僕は普通の恋愛をすることができるのではないかと。そして僕はこの「愛の小説」の模倣を始めた。
まずは手始めに幼馴染の家に行こう。幼馴染の家に。...。幼馴染なんてものは僕にはいない。そもそも幼馴染なんて普通はいないだろう。もしかして、この小説は思ったほど普通ではないのかな。
仕方がないので、幼馴染は十年来の付き合いである部屋の壁のシミで代用することにしよう。ああ、そうだ。幼馴染は毎朝主人公を起こしてくれるんだったな。...。壁のシミが起こしてくれるわけないじゃないか。全く、この小説の何処がありきたりな恋愛小説なんだ。全然普通じゃないではないか。いい加減腹が立ってきたぞ。温厚な僕とて怒るときには怒るんだ。いい加減にしてくれよ。いや、何に怒っているんだ僕は。落ち着け、頭を冷やすんだ。
さて、毎朝起こしてくれるものと言えば、それは勿論目覚まし時計。つい最近買い替えたばかりなのだがここまで来たらこれくらい妥協したって構わないだろう。ふむふむ。主人公は幼馴染と一緒に学校に行くようだな。この頃19ヶ月程学校には行っていなかったのだが、いい機会だ。久しぶりに学校にいくとしようか。さて、そうと決まれば善は急げだ。早速目覚まし時計と共に学校に行こう。
周りの視線が痛い。これはかなり恥ずかしいな。今すぐ家に戻りたい。しかしこの「愛の小説」でも主人公は幼馴染と通学することを恥ずかしがっている。これはどうやら間違っていないようだ。そして主人公は幼馴染に好意を抱いているようだ。同じように恥ずかしく思っている僕は、もしかしたら目覚まし時計に好意を抱いているのかもしれない。
ああ、これが恋というものなのか。まるで世界が変わったかのようだ。
恋愛モノとは名ばかりの何とも言えない短編。ギャグテイスト。




