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アリス・フェレスの苦悩

私は、窮屈な城から出て、散歩していた。

ほんのちょっと、気になっちゃって。好奇心に負けて。

森に入って迷子に……

「うう…」

ああ、泣きそう。

もうお城に帰りたいわ。

「はぁ…」

大きく、溜息をついた。

ドレスで来てしまったのは、失敗だった。

木に当たってボロボロ。

怒られちゃうなぁ、もう。

あれ、何処から来たっけ。はあ、もう帰りたいなあ。

そんなマイナス思考ばかり働かせていた。

ここで私、死んじゃうのかなぁ。

誰か、助けて。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああっ!」

え?い、今のって…悲鳴!?

ちょっと遠いけど…行ってみよう。

スカートの裾を摘み、走っていく。

すると目の前に現れたのは、少しフシギな格好をした人。

性別は分からない。

「あ、あのぉ・・・」

後ろから声をかける。

するとその人は、振り返って私にナイフを突き付けた。

殺し屋の私は、こんなことで動じない。

だけど。

「ひぃっ!こ、殺さないで!」

怯えるふりは忘れない。

その人は男性だった。

漆黒の双眸が、私を見つめる。

美しい人、だなぁ。

「ここはどこですか?私、迷ってしまって」

「残念だが、俺は異世界から来たばかりでさっぱりわからない」

異世界、かぁ。

そんな話、聞いたことがある気がする。

「そうだったんですか!一緒にここから出ましょう。名前は?あ、私はアリス」

私は和かに名乗った。

「俺は有希だ」

「ユキさんですか。雪のように美しい貴方にぴったりな名前ですね」

本当に、美しい人…。

ユキさん、か…

「いや、アリスの美しさには負ける」

私の顔は、火がついたように熱くなった。

「え、いや、そんな・・・」

動揺した私は、前方を指差して言う。

「と、とにかく進みましょう!前進あるのみです」

私は先陣を切って歩いていった。

☆★☆★☆★

「で、出れたぁ・・・」

「疲れましたねぇ」

出たのは私の城の前。

姫、姫、と私を呼ぶ声がする。

その声の主である兵隊が1人、が近付いてきた。

「き、貴様っ!姫を誘拐していたのか?」

槍を構えている。

私は、兵隊がユキさんに危害を加える前に言おうとした。

「違うの・・・この方は」

「姫様、離れていて下さい!ここは私が」

「なんだ、戦るのか?」

私は叫んだ。ユキさんが万一にでも怪我したら…

「やめてぇ!」

ユキさんの前に、私は立ちはだかった。

「ひ、姫様?」

「どけ、アリス。邪魔だ」

冷たく言われたが、それでもどかない。

「それとも、殺して欲しいのか?」

殺意を感じた。途轍もなく大きな殺意。

「ユキさん・・・?」

ユキさんに、私はお腹をけられた。

「ごめんな」

意識が朦朧とする。

謝罪の声は、私に微かに届いた。

「ん・・・」

私は、起き上がった。

どういう訳か血塗れ。でもすぐに納得する。

ユキさんが、兵隊を殺ったんだ。

でも、向こうからやってきたんだ。

仕方ない…よね?

「あ、この人は私の恩人で・・・」

これ以上すると、ユキさんが罰せられる。

「じゃあ、この兵士は何故殺されたのです!!」

「向こうが勝手に襲ってきた」

私は、肯定する為にコクコクと頷いた。

「・・・中にお入りください」

嫌そうな顔。ウチの兵隊はいつからそんな、無礼になったのかしら。

☆★☆★☆★

城で、私はユキさんと話す。

「ふうん。ここ、ナヤって国なんだ」

「はい。あ、迷子の私を助けてくれた礼金です」

「そりゃどうも。ここの通貨単位、ハントって言うんだ」

礼金はきちんと支払う。

ユキさんも受け取ってくれた。

「ピープルカード、作りましょうか?私に発行する権利、あるんです」

ピープルカードがないと、この国では生きていくのが難しいだろう。

「ああ、作ってくれ」

「はい♪では、このカードに血を」

出来上がりを見て、私は質問。

「おや?魔法は特殊属性ですか。どんな魔法です?」

「さあな」

分かっていないのか、教えたくないのか。

恐らく後者。

「できました」

礼を言われた。私は笑って言う。

「よい旅を」

ユキさんの背中が小さくなっていく。

それを見届けてから、私は部屋へ。

先ず、長い金髪を後ろで三つ編みにした。

それから、いつものドレスを脱ぎ、ポロシャツと黒いプリーツのスカートを履く。

その上から真紅のコートを羽織り、袖、靴の裏などに短剣を忍ばせる。

背中には私の相棒、死神の大鎌。

スカートの中に二丁の拳銃を仕込み、準備完了。

窓からそっと抜け出す。

これから、殺し屋の仕事だ。

でもその前に、バーへ。

扉を開けるとベルが鳴った。

「夜桜ちゃん、お待たせ」

角の席に着いている私の友人、夜桜に声をかける。

「ああ、アリシア」

アリシアは、私の使っている偽名。

夜桜でさえ、私がこの国の姫、アリスであることを知らない。

カクテルを注文して、夜桜に向き合う。

「今日、異世界人の男に会ったわ」

「何、それ?アリシアったら、夢でも見てる?」

全く、酷い言い草だ。

「違うわよ。あり得ないことでは無いじゃない」

私は苦笑した。

届いたカクテルのグラスを揺らし、一口飲む。

んん、美味しい。

「まあ、そうだけど…少なくともここ数十年は無かったでしょ」

んー、稀なことではあるか。

ユキさん、本当に何にも知らなかったし、嘘ではない…筈。

ふと腕時計を見る。

「もうこんな時間!?えと、こ、今度払うから…」

慌ててカクテルを飲み干す。

「分かった分かった。頑張れー」

夜桜は、ひらひらと手を振った。

夜桜も殺し屋だ。通り名は紅桜。

急いでバーを出て、駆け出す。

「はぁ…はぁ…」

ギリギリ、だ。

すぅ、と息を吸い込み、インターホンを鳴らす。

「はい、何方?」

「Death godよ、ベツィー」

キィ、と音を立てて、門が開く。

そのまま敷地内へ足を踏み込む。

屋敷の中の客間で、ベツィーの前のソファに座った。

「で、仕事は?」

ニヤリ。今回の依頼人、ベツィーは笑う。

「そぉんなに急かさないで」

苛立ちを覚えた。しかし、ベツィーはそんなこと微塵も気付かない。

「早くして頂戴。急いでるの」

早く戻らなければ、城で騒ぎになる。

「分かったわよ。…私が殺してほしいのは、この男」

そう言って、ベツィーは写真を差し出してきた。

中肉中背で暗い感じの男性。推定40代。

「いつ?」

「出来れば、今すぐにでも。報酬は前払いで払うわ」

私は無言で了承する。

そうすれば、アタッシュケースが差し出された。

中身を確認してから、立ち上がった。

「よろしくね、死神ちゃん」

どうも、あの女は好かない。

渡された住所に行き、そこに居た写真の男の首を撥ねる。

真赤な血を浴びた。

少なくとも私は、殺戮を楽しんでなんかいない。

だから、無表情に死体を見つめた。

「帰らなきゃ」

ふと思い立って、城へと歩きだす。

大きな城は、不気味に夜の街を見下ろしている。

今夜は三日月。オリオン座が、夜空に見える。

きらり、と。

流星が、空を横断した。

東の国では、流星に願いを叶えて貰うらしい。

お願い、か。

「できるなら、もう一度ユキさんに会えますように」

ナイフを持ったあの人は、殺し屋だろうか。

どうしてか、私はユキさんのことばかり考えてしまう。

そんな私をクスリと笑い、歩く。

「あはは、はははははははっ!ふふ、はははっ」

如何かしてる。

「馬っ鹿みたい!」

怪しげな三日月に、私は両手を広げてそう叫んだ。

誰も本当の私を知らない。

狂笑は、全てを隠す夜闇に消えた。

一匹の黒猫が、にゃあ、と鳴いて何処かに行った。

「あ、ははっ。は、は……」

私の頰を、一筋の涙が伝う。

「誰か、助けて。気付いて…」

そんな泣き言さえも、消えてしまう。

皆、私を愛さない。皆が愛すのは、『姫』という役職。

私自身なんて、誰も気にしない。

こんなの、我儘だ。

もう、どうにでもなればいい。

自暴自棄の私は、ここで自殺?

それもいいかも知れないけれど、もう一度ユキさんに会いたい。

あの人なら、SOSに気付いてくれる。

きっと、助けてくれる。

異世界から来た不思議な人。

冷たくも、あたたかい人。

このままだと、何処かに消えてしまいそう。


アリス・フェレス

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