えいりあんうぉー
前作「ちんぱんじーうぉー」の続編的なお話です。
内容は一部改変しただけなのであしからず。
この物語に出てくる登場人物、生物名、および事件はフィクションですので、現実のそれらと混同しないようお願いいたします。
ある初秋の日の事だった。大陸中央部、ベルヘイム帝国帝都・アルカロイドの街。
私たち帝国魔法兵団は、領内東部地域の森林地帯にて、不審な飛行物体が数多く浮かんでいるとの通報を受け、この街にある本部で対策に追われていた。
兵団は、まず事態を把握する為に斥候として十人規模の小部隊を派遣した。
これにより未確認飛行物体がどこの星のモノで、どの程度の数があるのか、実際にどの程度脅威なのかの確認を取ろうとしていた。
しかし、斥候は誰一人帰還することなく消息を絶ち、結果、無駄な時間ばかりが経過していった。
少数部隊では埒が明かないと判断した私たちは、百人隊規模の強行偵察部隊を編成。これを東部へと向けた。
最初に斥候として送った者達と違い、ある程度戦闘に慣れ、指揮官も戦場での判断力のある者をつけての編成だったのだが、これが功を奏し、私たちは、ようやくにして敵の正体が何なのか知る事となる。
敵は、人のような姿をした宇宙人『グレイ』であった。その名を聞き、私たちは戦慄した。
グレイとは、二つ足で歩く怪生物で、人より低い背丈をしている。
人と違い全身が銀色で謎の怪言語を操るのだが、この生物の最たる特徴として、非常に科学力が高い。
その知力たるや未知のマジックアイテムを駆使して町並みを作り変えるほどで、グレイ一人が森に住み着くと、もうその森はエルフすら住めないメガロシティへと変貌してしまうと言われていた。
餌として象や牛を主食とし、時にはエルフやオークをもアブダクション(誘拐)すると言われており、森に住まう全ての生き物共通の天敵、生物災害である。
通常、グレイが出没した地域においては、この宇宙人一人を撃退するのに、普段は敵対しているエルフとオークが共同戦線を張り、国家ごと消耗戦を仕掛ける覚悟で挑み、一年二年かけてようやく撃退できるかどうかという話であった。
場合によっては撃退に失敗し、そのまま侵略戦争に敗れてしまう国家もあるほどで、その脅威たるやまさに生きたカタストロフィである。
そのような宇宙の荒くれ者共が集団で浮遊している。
私たち人間にとっても当然ながら、生易しい相手ではない。
正直大陸全てと戦争をやらかした方がよほどマシな結末が見える程である。
かと言って放置して今以上に数が増えでもすれば、いずれは大陸、いや、世界全土に関わる宇宙戦争になりうる可能性があった。
事は、既に兵団の本部ではなく、国家レベルの最重要案件となったのだ。
国家上層部は、まず最初に、このグレイ騒動を隠蔽しようとした。
先導したのは貴族院の議員、アルバトロス伯爵。
彼は、国民生活には直ちには影響しないと考え、この凶悪な宇宙人に対して悪戯に干渉するのはかえって危険であるとし、問題の解決よりも今は放置し、自然にいなくなるのを待つべきだと主張した。
無理に関わって家畜等をキャトルミューティレーションでもされて、それが他国に知れ渡っては恥であるとし、問題そのものを隠蔽すべきだと言うのだ。
これに賛成する議員には現地から遠く離れた西部やある程度防備の整っている中央部のチンパンジーらが多く、多数派の理論によって少数派たる東部の領主らの悲鳴交じりの抗議は黙殺されるかに思えた。
しかし、ここで女帝エスカリーテの鶴の一声が挙げられ、状況は一変する。
「少なからぬ数の我が臣民が家畜を失う恐怖に怯える中、それを放置しようとは何事か。恥を知りなさい!」
厳めしい顔立ちの歴戦の騎士やチンパンジーらも居並ぶ中、妙齢の女帝は民を優先して行動すべきと規範を示した。
実際に家畜に被害が出たという報告は入っていなかったが、女帝がこうして断言したのだ。否定などできようはずもない。
楽観的雰囲気の漂っていた議場の空気は議員らの動揺で再び騒がしくなり、女帝の顔を立てようと票を翻す者が続出したらしい。
こうして、私たち帝国魔法兵団は、貴族院からの正式の命令を受け、グレイ迎撃部隊の編成を行う事となった。
帝国魔法兵団を構成する軍単位部隊は5つあり、今回の作戦ではその内の3つを使う事が許されていた。
まず、グレイの飛行兵器をけん制しつつ、明確な兵器性能やワープポイントの予測位置を調べる為、先遣部隊としてナッシュビル将軍率いる第四軍が出撃。
次いで、先遣部隊と合流後、対グレイの有効な作戦を考案・これを指揮する役目を担ったセリス将軍の率いる第三軍が準備を整え次第後を追う。
三つ目の軍を率いるのは第五軍のバークレー将軍で、これは予備兵力および宇宙人特集の現地取材の為の要員配置である。
四軍と三軍の進軍速度を稼ぐ為、物資の大半と三軍の水着等はこちらに積み込み、後から追う形で現地入りする形となる。
その為に五軍は戦闘行為をはじめから念頭に入れられていなかったのだが、先の騒動で加わったチンパンジーらが数多くこの部隊に配属され、新兵諸君の護衛要員としてその力を発揮してくれる事となっていた。
こうして最初に現地入りした第四軍がグレイと遭遇戦に突入。戦争が幕開けした。
当初、敵は未確認飛行物体である為、対人間用の戦術・戦法は通用しないもの・必要ないものと考えられた。
そのため彼らの行動は言ってしまえば敵を見つけ次第攻撃を開始、というシンプルなものであったが、これがいけなかったのか、第四軍は大打撃を被ってしまう。
グレイは、確かにあまり人間性を感じさせない生物であった。
普段何をしているのかもよくわからないこの宇宙人であるが、飛行兵器の中に住まう以上は空に特化された身体能力を持っている訳で、彼らは日光浴以外ではこの兵器の中から出たりしない。
つまり、必然的に飛行兵器を撃墜する必要があったのだ。
わが国を代表する精鋭部隊だけあって、他国の騎士団のように正面から殴りかかるような愚策は流石に弄さなかったが、開幕の魔法攻撃によって撃破できた飛行兵器はわずか三隻で、興奮したグレイ達が放った怪光線によって第一陣のおよそ4割が死傷した。
幸い指揮系統そのものにダメージはなかったため即座に撤退し事なきを得たが、これにより無策で挑むのは危険と判断、対グレイ対策の為の作戦を練る時間が必要となった。
都合のいいことにグレイは森には攻撃を加えてこない為、ナッシュビル将軍とその部下たちは、森の中に設置した野営地でじっくりと計画を練る事が出来た。
最初に考案されたのは、「森そのものを焼き払って煙で燻り出してはどうか」という案である。
魔法兵団の力を以ってすれば、木々に火を放ち一帯を焦土とする事など実に容易い。
グレイは煙たがり、その多くは燻製と化すだろう、と。
しかし、これは「森を焼き払うなんて非人道的すぎる」と多くの将兵により反対され、あえなく却下となった。
飛行兵器に魔法攻撃を加えた後に逃げればいいのではないかと、ヒット&アウェイによる被害抑制案を考えた者も居た。
グレイに最大火力の魔法を浴びせてやり、撃墜できようが出来まいがそのまま逃げて森の中に引きこもるのだ。
しかしこれには致命的な欠点があった。
彼らは、非常に高度な技術力を持っている。
攻撃を加えてから離脱しきるまでに、ほぼ確実に飛行兵器の反撃が飛んでくるのが予想できた。
そもそもの性能差からして、人間と飛行兵器では相手にならないほどの差がある。
彼らは自在にワープし、場合によってはこちらが魔法を撃ち終わる前に反撃に入り始めるかもしれない。
あちらは魔法をバリアで防げても、こちらは飛んできた光線を耐えられない。また被害が増えるのではないか。
結局、そのような意見によって封殺され、ヒット&アウェイは実行に移される事はなかった。
三軍が到着するまで調査に専念するのはどうか、という意見は、「それでは三軍に女の子達にアピールできない」と反感を持った若い将兵によって打ち消されてしまった。これには全員賛同した。
上手く一隻ずつ追い込んで確実に数を減らす戦法を考えては、という意見を出した者も、「具体的にどうすればそのような状況にもっていけるのか」という疑問に答える事はできず、うやむやにされた。
そもそも彼らは、宇宙人との戦争行為は初体験であった。
対人戦闘を考慮して作られた魔法兵団は、当然ながら、対人特化の魔法戦術・用兵理論によって運用され、日ごろからそのように訓練を受けていた。
兵士一人ひとりにいたるまで鍛え抜かれたその戦闘能力は、しかし対人であればこそ発揮できる代物で、グレイなどという訳の解からない宇宙人の集団を相手に、対人用に構築された技術が通用する訳がなかったのである。
結果結論的に、議論はいつまでも似たような話題を蒸し返しては反論によって頓挫しての繰り返しで、場の空気は徐々に悪くなっていく。
次第に口論が始まり、将兵達の間には疲労感が漂い始めた。
これをどうにかする為、ナッシュビル将軍は会議の場で画期的な案を出す。
「とりあえず、森に火を放つのはなしにしよう。諸君、もう一度最初から議論してくれたまえ」
疲れ始めていた将兵達は安堵の表情でそれを受け入れ、議論は仕切りなおされた。
こうして、四軍はいつまでも議論を続け、場の空気が悪くなる度に仕切りなおしてを繰り返していた。
しかし、これでグレイの有益な撃退方法を考案できるなら安い対価である。そうなるはずであった。
――結論から言うと、その程度ではグレイの撃退法は浮かばなかった。
策は確かに沢山出た。しかし、その都度それに対する反論、更にそれに対しての言い訳、といった形で舌戦が繰り広げられ、何一つまともにまとまらなかったのである。
とても残念な事に、四軍の作戦は失敗に終わり、後には巻き添えで光線を浴びせられた元エルフやら元オークやらが転がった戦場のみが残った。
三軍が到着したのはそれからほどなくの頃で、四軍の不手際に呆れた三軍のセリス将軍は、四軍とは別機軸の作戦を考案した。
まず、四軍の戦闘記録を元に想定した敵の数からして、これは正面切っての戦闘で手に負える相手ではないと判断、搦め手によって敵を誘い込む作戦を思いついた。
最初に実行したのは、森の至る所にハニートラップを仕掛け、愚かにも罠にかかったグレイから篭絡していくという地道な手法。
猛毒を塗りたくったトラバサミや落とし穴などもあるにはあったが、これに頼ったりはせず、三軍のうら若き乙女たちによる捨て身のトラップによって徹底的にグレイを骨抜きにしてやる事にしたのだ。
これはある程度成功し、罠にかかったグレイはそのまま捕らえられるか、テンプテーションにかけられ挙動不審になったところにとどめを刺される事となった。
しかし、ここで状況は全くの予想外な展開を迎える事となる。
次第に、戦場で見た乙女の誘惑に耐えられなくなった第四軍の兵士らが現れ始めた。
更に恐ろしい事に、ハニートラップ作戦に加わっていた女性兵士達が、一部グレイと種族を超えた愛に目覚めてしまい、脱走してしまう事件が続出したのだ。
セリス将軍も、まさかこんな辺境でロマンスに走る兵士がいたなどと思いもせず、若い女性兵士で形成されていた三軍は成す術もなく瓦解した。
結局作戦継続そのものが不可能となり、セリス将軍はそれ以上の作戦強行は不可能と判断。
もう自分たちだけではどうにもならないと考えるや、ナッシュビル将軍との話し合いの末、悔しいながらも五軍の到着を待つ事にした。
そうして到着した五軍であったが、例によって彼らはあまりやる気がなかった。
元々練度の高かった四軍や一芸に秀でた三軍とは違い、五軍の兵士達は基本的にチンパンジーとの交流を期待し入隊したミーハーばかりで、指揮官層も引率気分の貴族の跡継ぎ等が多かったのだ。
その為、彼らはこの度の戦場もチンパンジーとのピクニックか何かのつもりできただけで、戦う気など更々なかったのだ。
そもそもの予定からして、到着した頃には既に片がついてるか、まずいようなら即座に撤収する腹積もりであった。
あくまで予備の兵力。せいぜいが敵主力撃破までが彼らの仕事であった。
とりあえず任務として補給物資を四軍三軍に分配し始めた五軍兵士達であったが、ここで問題が発生する。
どうしても遊び気分の抜けない若い兵が多かったからか、あらかじめ危険とされ持ち込みを禁止されていたにも関わらず、何人か牧場出身の新兵が勝手に家畜の牛を連れてきてしまったのだ。
戦場における食料は乾いたパンやらカビの生えた干し肉やらで、そういったものが気に入らない若い兵士が、こうして勝手に家畜を運び込み、食材を自給自足するのも珍しい事ではなかった。
だが、今回はあまりにも危険すぎた。
彼らの連れてきたのはグレイの好物とされる牛である。
歴戦の魔法兵達ですら容易に蹴散らされるほどの難敵の好物を、戦い方もろくに知らない若年兵が持ち込んでしまった。
もはや自殺行為としか言いようがない。
案の定、彼らは牛ともどもアブダクションされてしまった。
ベテランの兵士達はその消息を心配したが、翌日朝、意外な事に彼らは誰一人欠けることなく無事に生還した。
それも、妙にほくほくとした表情で、それぞれが背負ったサックには、零れ落ちそうなほど沢山の希少鉱物や宝石類、黄金が入っていたのだ。
彼らの生還に驚いた兵たちであったが、これを聞きつけ彼らの元へ駆けつけたバークレー将軍は、彼らに事情を聞くことにした。
「変な光に包まれて、出たところで皆して呆然としてたら、背の低い宇宙人が沢山いて、一晩泊めてくれたんですよ」
「軍の給料が安いーって笑い話で話したら、なんか金になりそうなものを分けてくれるって頭の中で声が響いて」
「あ、一応僕たちも一度は断ったんですよ? お礼もできないし、ただでもらうなんてみっともないじゃないですか。そしたら『困ったときはお互い様さ』ってすごくいい笑顔で渡してきて……」
「あれは断れなかったよなあ」
案内された会議用のテントで、彼らは口々に語った。
「……君たちは、グレイにアブダクションされたはずだよな?」
「えっ? グレイって何ですか?」
「よく知らないですけど、でもあんな宇宙人ばかり暮らしてるような船だし、大して害じゃないんじゃ?」
彼らの話す宇宙人が何者なのか、という議論も起きたが、何より話を聞いたバークレー将軍は、彼らの無知さに呆れてものも言えなくなっていた。
「君たち……我々は一応、そのグレイを撃退する為に編成された部隊なんだが……」
「そうなんですか? でもそんな危険そうな宇宙人なんていなかったですよ?」
「変な銀色の眼のでかい宇宙人しかいなかったよな。最初見たときはびびったけどすごくいい人(?)たちだったし」
屈託なく笑う彼らに、バークレー将軍は苦笑しながらも一つの光明を見出し始めていた。
「その宇宙人達、そんなに良い奴らなのか?」
「そりゃもちろん。俺たち友達になりましたもん」
「異文化コミュニケーションって大事だなあって思いました」
将軍の問いに、若い将兵が笑って答える。
「もしかして、和平とかできちゃいそうな感じなのか?」
「できるんじゃないですか?」
「だってすごく良い人達でしたもん。『植物を大切にしたいから森を傷つけてる耳の長いやつらが許せない』とか言ってて――」
「あいつらそんな理由でエルフとかオーク滅ぼしたのかよ!?」
野営地に、バークレー将軍の叫びがこだました。
その後、バークレー将軍の提案により、グレイとの和解を試みる事にした魔法兵団は、意外なほどすんなりと彼らとの和平に成功し、一連の騒動は事なきを得た。
後になって分かった事だが、彼らはこの星の植物を研究する為訪れた『大学』とかいう組織の生徒らしく、別に人間に危害を加えるつもりは更々なかったのだという。
ただ襲われたから反撃していただけで、これ以上自分たちに危害を加えないなら何もするつもりもないし、死者は自分たちの技術で復活させられるのでお互い今回の件はなかったことにしようと申し出てくれた。
エルフやオークは彼らから見て植物を破壊する害虫のようなものらしいが、人間はそれらとは違い排斥する気はないとのことで、害意さえ持たなければ人間的には危険はない宇宙人だったと判断された。
元々は音声を発する事はできなかったらしいのだが、ずば抜けた科学力を持つ彼らは、森に現れた魔法兵団の声を解析して言語を習得。
それにより対話が可能になったのだという。
こうしてグレイと和解し、騒動を解決した魔法兵団は帝都へと帰還。
民衆からの拍手喝采と新聞記者による猛烈な取材攻勢を受けながら、堂々と女帝に一連の出来事を報告した。
「さすがは我が魔法兵団よ。誇らしき事よな」
女帝も鼻高々に笑い、兵団の苦労をねぎらったのだった。
めでたしめでたし。
「――これが今回の事件の顛末だよ」
新聞記者のリースにここまで説明すると、私はデスクの上のココアを一口、ずず、とすする。
「グレイってすごく紳士的な宇宙人だったのね。今まで謎だった生態が一気に解決された感じ」
「そうだね、確かにそうだ。彼らはすごいよ。自在に空を飛ぶ兵器を作ったり、この星には存在しないさまざまな鉱物を練成したりもできる」
宇宙人にしておくのが惜しいほどの逸材であった。実際今、彼らの一部は帝都で暮らし、人間の学者を弟子に取りその技術を伝授してくれている。
彼らの技術が帝国のモノとなる日がくるのもそう遠くはないだろう。
「ねぇ、ずっと気になってたんだけど」
「うん?」
「なんで彼らはエルフやオークを植物の敵として見てたのに、人間は滅ぼそうとしなかったの?」
「んー、一番大きいのは、これかな」
窓際まで歩き、余裕たっぷりに窓の外の家屋を指す。
「住居?」
「そう。私達の住居は、粘土を基にした土蔵建築。対してエルフやオークの住居っていうのは、樹木をくりぬいたり加工したりする木造建築なんだ。彼らが森の中で暮らしている最大の理由はこれだね」
エルフやオークは、その生活のほぼ全てを森の中で完結させている。
だが、それはつまり、生活において数多の樹木を消費するという事であり、無計画極まりない消費によって禿げてしまう森もあるほどであった。
植物を愛するグレイ達は、この森林破壊をどうしても見逃せなかったのだという。
グレイという強い味方は、もしかしたら私たちの住居が木造だったなら、対処不可能な不倶戴天の仇敵となっていた可能性もある。
そう考えると、土や粘土で家を作ったご先祖様には感謝しても足りないな、と、苦笑してしまった。
「いい記事が書けそうだわ、ありがとうね参謀さん」
「ああ、約束どおりいい記事が書けたらデートしてくれよ」
「新聞が売れたらね。それじゃ」
我ながら上手い具合に釣られたもんだな、と自分の軽さに苦笑しながら、私はリースが去っていくのをのんびりデスクで眺めていた。
帝都の秋は、まだ始まったばかりだった。