距離は遠く
夜桜は、大丈夫だろうか。
アリスが帰った後、そんな思考が脳内を埋め尽くす。
ベツィーは既に帰している。
電話の受話器を取る勇気が無い。
受話器を取るだけで、夜桜と話せる。
俺は、何と罵られるだろう?
怒っているんだろうな。
何と言われようと、俺は夜桜と話さなければいけない。
俺は受話器を取った。
『もしもし、夜桜よ』
懐かしい、声。
「あー…俺だ」
咄嗟に話すことが思いつかず、オレオレ詐欺みたいになる。
『ユキ?』
少し驚いたような声音。
「今更電話して、ごめん。もっと早くするべきだった」
俺は、謝罪した。
それしか言葉が出てこない。
『ありがとう』
「へ?」
『…ありがとう』
俺は何も、礼を言われるようなことはしていない。
『電話、してくれて、ありがとう』
それを聴いて、俺は思わず笑ってしまった。
『何で笑うのよ!』
「そんなことで…礼を言われると思わなかったから、ついっ…はははっ」
『もうっ!』
怒られた。
「夜桜の声聞いてると、安心する。ごめんな、あんな事言って。全部嘘だから」
電話の向こうから、ホッと溜息が聞こえた。
『よかった…。で、今何処にいるの?』
「サクファのアリアンホテルだよ。夜桜は?」
早く、夜桜に会いたい。
『…ってことはナヤに居るのね。遠いわね…。私、隣国のカナユリに居るの』
世界地図…買わなきゃな。
何処のことだか全然わからん。
「よくわからないが、遠いのか?」
『最低でも2日はかかる距離ね』
遠い…な。
まあ、また機会があれば会えるだろう。
連絡先も知っていることだし。
「じゃあ、な。また連絡する」
『ええ。また、何処かで』
そう言って、通話を終了した。
何処かで、今すぐにでも夜桜に会いたいと思う気持ちがあった。
ああ、今夜は警備人の仕事があるんだ。




