だから僕はギャルが嫌いだ
僕はギャルが嫌いだ。
「それマジ!?チョーうけんだけど」
何よりもギャルが嫌いだ。
「ヤベェー!それマジでヤベェんですけど!」
派手だし。
「つかさ、お前今日盛り過ぎじゃね?気合い入り過ぎっつーか」
うるさいし。
「はぁ?あーしはそんなんじゃねーし!」
言葉遣いが酷いし。
「うっせーし!とりま死ねし!」
うっせーのはお前だし!お前が死ねし!
自分と相容れない嫌いな人種のことは極力考えないように心がけているのに、今日はそうもいかない。なぜなら、学校帰りの僕の進行方向をギャルの集団が塞いでいるからだ。この狭い一本道をギャルの集団と同方向へ進んでゆく。つまるところそれは渋滞を意味する。これは多数の賛同を得るであろう僕なりの見解だが、女子の集団はとにかく歩くのが遅い。道を塞ぐくせにチンタラチンタラチンタラチンタラ、本当に邪魔でイライラする。ちょっと通してください、と話しかける度胸を持つ人が心底羨ましい。当の本人たちは自分たちが人に迷惑をかけているなどとは微塵も考えていないだろう。そんな浅はかな脳しか持っていないことだろう。
だから僕はギャルが嫌いだ。
そんなことを考えている時だった。
「ぎゃっ!」
後ろから突如何かが飛んできて僕の頭に直撃した。あまりに突然の出来事だったので、僕は身体を支えることも出来ずに思いっきり前に倒れ込んだ。意識を遠くした僕の目がなんとか捉えたのは軟式の野球ボールと、不注意で開けっ放しにしていたカバンから散乱した教科書類だった。気付けば鼻血も出ている。
散々だ…… 一体僕が何をしたと言うんだ……
世間への理不尽さをモロに煽り再起不能になった僕がそのまま倒れ込んでいたその時だった。
「今なんか変な声しなかった?」
「ちょっと!誰か倒れてるって!」
「マジだ!ねー、だいじょーぶ!?」
「鼻血出ちゃってるし!ティッシュティッシュ」
「教科書も散乱しちゃってんじゃん。かわいそー」
「なんかボール落ちてるよー」
……ん?
「すいません、ボールありませんか?」
「これキミたちの?」
「そうです」
「こんなところでキャッチボールなんかしちゃ危ないっしょー?わかった?」
「ごめんなさい」
「よしよし、よく謝れた。はいこれ」
「ありがとうございます。すいませんでした」
「これからは気をつけるんだぞー」
……なんだ?
「よいしょっと!」
「!?」
ギャルの一人が僕の右手を引いて、僕の身体を地面から引き上げた。
「ねえ、だいじょーぶ?」
「あっ…… ハイ、全然」
「病院とか行った方がいいんじゃないのー?」
「いえ、本当に大丈夫ですから……」
「そっかー。お大事にねー」
僕に向かって手をひらひらとさせるギャルに戸惑った僕は、ギャルたちと反対方向に走り出していた。右手の体温を逃さぬよう、拳をしっかりと握りしめながら。
「なんだ、この気持ちは……!?」
走りながら頭の中で反芻する。
僕はギャルが嫌いだ。
僕はギャルが嫌いだ。
僕はギャルが嫌いだ。
そんな僕の固い固ーい決心を、簡単に、いとも容易く崩壊させてしまうから。
だから僕は、ギャルが嫌いだ!