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神を殺すのに必要な弾丸の数は  作者: ハマヤ
-虚無の弾丸-
90/102

戦場のリアリスト-9-

 銀色の巨人の出現は、正門で戦っていたブリガンテにも届いた。

 拳と刃が激突する中、ブリガンテが一歩退く。


「あれは……」

「始まったか」


 大剣を扱うガイウスが剣を下ろす。


「わしの仕事もここまでのようだな」

「まだ決着はついていないが?」


 ブリガンテの挑発をガイウスは笑い飛ばす。


「ふん、お前さんを殺すのはわしの剣でも骨が折れるわ。

 わしの狙いはあくまで亜人よ。お主ではない」

「……何故、亜人を忌み嫌う」

「知れた事を。獣を殺すのに理由など必要あるまい」


 ガイウスはそう告げると、ブリガンテに背を向ける。


「ではまた会おうぞ、異世界の戦士よ。次はそなたの首、斬り落とさせてもらおう」







 同時刻、空で戦いを繰り広げていたバシュトラも、その異変に気付く。

 中庭に突如出現した銀の怪物。


「あれは……」

「余所見をしている場合かな」


 高速で飛来する槍。

 バシュトラはララモラを駆り、その攻撃を回避する。

 対峙するグリフォンの騎士ラシュフォルト。


「……邪魔」

「つれないな、大空の舞踏だ。存分に楽しもうではないか」


 バシュトラは槍を構える。

 目の前の騎士は確かに強い。今だって足止めを食らっている。

 しかし――


「……行こう」


 バシュトラの言葉に、飛竜が答える。

 一気にラシュフォルトへと距離を詰め、槍を振るう。

 ラシュフォルトは手にしたランスでバシュトラの槍を防ごうとした。


「無駄」


 バシュトラの放った槍の穂先が赤く輝く。

 触れる物すべてを溶かし尽くす、赤竜の爪。


「個体識別名バシュトラの名に於いて、今ここに契約は成就する。

 赤竜の鉄血を注ぎ、万物悉く我に跪け。

 UG-5――原子融解」


 赤熱の槍は、ラシュフォルトのランスすら融かし、そのまま叩き斬る。

 すんでのところでラシュフォルトが避けるが、しかし槍はグリフォンの羽を切り落とす。

 グリフォンの雄叫びが天空に悲しく響く。


「グリンダ!」


 ラシュフォルトがグリフォンの名を叫ぶが、見る見るうちに浮力を失い、地表へと落ちていく。

 それを、バシュトラは見下ろしていた。

 騎士の呪いの言葉が聞こえてくる。


「悪逆の使徒め! この借りは必ず返させてもらうぞ!」

「……返さなくてもいいよ」


 振り返らず、バシュトラは中庭へと向かった。








「はっ!」


 カリオンの放った斬撃を、アムダは手にした長剣で受ける。

 斬撃の音だけが、通路に響いていた。

 一定の剣戟の後、二人が距離を取る。


「いいぜ。もっとお前の力を見せてみろ」

「…………」


 アムダは構えながら、周囲に意識を飛ばす。

 先ほど、大きな唸りと共に強大な魔力の波動を感じた。

 何かが起きているのだろう。


「どうした? 戦いの最中に考え事か?」

「あなたは何が目的なんです?」


 アムダの問い掛けに、カリオンは薄く笑う。


「目的? 変な事を聞きやがるな」

「先ほどからあなたは本気で戦っていません。ただ時間稼ぎがしたいだけのように見えますが」

「はっ、だったらどうする?」

「あなたと遊んでいる暇はありませんので」


 アムダは殺意を鋭く尖らせる。

 一瞬の虚をつき、一気に駆け寄ると、カリオンに向かい、必殺の一撃を放った。

 カリオンは咄嗟に後ろに跳び、斬撃を避けるが、彼の鎧に薄く傷が入っていた。


「なるほど、良い目だ。やはりお前には殺意が似合っている」


 カリオンは剣を納めると、アムダに告げた。


「時間だ。俺たちは退かせてもらう。後は好きにするといい」

「なに?」

「お仲間がピンチのようだぜ。早いところ、助けに行ってやるといい」


 そう言ってカリオンがその場から去っていく。

 一瞬追いかけようかとも思ったが、しかしカリオンの最後のセリフに足を止める。

 少し迷った後、アムダは強大な魔力を感じる方へと走り出した。








 銀色の巨人が天に向かって咆哮する。

 それは言葉のようだったが、俺たちには理解する事は出来なかった。

 巨人と呼ぶよりはロボットめいた姿。

 両手は筒状になっており、多分それは砲口なのが見て取れた。

 魔神アカツキは足元にいる俺たちに気付いているのかいないのか分からないが、両腕の砲を要塞に向ける。


「危ない!」


 咄嗟に奏の手を引き、その場から走り抜ける。

 一瞬遅れてアカツキの両の手から放たれた光が、要塞の壁を吹き飛ばした。

 頭上から落ちてくる破片をかわしながら、俺たちはアカツキと対峙する。


「問答無用って感じだな」

「理性はもう残ってないのかもしれないわね」


 ただ単に破壊をするだけの存在。それはまさしく魔神と呼ぶべきものだ。

 憎むべき相手ではあるが、少し哀れにも思える。


「これ以上被害が出る前に倒すぞ」

「ええ」


 とは言ったものの、満身創痍状態の俺と、先ほどまで捕まっていた奏だ。


「スマホは持ってるんだよな」

「あるけど、電池が心もとないわね」


 荷物は要塞の外にいるウルスラに預けている。

 その中に奏のノートPCもあるが、この状態では取りに行くのも難しいな。

 今ある戦力で戦うしかない。


「アンフィニ、虚数式展開! 全力で行くわよ」

『虚数式展開したよ』


 電池が切れる前に速攻でケリをつけるつもりか。

 奏の言葉に魔力の陣が展開し、眼前に砲門が現れる。

 120mm戦車滑空砲だ。

 砲煙を吹かしながら放たれた戦車砲弾は、アカツキの胸部に直撃する。

 さらに続けざまに数発。

 アカツキの銀色の体に爆発が広がる。

 しかし効いているのかどうか分からないが、アカツキがこちらを向く。


「やべっ!」


 こちらに向けられた両腕砲に光が収束する。

 あんなもん食らえば一撃で消滅してしまう。

 慌てて逃げようとする俺たちに、しかし必殺の凶弾が放たれる。

 やばい、と思ったその瞬間だった。

 俺たちの眼前に現れた黒い人影が、エネルギーの砲弾を受け止める。


「くっ」


 直撃は免れたとはいえ、目の前で広がる爆風に、思わず膝をつく。

 嵐が収まった後、俺は顔を上げる。

 粗方の物が吹き飛んだそこに、ただ一人立ち尽くす男の姿。


「おっさん!」

「待たせたな」


 ブリガンテのおっさんが視線だけをこちらに寄越して告げる。

 そして奏の姿を認めると、軽く頷いた。


「無事のようだな」

「ええ。ご心配おかけしました」

「なに、それも私の仕事だ」


 そう言っておっさんは俺の顔を見詰める。


「……何かを乗り越えたようだな。戦士の顔つきになった」

「そうか? ただ疲れているだけだと思うが」

「ならばそういう事にしておこう」


 おっさんは巨大な魔神を前にしても、怯む事なく拳を構える。

 乱入してきた敵に、アカツキが雄叫びを上げる。


「あれはアカツキか」

「ああ。何とか倒したんだが、復活しやがった。いや、あれが魔神になるって事なのか」


 こちらを踏みつけようとアカツキが足を上げる。

 俺と奏が横に飛ぶが、おっさんはそのまま微動だにせず迎え撃つ。

 巨大な鋼の足を、おっさんは両腕をもって受け止めた。

 ズン、と地面が揺れる。

 しかしおっさんはただ一人、魔神の踏みつけを支えていた。


「おっさん!」


 加勢すべく、俺は武器を取り出す。

 あれほどの巨体だ。ライフル弾では撃ち抜けない。

 出したのはM32ダネルMGL、いわゆるグレネードランチャーと呼ばれる兵器だ。

 グレネードランチャーとは、擲弾という小型の爆弾を投擲する為の武器である。分かりやすく言えば、手榴弾を発射する銃となるだろう。

 南アフリカで開発されたダネルMGLは、通常のグレネードランチャーとは違い、弾倉が回転式である為、連続しての発射が可能となっている。

 ダネルMGLを構え、アカツキに向かって乱射する。

 擲弾があちらこちらで爆発し、炎が上がる。


「効いてるかどうか、分かりにくいな」


 しかし確実にダメージは入っているはずだ。

 リロードをし、再度攻撃に入ろうとした時だった。

 天空から斬光が煌めいた。


「――――!」


 天からの一閃、それはバシュトラによる斬撃であった。

 アカツキの銀の体に斬痕が走る。

 斬り抜けると、飛竜ははばたき、こちらへと飛んできた。

 騎乗のバシュトラが奏の姿を見つけると、ほんの少しだけ笑みを浮かべたような気がした。


「バシュトラも無事だったか」

「……うん」

「ごめんなさい、心配かけたわね」

「いい」


 言葉少ないのはいつも通りだが、いつもよりかは感情的に見えるのは気のせいか。

 バシュトラの槍の一撃を受けたアカツキは、一瞬ぐらついて後ろへと下がる。

 おっさんはその隙にアカツキの踏みつけをかわし、飛び上がって拳を放つ。


「よし、これで全員そろったな」

「……なんか忘れてない?」


 奏のツッコミと同時に、崩れた要塞から炎が放たれ、アカツキの体を焼く。

 魔神が腕のビーム砲を炎の放たれた地点に向けて吹き飛ばすと、瓦礫と共に一人の男が俺たちの近くに立つ。


「普通に僕の事、忘れてませんでした?」


 いつも通りの人の良い笑みを浮かべたアムダだった。


「気のせいじゃないか」

「ええ、気のせいね」

「……このやり取りもなんか懐かしいですね」


 そう言うとアムダは剣を構える。

 これで本当に全員がそろったか。

 後はあの魔神を倒すだけだ。


「そう言えば、あたしのサイコンは……」

「それならここにある」


 突如として背後から声が聞こえてきた。

 振り返るとそこにはウルスラとソフィーリスの姿があった。


「合流地点で待っていたがただならぬ様子を感じたのでな。こんな事もあろうかと思って一応荷物も持ってきている」

「ありがとう、えーっと……」


 ああ、奏とウルスラは初対面だったか。

 ウルスラは軽く自己紹介したのち、奏にノートパソコンを手渡す。

 よし、これで本当の本当に全員がそろったって訳だ。

 もはや破壊の衝動と化したアカツキが、こちらを見据える。

 感情の感じられない赤い瞳。


「巨大化した時点でそれは負けフラグなんだよ。さあ、ケリをつけようぜ、アカツキ」


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