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神を殺すのに必要な弾丸の数は  作者: ハマヤ
-虚無の弾丸-
82/102

戦場のリアリスト-2-

 アカツキの襲撃を受けた翌日、俺たちはオーク王スプーキーと会っていた。

 イベルが撃たれた事や今度の事を話し合う為だ。


「……イベルはどうなったんですか?」

「安心してよい。命には別条はないという事だ」


 スプーキー王は疲れた表情をしていたが、そう答えた。

 その言葉に、俺たちは胸をなでおろす。


「しかし、兵たちは殺気立っておる」

「それは……」


 無理もないだろう。

 平和の旗頭として動いていたイベルが暗殺されかけたんだ。

 民衆に飛び火してもおかしくはない。


「朕も同じ気持ちだ」

「ですが、イベルの意思は……」

「イベルを襲ったのは教会の人間であるのは間違いあるまい」


 あのグリフォンの騎士を目撃していた兵士も多い。

 何でもあの騎士は有名な教会の騎士らしく、すぐに判明したようだ。

 つまり、教会の人間が表立ってオーク族の王子を襲撃したんだ。


「既に兵を前線のヘルモンドゲート要塞に送り、戦の準備を進めている」

「戦争は、避けられないみたいですね」


 アムダが残念そうに言う。

 何とか戦争を回避する為に動いていたんだ。最後の最後で魔神に裏をかかれた形となった。

 さらに、奏も攫われた。


「そなたらはこの国にとっても、そして亜人族にとっては大事な客人ではある。

 出来れば共に来てもらいたいのではあるが……」

「すみません、俺たちは仲間を助けに行かなくちゃいけません」


 俺の言葉に、スプーキー王はそうかと呟いた。


「残念ではあるが仕方あるまい。そなたらの行く末に幸多からん事を」


 俺たちは王に礼を言うと、城を後にする。

 向かう先は人間領と亜人領の境界にあるというアグラ要塞だ。

 そこまでは徒歩では辛いようなので、スプーキー王の好意に甘え、馬を借りる事にした。


「それにしても、あのアカツキという魔神、少し不思議な感じがしましたね」


 馬上でアムダがぽつりと呟く。

 アグラ要塞に向かう道中、俺たちは敵の事を考えていた。


「シライさんのお知り合いですか、あの人?」

「知り合いじゃねぇよ」

「でも何となく話が合ってましたし」

「少なくとも、俺と同じ世界観の人間であるのは間違いない。もしかしたら、同じ世界から来たのかもしれないな」


 そう言う意味では、厄介な相手だ。

 ガガスグルーの時もそうだったが、いやに人間味があるというか。魔神と戦っているという気分じゃない。


「……しかしどことなくシライの武器とは雰囲気が違っていたな」

「さすがおっさん、目の付け所が違うな」

「シライさんもあんな武器、出せないんですか?」

「無理っぽいな。調べてみたが、俺のウェポンリストにはああいう超兵器は載ってない。

 あいつは俺の銃よりも進んだ技術を持っているはずだ」

「それは面倒ですね」

「それにあいつが着込んでいたバトルスーツ……あれだって身体能力を上げる機能だってあると思う。

 まともに戦っても勝ち目はないだろう」

「そういえば……やたらとピョンピョン跳ねてましたが、あれは?」


 昨日の思い出しながら、アムダが言った。

 よく知らない人から見れば、確かに奇妙な光景だっただろうな。


「あれはストレイフジャンプだな」

「ストレイフ……何です?」

「ダッシュジャンプの慣性で加速し、さらに加速したジャンプで慣性をつけてジャンプ……。

 これを繰り返して加速する、まあ一種のゲーム内のテクニックだな」

「なんか聞いてもよく分からないんですが……。何でジャンプしたら加速するんですか?」

「そりゃお前、物理演算の妙ってやつだよ。多分、この世界の物理法則で考えても仕方ない。それが出来る能力と考えるしかないだろう」

「という事はシライさんも出来るんですか?」

「似たような事は出来ると思うけど、あそこまで顕著に加速するのは無理だな」


 それが俺とあいつの違い。

 リアル系とスポーツ系の違いでもある。


「もっとも、ストレイフもあそこまで加速するはずないから、何かしらバグでも利用してると思うけどな。あの平面移動に加えてワイヤーで上下にも移動するみたいだからな」

「……厄介な相手だ」


 機動力という面では生身の人間レベルでしかない俺とは桁違いだ。

 俺たちが浮かない顔をしていると、竜に乗って先行していたバシュトラがこちらに向かってくる。


「もうすぐで着く」

「そうか。そろそろ気を引き締めていくか」

「シライさんは大丈夫ですか?」


 アムダが視線だけを俺に投げかけてくる。


「今から戦う相手はかつて仲間だった相手です。戦う事は出来ますか?」

「……そうだな」


 アムダが言っているのは、俺にその覚悟があるかどうかだろう。

 正直なところ、フレンドリーファイアの制約にどの程度縛られるのか、俺には分からない。

 今までの経験からすれば、相手が人間とかそういう事ではなく、俺自身が『敵と認識する』事が、その制約を抜けられるのだろう。

 結局は、俺の意思次第になる。


「今更傷付けたくないとか、そんな綺麗事を言うつもりはない。優先事項は奏を助け出す事だ」

「それを聞いて安心しました。あそこではきっと乱戦になります。僕もシライさんのお守りが出来ないかもしれませんからね」

「抜かせ」


 軽口を言いながら、アムダが笑う。

 今まではアムダたちに守られてきた部分もある。

 戦うと決めた以上、自分の力で何とかするしかない。

 だからこそ、アムダはそれを自覚させる為に言ってきたんだろう。余計な世話しやがって。

 俺は馬をアムダの横につけ、右手を上げる。

 アムダも察したように片手を上げ、俺たちは拳を打ち交わす。

 拳の痛みに俺の肚は決まった。


「じゃあ、お姫様を助けに行くとしますか」








 姫宮奏が目を覚ますと、目の前には一人の女性が立っていた。

 彼女もよく知る人物。いや人ではない、魔神オルティスタだ。


「またお会いしましたね、姫宮奏」


 感情を見せない声で、オルティスタはそう告げた。

 相変わらずその姿は雪よりもなお白い。

 純白ですら濁りを感じさせるほど、澄んだ白を纏っている。


「……何の用?」


 奏は答えながら、自分の状況を確認する。

 どこかの一室。奏は椅子に座らされ、その身は縄で拘束されていた。

 魔術を使えば抜け出すのも難しくはないだろうが、しかし目の前には魔神がいる。


「貴女に話があります」

「生憎、あたしは話なんてしたくないけど」

「たとえそれが、貴女自身の話であったとしても、でしょうか?」


 探るように、オルティスタが言う。

 その言葉に、奏は眉をひそめた。

 魔神が何を言いたいのか、彼女には理解出来ない。

 その時、部屋の入口のドアがガチャリと開き、一人の男が入室する。

 その男もまた、奏が知っている人物だった。

 奏を騙しここに連れてきた男、ドーンであった。


「お姫様は目覚めたようだな」

「ドーン、よくもあたしの前に顔を出せたもんね」

「へへ、怖い怖い。だがまぁ許してくれよ。俺も言われただけなんでね」

「アカツキ、役目は終わったのですか?」

「一応、言われた事はある程度はな」

「それがあんたの本当の名前なのね、アカツキ」

「ああそうだ。魔神アカツキ。まあ好きに呼んでくれて構わん」


 軽薄な笑みを浮かべているアカツキに、奏は苛立ちを覚えた。


「……シライさんたちはどうしたの?」

「こんな状況でも仲間の心配か? いいねぇ、そういう友情ってやつ? 俺は好きだな」

「…………」

「そう睨むなよ。安心していい。連中は無事だ。手出しはしたが、なぁに俺の負けって事だ」


 そう言うアカツキの言葉は、しかし絶対的な自信が表れていた。


「そうだオルティスタ。薬が切れたんだ。在庫はあるか?」

「……用意させましょう」

「薬?」


 二人の会話に口を挟むと、アカツキが楽しそうに告げる。


「こう見えても俺は虚弱でね。人間の肉体のまま戦闘しようとすると、体も意識も持たんのさ。だから薬物で意識を覚醒させ、肉体を誤魔化してる訳だ、へへへ」

「人間って……あなたは魔神じゃないの?」

「語弊があるようだな。確かに俺たちは魔神であり、人の器を失った。

 だが、完全に魔神と化した訳ではない。俺もオルティスタも、その一線で留まっている」

「……我々は、人の肉体を失う事を魔神化と呼んでいます。大きすぎる力を得た代償に、心が破壊され、単なる破壊衝動に突き動かされる。貴女方が戦ってきた魔神の多くは、我々の成れの果てと言えるでしょう」


 それは奏にとっては初めて聞く話であった。

 確かに、第一の魔神や第二の魔神といった、言葉の通じない敵もいたが、目の前のオルティスタたちに至っては、こうして会話も出来ている。


「つまりあんたたちもそのうち、ああいう感じで暴れ出すって訳?」

「まあそうだな。ガガスグルーと戦ったと思うが、あの姐さんで半々ってところだ。いや、もう一線は越えてたかもしれないな。ああ見えて姐さん、昔は優しかったんだぜ、割とな」

「力には代償が付きまといます。ゆえに我々は戦いを好みません」

「白々しい話ね。自分たちが手を汚さず、他を操って戦いを煽動する事は、戦いが嫌いなんて言わないわよ」


 確かにそうだ、とアカツキは笑う。オルティスタは無表情のままだ。


「まあそれもこれも、女神の匣が揃うまでの辛抱だ。すべての匣が揃えば、俺たちは扉を開く」

「扉?」

「異界の門……スミオン・ゲートです」


 その言葉に、奏が目を丸くする。


「先ほど何の用かと問いましたね? すべては門を開く為。貴女の力をお借りする為です」

「……言っておくけど、ゲートを開く事は出来ないわ。虚数魔術の最奥でも、まだそこまでの境地には達していない」

「そうでしょう。ですが貴女は既にその深淵の前に立っている。それは先日、ガガスグルーとの戦いの時に見せたはずです」

「…………」


 それが、奏が異世界の魔術を行使した事を意味しているのはすぐに分かった。

 奏は異世界の存在である魔神ティストゴーンの戦車砲を確かに呼び出してみせた。

 本来なら、異世界の魔術を引き出す事などあり得ない。


「魔術とはつまり秘数式。貴女は最初の門を開いた。次なる門を開くのも時間の問題でしょう。

 我々はそれを後押しするだけに過ぎない」

「……人間の力で門を開くのは不可能よ」

「果たしてそうでしょうか? 貴女は知っているはずです。人の力の無限性を。

 それに貴女もまた、人間の枠を超えた存在のはずでしょう?」


 そう言ってオルティスタは妖艶に微笑んだ。


「何を知って――!」

「すべてを。私は貴女のすべてを知る為にここに呼んだのです」


 オルティスタの右手が動けぬ奏の額に触れた。

 その瞬間、奏の意識が深く落ちていく。

 意識の底へと、深く深く。


「さあ……思い出しなさい。貴女の存在の意味を。万物の魔女と呼ばれた本当の理由を」



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