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彼女は目を覚ました。そこには見慣れた白い天井があった。首を横に向けると点滴がまだ半分ほど残っていた。ああ、まだ終わっていないのかと、冷め切らない頭で彼女は思った。
最近は眠りに落ちる感覚が狭くなってきていると彼女、猶原 楓は思った。
楓は点滴を見ながら思う。どうして私が、と。仕方のないことだとは思っていた。何度も何度も、自分の選択に後悔はないと楓は自分に言い聞かせていた。だがしかし、こうなってしまって思うのだ。あの時、親友を見捨てていれば自分は助かったのではないかと。
楓はそんな思考を振り払おうと首を振った。
「楓ちゃん。まだ点滴終わっていなかったのね。これ、いつもの薬。置いておくわよ」
「ありがとうございます。篠原さん」
「あんまり言いたくはないけれど、この薬で症状は抑えられても治りはしないんだからね。それに政府の決定でもう薬も材料も手に入れることが難しくなってきたわ。この病院にある分も……もうしれているわ」
「ごめんなさい。私のせいで病院まで危険に晒すことになってしまって……」
「私はあなたが人を襲わないのは分かっているわ。信じてもいる。でもそういう人ばかりではないのよ。この間来た新しい先生だって、あまり信用出来たものじゃないわ。私や夫はあなたに恩もあるし、あなたが好きだからこうやって協力する。でもこれからどうするかはあなたがちゃんと決めるべきだわ」
篠原の言葉を聞き楓は実感した。私には時間が無いのだと。薬ももう底をつきかけているのだろう。篠原夫妻が裏で手を回して無理をして、薬の成分を研究し作ってくれていることも気づいていた。その薬の特殊な成分がもう手に入らないのだろう。
「ありがとう篠原さん。私は人として最後まで生きたい」
「楓ちゃん……。どうしてあなたみたいないい子が、こんな事になるのかしら」
篠原は楓を娘のように思っていた。篠原の目には涙が浮かんでいた。
「私が選んだことだから……」
そう、全ては楓の選択の結果なのだ。