夜桜ちゃん
コンコン、とノック音が聞こえた。
「……誰?」
眠い。
「ベツィーよ。もう夜だけど起きてるのよね?」
居留守を使えばよかった。
「開けて頂戴」
「やだ」
コイツ苦手なんだよ。
ガチャ
しまった、鍵かけて無かった。
侵入しやがった─────
「貴方にどうしても会いたいっていうから、報酬代わりに連れてきたの」
ベツィーの横にいた少女に、俺は驚愕する。
「アリス……!?」
何故ここに…
「こんにちは、ユキさん」
この天使のような微笑み、間違いない。
アリスだ。
「ベツィー。二人にしてくれ」
「OK。訳ありみたいね」
ベツィーは素直に出て行く。
「ユキさん、会いたかった。私、貴方に会うために城を抜け出したの」
「何者、なんだ?」
おかしい。
これは報酬だと、ベツィーは言ってた。
何の報酬だ?
「ふふ、吃驚した?私、殺し屋なんですよ。通り名は─────」
その次に発せられたのは、世界最強とも言われる殺し屋の名。
「Death God」
俺は目を見開いた。
最早、伝説とまで称されるDeath Godが、アリス?
到底信じられない。
「まさかユキさんが、あの虐殺王なんて……驚きました。殺し屋なんですよね」
俺はコクコクと頷いた。
「あ、ああ。アリス、いつから殺し屋に?」
そんなどうでもいい質問にも、律儀に答えてくれた。
「えっと、13歳の時……でしょうか」
「俺と一緒か」
ふと、思いつきで言う。
「え!?でも、転生してきたんじゃ……」
そんなに驚くこともないだろう。
「転生する前から殺し屋やってたんだ」
その位、少し考えればわかるだろうに。
「その時の通り名は……?」
俺は、少し考え込んでしまった。
忘れていたのだ。
「殺人人形だ」
因みに俺命名ではない。
依頼人がそう呼び始め、それが広まったのだ。
お陰で、殺し屋仲間から略してドールと呼ばれるようになってしまった。
あ、そういえば他にもあった。
あれは、確か─────
そうだ、紅い白猫だ。
そう呼び始めたのは、殺し屋仲間。
紅いのに白猫なんて、矛盾してる。
そう文句を言ったら、そのことを延々と説明されたっけ。
もう戻れないあの世界の、懐かしい思い出。
「ふふ、そう呼ばれる理由は、なんとなく分かる気がします」
アリスは可愛らしく笑った。
「そのせいで、ドールなんて呼ばれるんだ。俺はその名前、あんまり好きじゃない」
目を逸らし、斜を向いて不満を溢す。
「ふふ。処で本題なんですが」
アリスの顔が、真剣味を帯びた。
「夜桜ちゃん」
その名前を聞き、俺は過剰に反応してしまった。
「ちょっとした友達なんです。彼女、ユキさんのこと、凄く探してますよ。自分のせいでユキさんが出て行ったって」
夜桜が、そんなことを?
「女物の服を着せたりしたからだって、言ってました」
あれは確かにちょっと怒ったけど。
って、あれ?
アリスから殺気が。き、気のせいだよな!?
「似合ってたそうですね」
なんでそんなこと言ってるんだ、夜桜!
「私も見てみたいなぁ」
思いっきり後ずさる。
「まあ、それは冗談として。夜桜ちゃんに会いにいっては?」
「…駄目なんだ。彼奴を守れるほど、強くならないと」
「夜桜ちゃん、かなり強いんですよ。大人しく守られるような子じゃ、ありません」
それも、そうかもしれない。
「これ、夜桜ちゃんの連絡先。気が変わったら連絡してあげてください」
夜桜……
「用事は済んだので、女装、して頂けますよね?」
冷や汗が、背中を伝う。
「でも、冗談って……」
どこからとも無くアリスが出したのは、腰に大きなリボンをあしらった、水色のワンピース。
「パッド付きのブラと、下着も用意しました」
ほ、本気だ!!
本気で着せる気だ!
「着なきゃここに、夜桜ちゃんを呼びます♪」
先手を打たれた。
「わ、分かった。着るから向こう向いてろ!」
はい、と返事をするアリス。
くるりと向こうを向いた。
ちなみにこの部屋のドア側にアリスがおり、窓は無いため逃げられない。
仕方なく着てやった。
ご丁寧にカツラまで付いていた。黒髪の。
「着たぞ」
アリスが、くるりと振り向いた。
「か、可愛いです似合ってますぅぅ!!もうその恥じらった感じがたまらないっ!ユキ様天使様ですうぅ!!」
この子ちょっと大丈夫か?
這い蹲って涎を垂らしそうな勢いで寄ってきた。
「ひぃっ!」
この悲鳴は俺だ。
ギュっとアリスが抱きしめてきた。
「お触り禁止!」
引っぺがしたが、怖い。




