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神を殺すのに必要な弾丸の数は  作者: ハマヤ
-虚無の弾丸-
88/102

戦場のリアリスト-7-

 ペイブロウとヴァイパー、二機の戦闘ヘリコプターがアカツキに狙いを定める。

 ヴァイパーの機体下部に取り付けられた20mm機関砲が火を噴く。


「しゃらくせぇ!」


 アカツキは回避しながら、両手に抱えた二門のロケットランチャーをヴァイパーに向ける。

 俺はその行動を阻害するように、横合いからアカツキに向けて攻撃。

 軽く舌打ちし、アカツキが再び回避行動へ移る。

 そこへ、ペイブロウが回り込む。

 ペイブロウの側面ドアの銃架に取り付けられたGAU-21重機関銃から火線が放たれる。

 大地を穿ちながら、アカツキの潜む物陰に銃撃を行う。

 さすがに二機のヘリを相手にするのはアカツキでも厳しいはず。


「食らいやがれ!」


 その隙を狙い、RPG-7を取りだすと、俺はアカツキに向けてロケット弾を撃ち放った。

 狙い違わず、RPG-7の弾頭はアカツキの周囲で炸裂する。

 しかしバリアがある以上、一度の攻撃では致命傷を与える事は出来ない。

 呼応するようにヴァイパーとペイブロウの二機が土煙の舞う箇所に銃撃を仕掛ける。

 機銃による一斉掃射。

 生身であれば無事でいられるはずがない。

 だが――


「ちょっとばかし甘いよなぁ」


 言葉と共に土埃の中から何かが射出される。

 一瞬遅れて、それがアカツキの放ったワイヤーアンカーであると気付く。

 アンカーは上空に浮遊しているヴァイパーの下部に突き刺さると、アカツキはそれを巻き取り、一気に上空へと舞い上がった。


「くっ、させるか!」


 俺はすぐさまL96A1を手にすると、アカツキに狙いを定め、狙撃する。

 放たれたライフル弾は、しかしアカツキのアーマーを掠めるだけ。

 その間に、ワイヤーによってヴァイパーに取り付いたアカツキは、その鋼の拳をヴァイパーの機体下部に突きたてた。

 23mm弾の直撃にも耐えるヴァイパーの装甲であったが、アカツキの拳は容易くヴァイパーを貫く。

 ペイブロウが旋回し、ヴァイパーに取り付いたアカツキに向け、攻撃を仕掛ける。


「ふん、AI操縦の頭の悪さが出たな」


 アカツキはワイヤーを外し、ヴァイパーから飛び退いた。

 一瞬遅れ、ペイブロウの放った徹甲弾がヴァイパーの機体を蹂躙していく。

 黒煙を上げ、ヴァイパーが爆発四散する。

 あの野郎、同士討ちを狙いやがった。


「俺にとっちゃヘリなんざ空飛ぶ棺桶に過ぎないんだよ!」


 空中で落下しながら、アカツキは再びロケットランチャーを構える。狙いはペイブロウ。

 放たれたロケット砲弾に対し、ペイブロウは回避行動を選択。

 機体から赤外線センサーを欺罔するフレアを射出。

 フレアによって誘導を阻害されたロケット弾は、あらぬ方向へと飛び、爆発した。

 これで敵の攻撃を防げたはずだった。

 だが――


「残念だったな、こちとらロケランの二刀流だ」


 空中で体勢を整え、アカツキがもう一方のロケットランチャーを構え、再びペイブロウに向けて放つ。

 フレアの連続使用が出来ないのはゲーム上の仕様であったが、そこを突かれた。

 既に回避を終えたペイブロウの胴体にロケット弾が直撃。

 空中で巨大な炎が炸裂した。


「虎の子のヘリコプターもお釈迦になっちまったな」


 言葉と同時にアカツキが着地する。

 手にしていたロケットアンチャーを捨てると、再びアサルトライフルへと持ち替える。


「さて、次はどういう大道芸を見せてくれるんだ? まさかもう終わりって事はないよなぁ?」

「…………」

「くくく、もしかしてポイントを使い切っちまったか?

 それならその辺にいる兵士をいくら殺してくれても構わんぜ。

 数百人も殺せば、一回分くらいの大道芸は使えるんじゃないか? はははは!」


 ヤツの言葉通り、ポイントはほとんど使い切ってしまって、アクションを使えるほど残っていない。

 何より、ほとんどのポイントアクションが通じない相手だ。

 手にしていたL96A1を構えるが、それよりも速くアカツキがアサルトライフルを射撃する。

 弾丸は俺の肩を掠める。


「くっ……」


 致命傷ではない。ダメージ自体も少し経てば回復するだろう。

 だが、それよりももっと致命的な問題がある。


「理解したか? お前では俺に勝てない。お前がスナイパーライフルを使う限りはな」


 ゆっくりとアカツキがこちらへと近付いてくる。

 すかさずライフルを構えようとするが、やはりアカツキの銃撃に阻まれる。

 今度は右足を撃ち抜かれ、俺は思わず膝をついた。


「スナイパーライフルってのは相手の見えない距離から一撃必殺の弾丸を放つ。

 それだけ聞けば実に優秀な兵器だよな。

 でも、実際はそんな都合の良い武器じゃない。

 構える、狙う、撃つ。トリガーを引くまでにこれだけの動作が必要になる。

 だからこうして肉薄してしまえば無力だ」


 再び銃声。

 アカツキの放った弾丸が、的確に俺の体を貫いていく。

 決して致命傷を与えようとせず、しかし確実に動けないように撃ち込んでくる。


「芋野郎にはそうやって這いつくばってるのが似合ってるぜ」


 いつの間にか近くまで寄って来ていたアカツキが俺の脇腹を蹴り上げる。

 強烈な衝撃に思わず咳き込む。

 そしてアカツキは倒れた俺の体を踏み付ける。


「さて、そろそろ終わりにしよう。言い残す事はあるか?」


 アカツキは俺の頭部に銃口を突き付ける。

 ひやりとした金属の感触が、痛む思考を冷静にさせてくれる。

 傍目に見れば絶体絶命の場面だというのに。

 思わず笑みを浮かべていた。


「痛みで頭がイカれたのか?」

「いや、予想通りだと思ってさ」

「なに?」


 アカツキの言葉に疑念が生まれていた。


「どうすればお前に勝てるのか、ずっと考えていたんだ。

 お前のそのスーツやバリアは強力だが、それよりももっと怖いのが、お前のその慎重さだよ。

 俺がポイントを使い切るまで、決してとどめを刺そうとしなかった。

 大胆不敵なようでいて、実は誰よりも慎重なんだ、お前はな」

「…………」


 アカツキは答えない。

 黙って俺の言葉を聞いていた。


「冷静なお前の事だ、こう考えたはずだ。

 何の勝算もなく、一人で戦いを挑むはずがない。何か策があるはずだってな。

 だからお前は万全を期する為に、俺がポイントを使い切るのを待っていた。

 そして憂いを無くして、こうしてとどめを刺しに来たって訳だ」

「……だからどうした? お前にはもう手は残されていない。

 それともお仲間が助けに来るのを待つつもりか?

 残念だったな。お前の仲間がここに来る事はない。

 お前は一人で死ぬ。それだけだ」

「いや、助けに来るさ」

「でかい口を叩いた割に、結局は仲間頼りか。所詮は芋野郎の考えそうな事だな」


 俺の言葉に、アカツキは鼻で笑った。


「なあ、本当にポイントを使い切ったと思ったか?」

「ふん、今度ははったりか。お前のポイントはこちらも把握しているさ。

 あれだけ連続してポイントを使ったんだ。

 もう使えるほどのポイントは残っていないのは分かっている」


 こいつはきっと、相手の撃った弾の数を把握するタイプだろう。

 自分に絶対の自信がある。

 だから――自分の間違いに気付かない。


「お前の言う通り、もうポイントは残ってない。

 でもな――俺は一番最初に使ったアクションは、まだ残ってるんだぜ」

「な、に?」


 俺の言葉と同時に、物陰に潜んでいた何かが飛び出してくる。

 黒い影は一筋の疾風と化し、真っ直ぐこちらへと迫り来る。

 アカツキの目に、それがゾンビ犬だと映った時にはもう遅い。

 ゾンビ犬が巨大な口を開き、アカツキへと噛み付いた。


「くっ!」


 咄嗟に出した右腕に、ゾンビ犬が噛み付いた。

 肉を裂き骨を砕く牙は、アカツキのバリアをも切り裂いた。

 だが――


「くくく、これが切り札って訳か。残念ながら俺を殺すほどの威力はないようだぜ」


 いや、十分だ。

 重要なのはゾンビ犬の噛み付きでバリアが消えたって事だ。


「アカツキ、よく見ろよ。その犬、何か付けてるだろ」

「なに?」


 アカツキは自分の右手に食らいついたゾンビ犬を凝視する。

 そして気付いただろう。


「貴様ッ!」


 お前なら一目で分かるだろうさ。

 ゾンビ犬に張り付けられた、大量のC-4

 C-4ってのは、物体じゃなく生物にもくっ付けられるのは、FPSのお約束だぜ。

 こいつはただのゾンビ犬じゃない。目標に向かって走り、噛み付き、そして爆発する、走る爆弾だ。

 俺の手にはC-4の起爆スイッチが握られていた。


「止めろ! 止めろぉぉぉぉぉぉ!」

「吹っ飛べ、糞ったれ」


 言葉と共に、俺はスイッチを押す。

 その瞬間、俺とアカツキの両者を包み込む大爆発が起きた。

 

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