番外編〜ノームと俺〜
これは俺が、転生する前の話。
今日も依頼で人を殺し、全身返り血で真っ赤だった俺は、一人の少年に出会った。
「おにぃさん…いや、おねぇさんかな?まあ、そんなことはどうでもいいんだけど」
12歳ほどの少年は、いきなりそんなことを言い出した。
「ボクは今回君に情報提供をした、ノームだよ」
ああ、確かにノームという情報屋に依頼したはずだ。
「何の用だ?」
武器を仕舞って向き合う。
「君のこと、気に入っちゃった。お代の代わりに、君の情報を頂戴」
人懐こそうな笑みで、少年はトテトテと歩いてきた。
「通り名も何もないんだが」
「ホント!?じゃ、ボクが考える!」
名前など、なんでもいい。俺は二つ返事で了承した。
「殺しを見てたけど、君、無表情で殺すんだね。殺人人形なんてどうかな?」
何故人形なのか。
疑問に思ったが、嬉しそうなノームを見ると、どうでもよくなった。
「ちょっと胸あるし、おねぇさんだよね。うわぁ、綺麗な顔してるね」
笑みを絶やさず少年は俺の周りをグルグル回る。
「あ、死体回収屋なら呼んだよ。ボクの奢りで!」
これは奢りというのか否か。
可愛らしい満点笑顔のノームに礼を告げ、その場を立ち去ろうとする。
「あ、行っちゃうの、ドール君!」
ぴたりと足を止める。
「何だ、そのドール君って」
「いーじゃんドール君!それよりちょっと待ってよう」
はぁ、とため息。
それでもノームは笑顔だ。
「ボク、普段ネットカフェとかで夜を明かしてるんだけど、この前遂に補導されたんだよね。だから、取り敢えず今晩は泊めてほしいの!」
ダメ?と瞳を潤ませて、ノームは俺を見上げる。
絶対コイツ狙ってやってる。
でもそれが可愛らしいのも事実で。
頭を掻きながら、分かったよ、と了承してやる。
すると、先ほどの涙は何処へやら。
また満点笑顔に戻り、俺の後を着いてくる。
「何でそんなにいつも笑ってるんだよ」
ちょっと不機嫌モードに入りつつ、何となく尋ねる。
「…笑ってれば、受ける暴力も少しはマシになるから。それと、“笑え”って、お姉さまの遺言があるから」
悪いことを聞いたな、と反省。
小さな声で悪い、と謝った。
「全然いいよ!ドール君は優しいし、いい人だね!」
まただ。また、満点笑顔。
この少年が少し不憫になった。
「…ずっとウチに住むか?」
餓鬼一人分くらい賄える。
「ありがとう!とっってもいい人だね!」
心底嬉しそうな顔。
「それと俺はいい人じゃない。いい人なら、そもそも人殺しなんてやってないさ」
「でも、ボクにとってはいい人だ」
ね?と笑うノームが、弟のように思えた。
ちょっと照れ隠しに斜を向く。
「照れてるの?」
「黙れ」
俺はぐしゃぐしゃとノームの髪を乱暴に撫でた。
「あーん、ボサボサになっちゃうよー」
「知るか。ほら、着いたぞ」
「ここがドール君の家かぁ!」
こうしてノームと俺は、共に暮らすことになった。
・
ここは異世界の俺の宿。
窓の外に少年を見つける。
それがノームと重なった。
「ノーム、元気かな…」
悲しんでいるのだろうか。だとしたら、悪いことをしたな。死にたく、なかったな。
俺は遠い世界のノームを想う。
ノームも俺を想ってくれていると、信じながら。




