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FPSゲーマーは眠らない-8-


 一秒、二秒、三秒。

 目を閉じて、死を待つ。

 ……何も、起きない?

 それとも、痛みを感じる間もなく、俺は死んだのか?


「…………」


 恐る恐る目を開ける。

 俺の目の前に、誰かが立っていた。


「無事なようだな」

「……おっさん!」


 ブリガンテのおっさんが、投げつけられた槍を全身で受け止めていた。

 いやいや、もうそんなん人間業じゃないだろうとか。

 物理的に不可能だろうとか。

 そんな感想もぶっ飛ぶくらい、嬉しかった。


「今のうちだ」


 俺が女なら惚れているところだ。

 もちろん、男でも惚れるがな。

 すぐさま構え直す。

 スコープを覗き、糞ったれた巨人の顔を見据える。

 巨人の顔面についた小さな目。

 真正面だ。

 もうこちらの動きはバレているから防がれるかもしれない。

 そう思った時だった。


 物陰から飛び出したバシュトラの槍が、巨人の瞳を狙う。

 その動きに釣られ、舌は全て、バシュトラへと向かった。

 ほんのわずか。

 針の穴を通すような隙。




 俺にはそれで十分だ。





 放たれた弾丸は、空を裂き、寸分違わず着弾する。








――ガアアアアアアアアアアアアアアアア


 巨人の咆哮が大気を振るわせる。

 くたばれ糞野郎。

 その巨体がゆっくりと崩れていく。

 まるで砂のように。

 崩れ落ちる。


「良い腕だ」

「ありがとよ。それに助かった。おっさんは命の恩人だ。

 ……命の恩人におっさんはねぇか」

「ふっ、好きに呼べ」


 一々恰好良いおっさんだ。



―― +5000 pt


 ん?

 なんだこれ。

 声が聞こえた。

 5000ポイントがどうのこうの。

 無機質な、機械的な、そんな音声。


「やりましたね」


 気が付くと、アムダたちが寄って来ていた。

 アムダにバシュトラ……それに奏もいる。


「さすがは伝説のスナイパー、と言ったところですね」

「おう、任せとけよ。バシュトラもありがとな」

「……ん」


 小さく頷くちびっ子。

 心なしか、照れてるようにも見えるが、多分気のせいだろう。

 そして――


「……助けてくれて、ありがとね」

「まあ、いや……」


 奏の言葉に、今度は逆に照れてしまう。

 色々あったが、とりあえずこれで終わりか。


「魔神って奴も大したことねぇな」

「さっきまでベソかいてたくせにね」

「かいてねえよ――」


 なんて言い合ってる時だった。

 再び地鳴り。

 そして――巨人の呪詛。


「マジかよ……」


 崩れ落ちたはずの巨人が、立ち上がっていく。

 怨念の声が断続的に響く。


「まだ、起き上がるか」

「タフだね、本当に。魔王でももう少し潔かったけどね」


 全員が再び臨戦態勢に移る。

 俺は――先ほどの声を思い出す。

 5000ポイント。

 これが何を意味するのか、今の俺には分かる。

 あの猫野郎が俺の力をFPSと言ったのであれば、それは――


「つまりこういう事か!」



―― C-130 arrival ――


 巨人の上空に歪みが生じる。

 そこから生まれたのは、大型の輸送機C-130だった。

 現れたと同時に貨物扉が開かれる。

 そして――投下。


「ちょっと……冗談でしょ」


 奏だけは何が起きるか、分かったらしい。

 他の面々は、事態を理解していない。

 それは、真下にいる巨人も同じだった。



「吹っ飛べよ、糞野郎」










 光が全てを包み込んだ。










 M.O.A.B.

 日本語に訳すなら、大規模爆風爆弾。

 現時点で核兵器を除けば最高の火力と恐れられた対地戦術爆弾だ。

 致死半径300mの爆撃は、周辺に生えた木も根こそぎ吹き飛ばした。

 総重量10tのうち、実に80%が炸薬だ。

 あまりにも重すぎて、通常の爆撃機では投下出来ないこの爆弾は、いかに伝説の魔神と言えど、耐え切れない。


 ついでに言うと、俺たちも吹っ飛ばされた。






「いきなり何やってんのよ!」


 吹き飛ばされた俺を引っ張り出し、奏が叫ぶ。


「いやあ、ゲームだとこっちに被害はなかったんだけどな」


 そう、あのM.O.A.B.も、FPSの技能だった。

 5000ptというのが何か、最初は分からなかったが、何の事はない。


 あれは、魔神を倒して得た、ポイントなんだ。


 FPSの中には手に入れたポイントを使って様々な能力や兵器を使う技能がある。

 ポイントアクションと呼ばれるそれは、まさに一発逆転の威力を秘めた大技だ。

 そのポイントを使って、C-130を呼び出し、M.O.A.B.を投下したわけだ。


「でもまあ、無事で良かったじゃん」

「っ良くないわよ。爆発の瞬間、魔術障壁張らなかったら、もっと吹っ飛んでたわよ!」

「ははは、凄い威力だったね」


 アムダは相変わらず、どこか抜けている。


「ふむ、まさしく神の裁きと言ったところか」


 おっさんは相変わらず渋い。


「…………」


 バシュトラは相変わらず何を考えてるか分からん。


「ったくもう。C-130を呼び出すなんて、無茶苦茶にも程があるわよ」


 相変わらずぶつくさ言ってる奏。


「ははっ、まあ終わり良ければそれでよし」

「あんたねぇ」


 奏はそう言った後、表情を和らげた。


「ま、それでいいかもね」

「だろ?」


 思わずハイタッチ。

 ついでにおっさん、アムダやバシュトラとも。


 これで、終わりか。

 なんかよく分からん内に始まって、そして終わったな。


「これで、世界は救われたって訳か。

 なんか実感ねぇな」

『だってまだ終わってないからね』


 声が響く。

 全員が声の発生元に注目。

 奏の持ってたスマホから聞こえてくきた。

 あの、猫野郎の声だ。


『おめでとう、素晴らしい活躍だったよ』

「てめえ! 何のつもりだ!」

『まあまあ、終わり良ければそれでよし、じゃないか。

 もっとも、まだ終わりではないけどね』


 なに?

 どういう意味だ。


『魔神は全部で12柱。残りは11柱だよ』


 猫人間の言葉に、俺たちは絶句した。

 ふざけるな。

 こんなのと、あと11匹も戦わないといけないのか。


『じゃあ、またね』

「待て! ちゃんと説明しやがれ!」

『いいよー。次の魔神の出現は、今から一週間後だからね。

 せいぜい、頑張ってねー』


 声はそれだけ告げると、プツリと切れた。

 奏のスマホは、それ以降何も喋らない。

 一方的に、こちらに告げるだけだった。


「意味分かんねえよ!」

「……何かくる」


 呆然と立ち尽くす俺たちに、何かが近づいてくる。

 砂煙を上げて近づいてくるのは、先ほどの騎馬隊の一団だった。

 先頭は先ほどの女騎士だ。


「無事だったみたいだね」


 魔神を倒したから、治ったのか。

 俺たちの安堵も束の間だった。

 騎士の一団は俺たちを取り囲むとこう告げた。


「魔神の一味よ。貴様らを捕縛する」




――ああ、俺たちに安らぎなんて、無かったんだ。



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