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何とか上手く行ったと楓は思った。あの東堂も案外馬鹿で抜けていると楓は思い口角を上げた。
東堂達に幻覚の楓を見せ、その間に奥の部屋に楓は移動した。そこに居たのは榛名と二人の男だった。楓は吸血鬼の特性を生かし、瞬時に動いて三人を気絶させた。楓は榛名をクローゼットに押し込め、入らなかった男二人を、奥の部屋へ押し込んだ。
榛名から白衣とヘッドフォンを奪った楓はそれを身に纏い、自身に榛名の幻覚を被せた。思ったよりも早く東堂が幻覚のからくりに気づき脱出することは出来なかった。だが東堂は目の前に居る榛名を楓だと疑ってはいなかった。
榛名を気絶させる前に楓は榛名と目を合わせた。吸血鬼もどき同士だからなのか、楓には分からなかったが、榛名の性格や特性を瞬時に理解した。その理解した性格を真似ることで楓は榛名を演じたのだ。
塔から抜け出した楓は裸足のまま走った。陽が少しずつ登り始めていた。楓は陽を避けるように建物の影を走った。
太陽が昇り切り辺りが明るくなった頃、楓は限界を感じた。力を使いすぎたせいもあり眠くて仕方がなかったのだ。楓は足を止め、頭を押さえた。薬はもうない。ここで眠ってはいけない。すぐに追手が来る。足を動かし続けなければ。楓はそう自分に言い聞かせた。
気力で歩く楓は一台のトラックを見つけた。そのトラックには住み込みの従業員募集の張り紙がしてあった。こんな時代だ。人口が減っても仕事の量は変わらない。どこも人手不足だった。楓はそのトラックで荷物を降ろしている男の前へと飛び出した。
「お願いします! 私を雇ってください!」
男はキョトンとした目で楓を見た。楓の姿は裸足でその足はすり切れて血が出ていた。ふらふらとした足取りで今にも倒れそうだ。楓自身も分かっていた。こんな怪しい女、通報されるかもしれないと。だがもう体力の限界を迎えている楓にとってこれは最後の希望だった。
楓は頭を下げたままその場へ倒れた。限界だった。




