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 「でも先輩、その人本当に吸血鬼ですか? 普通の人に見えますけど」


 「さあな、俺も委員会から要請を受けただけだし。実際分からん。彼女があの一家に何かしたようにも見えなかったしな」


 「何もしてないよ。……さっきはありがとう真田君。あの人達のことそっとしておいてくれて」


 「俺は君を連れてくるように言われただけだ。一般人に何かするつもりはない」


 「え、先輩その人と知り合い何ですか!?」


 「西山、……少し彼女と二人にしてくれないか」


 「いいっすけど……。俺じゃあコンビニでコーヒーでも買ってきます」


 そう言い西山は車を止めコンビニへと向かった。


 「久しぶりだね真田君。私の事覚えてたんだ」


 楓は真田に笑い掛けた。


 「……覚えている。苗字が違っているようだが」


 「ああ、親が離婚したから。でもその後すぐ二人とも死んじゃってね。結局なんか苗字だけ変わっちゃって面倒だったんだ」


 「小此木。君は本当に吸血鬼なのか?」


 「もどきだよ。それと今は猶原だから。東堂って委員会の人は、私を希少種って言ってた」


 「小此木の方が言いやすいんだが。その東堂からお前を連れ帰るように要請された」


 「あの人警察まで動かせるの? じゃあもう私はどこにも行けないね。私は実験台にされて殺されるんだね」


 真田に冗談っぽく楓は言った。


 「東堂は俺の大学の時の知り合いだ。個人的にも依頼された。だけどどうして君が……」


 「誰にだって起こり得るよ。たまたま私だっただけだよ。……お願い真田君。あの人の元には返さないで。私、人を襲ったりなんかしない。最期ぐらい自分で選びたいの!」


 真田は普段あまり作ることのない表情を作り、困ったような顔を楓に向けた。


 「そうは言っても……。君はこれからどうするつもりなんだ? それに人を襲わなければ生きていけないだろ? 渇きは耐えられるものじゃないと聞いた」


 「私は特別みたい。渇いても自分を失うほどではないし、ビタミン剤で補えるみたい。陽の下にだって少しくらい出ても何ともない。服や何かで遮れば灼けることもない」


 真田は楓から視線を外した。


 「正直どうしていいのか分からない。知り合いが、君がこんなことになってしまって。俺はどうするのが正しいのか分からない。出来る事なら君を庇いたい」

 

 「それは……、真田君も危険に晒すことになるよ。それにどうすることも、きっと出来ないよ。私は人間には戻れないし。私ね渇きがどんどん酷くなってきてるの。初めは人を襲うくらいなら自分から陽の下に出でて、灰になるつもりだったんだ。でもそれも私の体質じゃ難しいのかな? すぐには死ねないよねきっと。

 私東堂にいいようにされるくらいなら、貴方に殺されたい。ここで貴方に会ったのも運命だよ。私の事殺して?」


 「……それは」


 「貴方がその銃で私の頭を撃って、陽の下に私を連れだしたらそれで終わり。私は安らかに死ねるわ。それとも貴方は私に苦しんで死ねって言うの? ねえお願い、真田君」


 真田の手を取り楓は言った。真田は何も答えなかった。答えられるはずがなかった。知人をその手で殺すなど真田は出来ないと思った。


 「真田君、中学の事覚えてる?」


 「ああ、君は隣の席だった」


 「私達いっつも一人だったよね。その割に、隣なのに話すこともなくて。今思えば変だったよね」


 「君は人付き合いが嫌いなのかと思ってた。君と初めて話したあの日の事今でも覚えてる。何を考えてるのかと思ったら、意外と普通の子で、普通に話も合うし……。中学では君と居る時間が一番楽しかった」


 「私も。真田君いっつも本読んでたし、話しかけないでアピールかと思ってたら、ただの口下手だっただけだし」


 楓は中学の頃を思い出して微笑んだ。真田も同じ気持ちなのだろう。さっきまでの表情の無さは何処かへ行ってしまったように、微笑んでいる。


 「君がいきなり居なくなって、俺は驚いたよ。その後は君が居なくなって、寂しくて、他のクラスメイト達とも話すようになった。話してみると案外楽しかった。君のおかげだ」


 「私はいっつもそうなの。誰かと仲良くなったと思うと別れなければいけない。だから誰とも仲良くならないようにしてた。真田君もきっと私の事なんて忘れてると思ってた。でも覚えてたんだね。ちょっと嬉しいよ」


 楓は少し悲しそうな、それでいて嬉しそうな顔を真田に向けた。


 「君が……、助かる方法はないのか?」


 「ないよ。私の事助けたいなら真田君が私の最期を見届けて。それで私は救われる。貴方になら殺されてもいい。ううん、違うな。貴方に殺して欲しい」


 楓の瞳は真っ直ぐ真田に向けられた。その瞳には迷いも後悔もなかった。覚悟を決めた真っ直ぐな目だった。


 「俺は……」


 「先輩! 話終わりました? 俺も中に入っていいですか?」


 真田の返事は西山によって遮られた。


 「ああ……。俺が運転する。小此木、最期に行きたい場所はあるか?」


 「だから猶原だってば。……そうだな私達の中学に行ってみたいな。思い出の場所だしね」


 「分かった。西山、悪いがお前も付き合え。彼女の最期の願いぐらい叶えてやっても文句はないだろ?」


 「最期ってそんな物騒な! 研究所に戻ればちゃんと治療もされるんでしょ? 見た感じまだ発症レベルは低そうですし」


 「あそこに戻っても殺されるだけよ。人間に戻れた吸血鬼もどきなんていないわ」


 楓は冷たく西山に言い放った。その言葉を聞いた西山は顔色を悪くし唇を噛み締めた。


 「……じゃあ、俺達はこの人を、殺す手伝いを……? こうやってちゃんと俺達と話しているこの人を殺すんですか? それって……」


 「仕方ないことよ。貴方が悪いんじゃないわ。ごめんなさい、きつく当たってしまったわね」


 楓の言葉を聞いた西山は俯き何も言わなくなった。


 「少し眠い……」


 「寝ててもいい」


 「ごめん、私寝るとなかなか起きないかもしれない」


 楓は落ちてくる瞼を必死に開けそう言った。


 「分かった。君が起きるまで待ってる。ゆっくり寝てくれていい。ただし君を逃がす訳にもいかないからここで寝てくれ」


 「ありがと」


 楓はミラー越しに真田に微笑みかけ眠りに就いた。

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