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神を殺すのに必要な弾丸の数は  作者: ハマヤ
-虚無の弾丸-
87/102

戦場のリアリスト-6-

 始まりの合図と共に、俺はL96A1の引き金を引く。

 撃ち放たれたライフル弾は真っ直ぐと、アカツキの頭部へと突き刺さった……かのように見えた。

 しかし、当たる直前、光の膜に弾かれて弾丸は消失する。

 バリアか。

 だが、ヤツのバリアは強い力を加えれば破る事が出来るのは、先の戦いで証明済みだ。

 すぐさま次弾を装填しようとした時、アカツキがこちらへと猛進してくる。


「効くかよ、そんな豆鉄砲がなぁ!」

「くっ、行け!」


 俺はゾンビ犬たちに命令を下し、アカツキへと突撃させる。

 俺の命令にいち早く反応したゾンビ犬が、一斉に銀色の魔人に襲い掛かる。

 だが、アカツキは片腕の一振りでそれを払う。


「うざってえんだよ、犬コロ風情が!」


 アカツキの足は止まらない。

 長い通路を一息で駆け抜けると、俺の目の前に現れ、そしてそのままショルダータックルをぶちかましてきた。


「ぐっ!」


 吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられる。

 口から肺が飛び出そうなほどの衝撃。

 あるいはあばらが折れたのか、ひたすら胸が痛い。


「寝るのは早いぜ」


 崩れ落ちそうな俺を、アカツキは髪を掴んで引き上げる。

 咄嗟に近接武器を選択し、ナイフを取り出すと、アカツキの腕を斬り付ける。

 ナイフの刃はアカツキのバトルスーツに軽く傷をつけただけであったが、ヤツが腕を離したその隙に、俺はセムテックスグレネードを取り出した。


「吹き飛びやがれ」


 至近距離でアカツキの顔面にグレネードを貼り付ける。

 次の瞬間、閃光と共に爆風が巻き上がり、近くにいた俺にも余波が届く。

 セムテックスグレネードはプラスチック爆弾の一種で、加工のしやすさから特殊用途にも使われる兵器だ。

 FPSではくっつく性質から、相手にぶつける事で確定キルを奪う武器でもある。

 常人なら吹き飛ぶ威力のはずだが、相手は魔神だ。


「痛いじゃねぇか、なぁ!」


 塵煙の中からアカツキが飛び出すと、再び俺へと肉薄する。

 近距離だと狙撃銃は不利だ。

 すかさずP90に切り替えるが、それよりも早く、アカツキの右腕が俺の首を掴む。

 喉を締められ、呼吸が止まる。


「くっは……」

「やるじゃねぇか。ただの芋砂野郎と思ってたのは訂正してやるよ。

 じゃあ――――死なずについて来いよ」


 そう言うと、アカツキは俺を掴んだまま、通路の壁へとダッシュする。

 そして、俺の体を思いっきり石壁にぶち当てた。

 意識が一瞬飛びかける。

 だが、それで敵の攻撃は終わらない。


「まだまだぁ!」


 さらにアカツキの力が強まっていく。

 そして、壁を突き破り、俺とアカツキの体が宙に浮く。

 俺を掴んだまま、アカツキは砦の外へと飛び出した。

 三階ほどの高さから、そのままの勢いで俺の体を地面へと叩きつける。


「ぐっ」

「シライさんっ!」


 奏の声が遠くから聞こえてくる。

 爆発の影響か、それとも叩きつけられた衝撃か、音があまり聞こえない。

 アカツキのにやけた声だけがいやに響く。


「へへへ、しぶといじゃねぇか。さすがは勇者様だよなぁ」


 倒れた俺の胸に、アカツキは足を乗せ、少しずつ力を強めていく。

 ミシミシと、骨の軋む音。

 口から赤い血を吐き出した。


「便利だよなぁ、お前のその体。怪我しても少し経てば回復しちまうんだろ?

 なにがリアル系だって話だよな。

 瀕死の重傷を負っても、何秒か物陰に隠れてれば回復しちまうんだからよ」

「ぐっ、どきやがれ!」


 ありったけの力でアカツキを振り払うと、俺は転がるように逃げる。

 すぐさま起き上がり、周囲の状況を確認する。

 要塞の壁を突き破り、俺たちは中庭へと落ちてきたようだ。

 見上げると、俺の身を案じて不安そうな顔をした奏と視線が合う。

 助けにきたってのに、そんな顔をするなよ。


「地べたを這いずり回るのが似合ってるぜ、芋虫野郎」

「…………」

「どれだけでかい口を叩いたところで、人間なんて脆いもんだ。

 銃を使わなくても、俺にはお前を殺す手段はいくらでもある。

 お前はどうだ? どれだけ武器を尽くしても、俺のバリアすら打ち破れない」


 アカツキの御託を聞きながら、自分の体の調子を確かめる。

 あいつの言った通り、俺の体にはFPS特有の自動回復が備わっており、先ほどの攻撃のダメージもある程度は回復している。

 折れた骨も、血の噴き出した傷も、いつのまにか消えていた。

 本当に、どっちが化け物か、分からなくなる。


「さて、傷は癒えたか?」


 アカツキの言葉は、俺を試すような調子だった。

 長々としたご高説は、俺の回復を待ってくれていたらしい。

 敵ながら優しすぎて涙が出てくる話だ。


「ああ、おかげさまでな」

「そうか。ならまだ遊べるな。さて、どこまで壊しても回復するのか楽しみじゃないか。

 手足が千切れても、頭が吹き飛んでも、生きてりゃ回復するんだとしたら、これほど面白いものはない」


 くくく、とアカツキが笑みを漏らす。

 その時、中庭の奥の方から数人の兵士がこちらへとやってきた。

 俺たちの騒ぎを聞きつけて来たらしい兵士たちは、俺とアカツキの姿を一瞥すると驚きを顔に出す。

 しかしアカツキはそんな兵士たちをちらりと見ると、手に持っていたアサルトライフルを斉射した。

 放たれた弾丸が兵士たちの体をズタズタに引き裂き、数秒後には物言わぬ肉片と化していた。


「邪魔するなよ。今いいとこなんだからよ」

「何で殺した? あいつらはお前の仲間だろ」

「あの連中は操り人形に過ぎんさ。魔神だの世界だの、そんな事は露も知らない。

 ただ己の役割に合わせて動くNPCに過ぎない」


 アカツキは手慣れた動作でライフルの弾倉を取り外し、マガジン交換をしていく。


「なぁ、この世界はゲームみたいなもんだと思った事はないか?」

「なに?」

「俺はな、こっちの世界に呼ばれてからずっとそう思ってるんだぜ。

 ここはゲームの世界で、俺は選ばれた勇者なんだってな。

 お前はゲームをやってて、味方を殺した事はないか?」


 突然、話を振られて俺は答えられなかった。

 しかしアカツキは構わず続ける。


「俺はある。誰だって遊び半分で仲間やその辺の通行人を殺した事はあるだろ。

 それがゲームだ。現実では出来ない事を楽しめる、仮想の世界。

 NPCなんて殺したところで、誰も怒らないし、罪悪感も感じない。

 そして、この世界の連中は俺にとって、NPCと同じだ。殺したところでどうだって言うんだ?」

「てめえ……」

「はっ、善人を気取るなよ。お前だってこの砦に入る為に何人の人間を殺した?

 人殺しが目的のゲームばっかやってるヤツが、今更人殺しは止めましょう?

 俺たちがやってる事なんざ、どこまでいったところで、人殺しの上手さを競い合うだけだ」


 リロードを終えたアカツキは再び銃を構える。


「本物の人殺しの味を知ったら、キルレ自慢なんざ童貞の妄想と一緒だな。そうは思わないか?」

「勝手に言ってろ」


 アカツキの言葉を無視し、俺はすかさずポイントアクションを行使する。


―― MQ-9 ゛Reaper(リーパー)゛ arrival ――


 俺の意思に反応し、上空に無人偵察機MQ-9が出現する。

 MQ-9は旋回した後、両翼に取り付けられた、対戦車(ヘルファイア)ミサイルを撃ち放つ。

 二発のミサイルがアカツキへと降り注ぐ。

 中庭に爆炎が吹き荒れ、黒煙が上がる。

 直撃はしたはずだが、倒したという手応えは感じられない。


「へへへ、プレデターミサイルたぁ中々乙じゃねぇか」


 黒煙の中からアカツキが姿を見せる。

 俺の予想通り、彼のアーマーには傷一つ入っていない。

 やはり、か。


「バリアが存在している状態じゃ、どんな攻撃もバリアで防がれてしまうって訳か」

「ご明察だ。バリアが展開している時なら、たとえ核爆弾の直撃だって耐えてみせるぜ」


 つまりアカツキを倒すには、バリアを剥がし、その上でアーマーを貫く二段階の攻撃が必要になる。

 先ほどのヘルファイアミサイルは二発放っているが、おそらく同じタイミングでの攻撃とカウントされ、ダメージは一発分に計算されたんだろう。

 厄介な相手だ。そして以前のアカツキの言葉を信じるなら、バリアを剥がし、無防備な状態は10秒程度しか存在しない。


「さて、絶望は感じる時間は終わったか? こちらも暇じゃないんでな」


 アカツキはそう言うと、再び先ほどのアンプルを取り出し、自らの首に投薬する。


「この薬は俺の意識を覚醒させ、肉体の痛みを麻痺させる。使えば使うほど、俺は神へと近づいていく。

 過剰な投与をすれば俺という自我を失うだろう。

 だが、使わなければこの肉体で神の力を扱うのは無理だ。因果なもんだな、まったく」


 どこか虚ろな声でアカツキは告げると、ピョンピョンと軽くジャンプする。

 それは以前にも見た動き。ストレイフジャンプの予備動作。


「ストレイフか」

「もはや今の俺にこの世界の物理法則は関係ない。俺の物理エンジンに、世界が従うんだよ」


 ダッシュと小ジャンプによる落下の加速を合わせ、無制限に速度を上げるFPS特有のテクニック。

 続けていけば目で追うのですら難しい速度へと達するだろう。

 だから狙うのはヤツが速度を上げる前。今のタイミングしかない。


「吹っ飛びやがれ!」


 すぐさまFIM-92スティンガーミサイルに持ち換え、相手に照準を合わせる。

 電子音がアカツキの熱源反応をロックした事を伝えると、俺はトリガーを引く。

 本来は対空兵器であるが、ミサイルはアカツキをロックオンし、尾を引きながら発射された。


「誘導ミサイル? 遅ぇよ!」


 ロケットモーターによって加速したミサイルは、音速を超え、アカツキへと襲い掛かる。

 だが、アカツキは右手を前に伸ばすと、手の先からワイヤーアンカーを要塞の外壁に向かって射出。

 ワイヤーが取りつくと、それを巻き取って急加速を行う。

 ワイヤー移動からのストレイフジャンプによる加速により、ミサイルの猛追を回避した。

 スティンガーミサイルは誘導兵器ではあるが、しかしあまりにも急激な回避により目標を見失い、そのまま要塞の壁に激突し爆裂した。

 マジかよ、この距離でミサイル弾を回避出来るのか。


「今度はこっちの番だ」


 先ほどの急加速の慣性により、アカツキの速度は最高速に到達している。

 もはや目で追うのもやっとの速度で、俺の周囲を飛び回る。

 まずい、反応出来ない。


「ちっ、来い、セントリーガン!」


―― AutoTurret "Sentry Gun(セントリーガン)" arrival ――


 咄嗟にポイントアクションを使い、セントリーガンを呼び出す。

 俺の周囲に二基のセントリーガンが出現し、機械音と共に起動した。

 セントリーガンは実在の兵器ではない。まだ研究段階にある兵器だ。

 地上に設置したガトリング機銃が、自動で敵を判別し銃撃する兵器である。

 二基の砲塔が、ガトリングを回転させながら高速で移動するアカツキに狙いを合わせる。


「てめえにとっちゃ新兵器かもしれんが、俺にとっちゃ旧式なんだよ!」


 アカツキは手にしたアサルトライフルを乱射し、セントリーガンの一基を破壊する。

 残った一基のセントリーガンが唸りを上げ、アカツキへと銃撃を開始する。

 本来なら一瞬で目標をミンチへと変える破壊力だ。

 しかし、アカツキはその弾すらストレイフジャンプによって回避していく。

 砲塔の旋回速度が追い付けていない。

 凶悪な射撃音だけが空しく響き、アカツキのいた場所に銃撃の土埃が舞い上がる。


「くそったれが!」


 俺も武器を持ち替え、アカツキへと攻撃を仕掛ける。

 相手の移動先を狙う偏差射撃で繰り出すが、しかしアカツキの動きを捉える事は出来ない。


「これでも食らいな」


 高速移動中のアカツキがこちらに向かって何かを投擲する。

 青く発光する物体。

 それがグレネードであると気付いた時には、既に爆発する瞬間であった。

 爆裂。


「くっ!」


 咄嗟に転がった為、ダメージは最小限に抑えられたか、今の衝撃で最後のセントリーガンも壊れてしまう。

 追い打ちをかけるように、アカツキからの銃撃。


「逃げてばっかじゃ勝てないぜ! なぁ!」


 物陰に隠れ応戦するが、圧倒的に不利な状況だ。

 ポイントもそれほど残っていない。

 どうするか。

 迷っている暇なんかない。すぐさま次のポイントアクションを使用する。


――MH-53 "Pave Low(ペイブロウ)" arrival――


 音声と共に現れたのは、MH-53ペイブロウだ。

 アメリカ空軍で採用されている軍用の大型ヘリコプターである。

 メインローターの風切音がはるか上空にあっても聞こえてくる。

 さらにダメ押しだ。


――AH-1Z "Viper(ヴァイパー)" arrival――


 もうお馴染みとなった戦闘ヘリ、ヴァイパーも同時に出現させる。

 同じヘリは連続で出せないが、別々の機体なら同時に出す事も可能である。

 俺たちの上空を、二機の戦闘ヘリが旋回していた。

 二機の召喚で、残っていたポイントを全部使い切った。これが俺の全力だ。

 高速で移動していたアカツキが、足を止め、上空を見上げた。


「ペイブロウにヴァイパーか。雑魚が群れたところで、何の役にも立たんさ」


 アカツキは手にしていたアサルトライフルをどこかへと仕舞い込むと、ロケットランチャーを取り出した。

 それも両腕に一本ずつ、ロケットランチャーの二挺持ち。


「叩き落とす、それだけだ」


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