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神を殺すのに必要な弾丸の数は  作者: ハマヤ
-オーク領攻防戦-
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ゾウリムシイーター作戦

「それで、今後はどうするの?」


 リザードマンとの話し合いを終えた俺たちは、一眠りした後、今後についての話し合いをしていた。


「とりあえず、このまま一気に王宮に雪崩込むってのも一つの手段じゃないですか?」

「アムダは相変わらず物騒だな」

「でもまあ、それも一つの解決策よね」


 奏にしては珍しく、強硬策を支持している。


「現実問題として、総力戦になったら数に劣るこちらが不利よ。

 だったら、そうなる前に短期決戦をこちらから仕掛ける方がいいわね。

 それに、前と違ってこちらにはイベル王子がいるもの」


 奏の視線が、臨席しているイベル王子に向く。


「どういう事だ?」

「仮に現王であるスプーキー王を引きずり下ろす事が出来れば、次の王はイベル王子が継ぐ事になる訳でしょ」

「なるほどな。そうなりゃオークの戦争も止められるって訳か」


 そう言われると、意外に何とかなる気がしてきた。

 しかしイベルは浮かない顔をしている。


「しかし父に退位を促すのは難しいでしょう」

「言葉では無理でしょうね」

「となると実力行使ですかね」


 またいつもの交渉(物理)になってしまうのかもしれない。

 懸念していると、イベル王子が告げる。


「一度、父と話をさせていただけませんか? 無理かもしれませんが、もし対話する事が出来るのであれば……」


 イベル王子が説得して何とかなるとは思えないが。

 しかし、父と子である以上、何かしら思うところがあるんだろう。


「話し合いの機会を作るか……難しそうね」

「それに、イベル王子は今のところ、こちらの切り札です。もし向こうの手に渡ってしまえば、かなり不利になるでしょうね」


 そう考えると、おいそれと王様のところに行かせる訳にもいかないのか。

 イベル王子もそう考えているからこそ、勝手な行動は慎んでいるんだろう。


「……でも、やってみる価値はあるんじゃないか?」


 俺の言葉に、一同の視線が集まる。

 確かに、リスクの大きい事かもしれない。


「色々と問題があるのかもしれないが、親子なんだし、腹を割って話すべきだと思う」

「……まあそれも一つの手かもしれないわね。でも、あの王様は城から中々出てこないと思うわよ」


 つまり敵の陣地に入り込む必要があるという訳だ。


「虎穴入らずんば、というやつだな」

「入るのは虎の穴じゃなくて、豚の城ですけどね」


 アムダの身も蓋もないツッコミであった。








「こちらシライ、潜入に成功した」

「まだしてないじゃない」


 その日の夜、俺たちは闇夜に紛れていた。

 結局、色々考えた結果、城に潜入する、という一番原始的かつ効率的な手段を使う事になった。


「潜入と言えば、このセリフを言う必要がある。様式美というやつだな」

「はいはい、その変な格好も様式美なのね」


 うんざりしたような声色で奏が俺の姿を見て言う。

 俺の今の服装は、まるで特殊部隊の工作員を思わせるような姿。

 頭にはナイトヴィジョンを装備したヘッドセット。

 闇に溶け込むような黒い迷彩服。

 ちょっとCIAの機密室まで行ってくる、と言える状態である。


「まあ伝統的なスパイ装備だな。さすがにスーツ姿で敵地に潜入するのは俺には無理だからな」

「どうでもいいわよ」


 奏にはこの浪漫溢れるスタイルが分からないらしい。

 まあいい、とりあえず俺は後ろにいるイベル王子に向き直る。

 オークの王城から少し離れた茂みで、俺たちは準備を整えていた。

 この場にいるのは俺と奏、イベル王子、そしてバシュトラとララモラだ。


「アムダたちは所定の場所についたかしら」

「予定ではそろそろだな」


 潜入するのは俺とイベル王子の二人だ。残りの連中にはバックアップを頼んでいる。

 俺が空を見上げた時、遠くで爆音が聞こえた。

 城門の方から火の手が上がっているのが見える。

 時間通り、アムダたちが陽動として攻撃を仕掛けたんだろう。


「時間だ」


 イベル王子が緊張した面持ちで軽く頷く。

 控えていたバシュトラに合図を送ると、彼女はドラゴンに姿を変えたララモラにまたがる。

 ララモラは小さく咆哮を上げると、巨大な翼を広げ、一気に天空へと舞い上がる。

 飛び上がる瞬間、俺たちはララモラの足に掴まる。

 強烈な浮遊感を感じた後、気付いた時には俺たちの姿は天高くに位置していた。


「掴まってて」


 バシュトラに言われるまでもなく、俺たちはしがみつくしか出来ない。

 潜入の手段は簡単だ。

 アムダたちが城門で騒ぎを起こし、その隙にララモラに掴まって空から入り込む、というもの。

 しかしまあ実際にやってみるとめちゃくちゃ怖い。俺の隣で掴まっているイベル王子の顔も強張っている。

 ララモラには前にも騎乗した事はあるが、今回は足にしがみついているだけ。絶叫マシンも比じゃないレベルの恐怖感がある。

 気を紛らわせる為に視線を移すと、遠くで煌々とした灯りが見えた。アムダたちが起こした騒ぎの火だ。


「上手い事見張りの兵があっちに行ってくれたら気付かれずに入り込めるんだが……」

「……だめっぽい」


 ぽつり、とバシュトラが呟いた不穏な一言。

 城壁には見張りの兵が数人、まだ配置されていた。

 空高く飛んでいる俺たちにはまだ気付いていないようだが、しかし当初のプラン通りに敷地内に降下しようとすれば確実にバレるだろう。


「これ、プランBだね」

「マジか」


 もしもの事があった場合、バシュトラには事前に対応策を教えていた。

 それがプランBである。

 しかし個人的には出来ればやりたくないんだが……。

 イベル王子が心配したような声を上げる。


「プランBってなんですか?」

「それはだな――」


 俺がこれから起きる悲劇を説明しようとしたその時だった。


「行ってらっしゃい」


 バシュトラの言葉と共に、俺たちの体は大空に解き放たれた。

 そして俺たちの体は強烈な大地の重力に引き寄せられる。

 つまり――落下しているのだ、俺たちは。


「うおおおおおお!」

「えええええええ!」


 叫び声すら風切音にかき消されるほど、まっさかさまに落ちていく。

 話が違うじゃねえかバシュトラ。

 プランBは俺の合図の後、俺たちを投下する作戦だぞ。

 どうせ大事なところは寝てたか飯食ってたかで聞いていなかったに違いない。

 プランB=落とす、というところだけ覚えていたのだろう。

 などと冷静に分析しても、俺たちはグングン速度を上げて地面に近付いていく。


「イベル王子!」

「落ちてますよこれ!」


 空中で姿勢を戻し、イベル王子へと近づく。

 パニックを起こしているかと思ったが、意外にも冷静だ。


「俺に掴まってくれ」

「ええ!?」

「いいから掴まれ!」


 がしり、とイベル王子が腰のあたりに抱き着く形になる。

 これが普段なら妖しい関係と思わず恥ずかしくなるのだが、いかんせん今は空の上。そしてもうすぐ地面である。

 そんな悠長な事、言ってる場合じゃない。


「だ、大丈夫なんですかぁ!」

「任せとけ」


 そう言っている間にも、俺たちはぐんぐんと地表に近付いていく

 このままだとペシャンコだ。

 だが俺の顔には自然と笑みが浮かんでいた。

 背負ったバックパックに手を伸ばす。

 あと数秒もすれば地面に到達。

 イベル王子が死を覚悟し、目を閉じた瞬間――俺はバックパックからパラシュートを展開。

 一瞬で開いたパラシュートが、俺たちの勢いを殺す。

 地表ギリギリでの展開だったが、今の俺の肉体にはそれで十分。落下の勢いを完全に殺し切る。


「よし、無事着地……と」


 地面に降り立ち、すぐさまパラシュートを外す。

 俺にしがみついていたイベル王子は、何が起きたのか分からず放心した表情をしている。

 まあ、そりゃ分からんだろうな。


「ど、どうなったんですか? あれだけの勢いで落下してたのに、普通に地面に立ってます……」

「これはFPSのパラシュート降下の応用でな。どれだけ加速していても、一瞬でもパラシュートが開きさえすれば、ノーダメージで着地出来るんだよ」

「はぁ……えふぴーえす……」


 よく分からないという感じのイベル。

 FPSでは高所から着地すると落下ダメージを受け、最悪は死んでしまう。しかし着地間際にパラシュートを開くとなぜかダメージを受けないのである。

 事前に調べておいたから大丈夫だとは思ってたが、バシュトラのせいでぶっつけ本番みたいになってしまった。


「まあ……魔法だ。異世界魔法は進んでるんだ」


 いちいち説明するのも面倒なので、魔法という事にしておこう。

 システム上のテクニックなので、あながち間違いでもないだろう。


「凄いですね、やはり異世界の方は」

「俺から見りゃ、こっちの世界の方がよほど凄いがな」


 さて、とりあえず潜入には成功した。

 パラシュートの展開も一瞬だったから、見張りには見られていないはず。

 周囲を見渡すと花壇やらがあり、どうやら庭園のようだ。


「ここは裏の庭園です。父がいるのは奥の王宮ですので、あそこです」


 イベル王子が建物を指し示す。

 一際高い尖塔が立っており、確かに王様が住んでそうな雰囲気はある。

 あそこに忍び込むのか。

 俺は奏から受け取った携帯側無線機を取り出す。


「こちらシライ、潜入に成功した」

『はいはい、なんか落ちていくのが見えたけど大丈夫?』


 無線機の向こうの奏が、一応の心配はしてくれていた。


「何とかな。バシュトラのやつが戻ってきたら、がつんと言っといてくれ。この世界の記録に残る世界初のHALO降下は散々だったぞ、とな」

『そんな高高度には見えなかったけど?』


 こういうのはな、気持ちなんだよ。


「王様の居場所が分かったから、このまま潜入を続ける。回収の時にまた連絡する」

『気を付けて。何かあれば、こちらも突入するけど、すぐに行けるかは分からないわ』

「分かってる。危なくなったらすぐ逃げるさ。あとは……コードネームで呼び合うか」

『はぁ?』

「こういう時は格好良いコードネームで呼び合うもんだぜ、奏大佐」

『誰が大佐よ』

「いいじゃん、強そうで。俺にも何か付けてくれよ」

『じゃあ……ゾウリムシ』


 せめて脊椎動物にしてもらいたい。


『うっさいわね、ゾウリムシ一号、早く任務を終わらせなさいよ』


 ぷつり、と通信を終えてイベル王子を見る。


「虫なんですね」

「……虫じゃねぇんじゃねぇかな、あいつは」


 顕微鏡を使わないと見れない生き物なんて、俺もよく知らないけどさ。

 とりあえず、今はやるべき事をやるだけだ。

 王子も無言で頷く。


「それじゃあ、行くか、ゾウリムシ二号」

「はい」


 闇に溶け込むように、俺たちは潜入任務を開始した。

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