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大坂  作者: こだま
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過去へ

「忘れた」

鞄の中を散々あさった挙句、僕は一つの結論にたどり着いた。携帯電話が見つからない。

居酒屋の制服を脱ぎながら、バイト仲間の田中が僕に問いかけた。

「何が?」

「携帯。たぶん、大学だわ」

僕は記憶をさかのぼり、携帯を大学内の食堂に置いてきてしまったのを思い出した。

「ちょっと取りに行ってくる」

田中は時計に目をやった。

「いや、もう9時だけど。大学閉まってるって」

「用務員のおっさん、まだいるかもしれん」

今日は金曜日だ。土日は大学が休みのため、次に大学へ出てくるのは月曜日になる。その二日間を、現代人の僕が携帯電話なしで過ごすのはきつい。

「行ってくるわ。お先」

そう言って、バイト先の居酒屋を後にした。


---


私立福井東大学。

そう文字が彫られた石版が、校門の端に張り付けられている。僕はその門をくぐり、校内へ入った。

あたりはすでに暗くなっている。わずかな月明かりを頼りに、僕は用務員室に向かった。

用務員室までは、校門を入り中庭を通っていかなければならない。所要時間は5分程度。あっという間に用務員室へとたどり着いた。

「食堂の鍵を貸して欲しいんですけど」

用務員が持ってきたのは鍵ではなく、僕の携帯電話だった。

「これかい?」

「あ、すいません」

言いながら携帯を受け取った。

誰かが届けてくれたようだ。落とした物が必ず手元に帰ってくる。日本に生まれて良かったと、しみじみ思った。

僕は携帯を鞄にしまい込むと、用務員室を後にした。再び中庭に差し掛かる。

ふと、僕はある違和感を覚えた。この大学の中庭には、古墳がある。古墳といっても、教科書等に出てくるような大規模なものではない。土が自分の背丈ほどに盛られたようなものだった。全体を草に覆われ、一見しただけでは古墳だとはわからない。

といっても、それ自体はいつもと変わらない姿であった。いつも学生たちには気にも留められず、存在さえ疑われるような代物である。

僕が目を留めたのは、その古墳に刺さっている木の板であった。ちょうど膝下くらいの高さであろうか。ところどころ割れている。腐食もひどいことから、最近作られたものではない事がわかる。

こんな物あっただろうか。

僕は好奇心から、その板をまじまじと見つめた。文字が書かれている。しかし、長い年月が経っているせいか、剥がれているせいでよくわからない。さらに顔を近づけた。

「真田…、信繁…」

声が漏れた。

その時である。突然体の力が抜け、僕はその場に倒れこんだ。そして激しい頭痛におそわれた。締め付けられるような痛さだ。

目の前が深い闇に包まれた。

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