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神を殺すのに必要な弾丸の数は  作者: ハマヤ
-腐れの猛毒-
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ハート・ノッカー-5-

 族長から話を聞き終えた俺たちは、それぞれの思いを抱えながら家を出た。

 皆口数は少ない。

 無理もないか。あんな話を聞いた後じゃあな。

 自分たちが戦っている相手の事を、俺たちは全然知らなかったのだから。


「……それもこれも、あの猫野郎のせいだな」


 しかし最近はあいつからの連絡もほとんどない。

 常に一方的だから、こちらから連絡を取る手段がないというのが不便なところだ。

 本気で手伝う気があるのか、と問い詰めたくなるところだ。


「とりあえず、これからどうする?」


 奏の台詞に、俺たちは軽く肩をすくめる。

 今までは魔神が出現したらそれを倒す、という受動的なものだった。

 しかしこれからは、俺たち自身で動いていく必要があるはずだ。

 だが、何をしたらいいのか、まずはそこのところだろう。


「まずは……情報の収集かしら。目的として、魔神を倒すという大前提は変わっていないのだから」

「でも、今までと違い、魔神はどこに出現するんでしょうか」


 アムダの問いに、奏も分からないと首を振った。


「少し整理してみましょう。魔神の狙いは女神の匣と呼ばれる物。それは間違いないでしょうね」

「まあそうだな。今までずっとそれを狙ってたっぽいしな」

「匣は全部で三つ。一つは既に魔神に取られてしまったと考えていいでしょう」

「残りは二つね。ただ所在が分からないっていう話だけど……」


 エルフあたりが所有しているという話だが、それも確かではないらしい。

 それに俺たちは今、エルフからも目の仇にされている状態だ。

 気楽に訪問出来る訳ではない。


「もう一つの候補がドラゴニュートだったかしら。この種族はどこに住んでるんですか?」


 奏が傍らで話を聞いていたグラシエルに確認する。


「彼らは北方の孤島ですね。ただ人間とはほとんど交流が無いので、航路も無いと思います」

「飛行船とかでも行けないんですか?」

「はい。島の周辺は常に嵐が吹き荒れていて、飛行船ではとてもではありませんが近付けないようです」


 RPGで言うところの最後の方に行けるようになる島か。

 とりあえず、現時点では行けないらしい。


「となると今行けるのはエルフの所か」

「あるいは……リアーネ様のお力を借りるのも良いかもしれませんね」

「リアーネ様って、確か聖女ですよね。彼女はどちらにいるんですか?」

「中央教会の総本山である聖都ルザリアです」


 そこに行くとすると、敵中突破する必要があるな。

 それはそれでかなりリスキーな選択だ。

 しかし話を聞く限り、聖女様とやらはかなり深い事情を知ってそうだ。


「エルフか教会か……どちらにせよ、厄介な事にはなりそうだな」

「そうね。ひとまずそっちの方に行くって事でいいのかしらね」

「ふむ、どちらにせよ東に向かう必要があるな」


 方角は一緒って事か。

 なら一旦はそちらに向かい、道中で進路を決める事にするか。


「なら決まりね。急に出発は出来ないし、準備を揃えて、明日以降に出ましょう」


 奏の言葉に、俺たちは用意をする為に一度解散した。





 まあ準備っつっても、俺は特に何もないので、村の中をぶらぶらしていた。

 ふと視線の先に、一人の女性の姿を見つけた。

 確か彼女は……


「カルラさん、何してるんですか?」

「ん? ああ、フジマ殿か」


 教会の女騎士は俺の姿を認めると、ふっと表情を和らげた。

 いつもグラシエルと一緒にいるから、こうして一人だけなのは珍しいな。


「グラシエルはどっか行ってるんすか?」

「グラシエル様なら族長と話をされている。私はその間に旅の支度をな」


 そう言うと、彼女は視線を前に向ける。

 彼女の瞳の先には、コボルト族の子供たちが遊んでいた。

 子供が好きなんだろうか。

 ふと気になった事を俺は彼女に尋ねる。

 

「教会ではやっぱり、さっきみたいな話は教えてないんですか?」

「……さてどうかな。私はあまり、熱心な教徒ではないのでな」


 いきなり爆弾発言をするカルラさん。

 おいおい、教会の騎士がそんな発言をしてもいいのか。

 俺の疑問が顔に出ていたのか、彼女は後を続ける。


「実を言えば……私は教義に感化されたから入信した訳じゃない。

 グラシエル様、そしてリアーネ様がおられたから、中央教会に入ったに過ぎないんだ」

「それって……いいんですか?」

「まあ良くはないだろう。しかし私にとってはそれが全てだったんだ」


 何かを噛み締めるように彼女は目を閉じる。


「……私は半人なんだ」

「半人?」

「ハーフヒューマン……いわゆる人間と亜人の親を持つ存在の事だ」

「え? でも全然そんな風には見えないが……」

「半人はどちらかの外見的特徴が色濃く出る。私の場合、人間の色が強かったようだ。

 ちなみに、私は今、いくつに見える?」


 いきなりの質問に戸惑う。

 女性の年齢を当てるってのは正直苦手なんだよな。よく分かんねーし。

 ただ、俺よりも年上だと思うんだが……


「うーん……24くらい、か」

「いや。実は私はグラシエル様と同い年なんだよ」

「え、マジで。でもグラシエルはどう見ても、十代なんだが……」

「本当だ。私もグラシエル様も、十六だからな」


 マジかよ。グラシエルが十六ってのも、あの平坦な胸からすれば驚きだが、カルラさんが年下って方が度肝を抜かれた。

 てか年下なら呼び捨てでもいいのか。いきなり変えるのもあれだしなぁ。

 そんな葛藤を見抜いたのか、彼女がふっと笑う。


「半人の特徴なんだ、成長が早いのは」

「そうなのか。まあ……早く大きくなれていいな」


 驚きのあまり、意味不明な慰めをしてしまう。慰めにすらなっていない。


「半人は下手をすれば亜人よりも差別の対象になりやすい。事実、私の生まれた街では歓迎されなかったよ」

「……でも、見た目じゃ分からないんじゃないのか?」


 少なくとも俺は言われるまで気付かなかった。


「見た目ではな。しかしこうして成長すれば顕著だし、何より半人は魔力を一切持っていないんだ」

「魔力を?」

「ああ。だからこそ、落伍者とも呼ばれる。魔力すら持たぬ半端者なんだな」


 俺はあまり意識していないが、この世界――いや、魔術のある世界において、魔力という要素は大きな割合を占めるらしい。

 例えば室内の灯り一つとっても、魔力を与える事で発光している。

 部屋の鍵なんかも魔力で開錠するタイプもあり、日常的な部分で魔力を使う機会は多い。

 俺自身は魔力を持っていないので、実はその辺の魔力式の道具は使えないのだが、まあ今のところ不便に思った事は無い。誰かに頼めばやってもらえるからだ。

 だが、この世界で生まれ育ったカルラにしてみれば、そういう当たり前の行為ですら行えないのだろう。それが、ある種の半人差別に繋がっているのだろうか。


「幼少の頃からあまり良い扱いは受けなかったよ。母が人間で、父が亜人だったそうだが、私は父の顔も名も知らない。

 祖父は母が手籠めにされたと憤慨していたが、母は最期まで父の事を語ろうとしなかった。

 子供の社会は残酷で、私はほとんど仲間に入れてもらえず、ただ眺めるだけの毎日だったよ。

 グラシエル様に会うまでは……」


 懐かしそうに彼女は語る。

 その視線の先には、コボルト族の子供たちが輪になって遊んでいる。


「ある日、身なりの良い少女に話しかけられた。一緒に遊ばないかと。

 私は半人だからと断ったが、彼女は不思議そうに答えたよ。『だからと言って共に遊べない訳ではないでしょう』と。

 それがグラシエル様だった。あの日以来、私はあの方と共にあろうと生きてきた。

 あの方が教会に入られると知り、聖典騎士となる為に訓練をしてきた。

 半人が教会の騎士になるのは反発も強かったが……リアーネ様が私を受け入れてくれた。

 私は頭が悪いから、神だの教会だの、小難しい話は分からん。

 でも……あの方たちの為なら、私はいかなる困難を乗り越えよう」


 そう告げた彼女の横顔は、まるでナイフのように鋭く、美しかった。


「その為ならば、この命ですら惜しくないさ」

「そういうのは止めとけ。フラグを立てても良い事なんてないからな」

「フラグ……?」


 俺の言葉がよく分からなかったらしく、疑問符を浮かべる。

 その顔は、ある意味年相応らしい顔だった。


「死なずに生きて、一緒に過ごす方が、よほど大事って事だ」







 カルラと別れて再びぶらぶらしていると、今度は奏と出会う。

 一人で何かをしているようだ。


「何してるんだ?」

「ちょうどいいところに。ちょっと手伝ってよ」

「……こういう時は悪い事が起きると相場が決まってるんだが……」


 失礼ね、と彼女は言うと、何かを取り出して俺に渡す。

 受け取るそれは、黒色に輝く金属製の物体。

 というか拳銃だった。


「ってこれ、ハンドガンじゃねぇか。何これ、ベレッタか?」


 受け取り細部を確認する。

 ベレッタM92。

 イタリアのガンメーカー、ピエトロ・ベレッタ社が製作したハンドガンだ。

 その性能は折り紙つきであり、何しろあの米陸軍が制式採用したくらいだからな。

 今でこそ一世代前の拳銃ではあるが、革新的な機構も多い。ベレッタの特徴である上部をカットしたスライド、左利きでも使用しやすいマガジンキャッチ、マガジン内でジグザグに銃弾を込める事で装弾数を増やす複列弾倉(ダブルカラムマガジン)など、当時としては最新鋭の技術機構が使われている。

 漫画や映画などで見かける機会も考えれば、ある意味、世界一有名な銃でもある。


「一体どうしたんだこれ」

「作ってみたのよ、魔術でね。ちょっと使ってみて」


 なるほど、虚数魔術で作ったらしい。

 まあ戦車砲だの戦艦だの作ってる彼女からすれば、こんな物は朝飯前なんだろうが。

 遊底を引き、弾丸を薬室に送り込む。ガチャリ、と金属製の実銃特有の音が響く。

 すかさず銃を構える。銃口の先には一本の木が生えている。

 狙いをつけて……引き金を引く――


「……あれ?」


 引き金を引いても何も出ない。

 セーフティーは解除してるしな。給弾不良って訳でもなさそうだ。


「やっぱり無理か……」

「え、これ撃てないのか?」

「撃てるのは撃てるわよ。ちょっと貸してみて」


 安全装置をロックした後、ハンドガンを奏に渡す。

 受け取ると彼女はたどたどしい手付きでベレッタを構え、俺と同じ樹木を狙う。

 そして――

 銃声が鋭く鳴り響く。

 弾丸は……見事に明後日の方向へと飛んで行った。


「……ね?」

「ね? じゃねーよ。全然狙い通りに当たってねぇよ」

「しょうがないでしょ、銃なんて撃った事ないんだし」


 結構重いのね、などととんでもない事を抜かす奏。

 いきなり持っていきなり撃つとか正気の沙汰じゃない。まあ人の事は言えんが。


「でもなんで俺は撃てなかったんだ?」

「多分だけど……魔力検知だと思うのよね」

「魔力? でも銃を撃つのに魔力は要るのか?」

「本来なら要らないわよ。でも、あたしが呼び出したのはあくまで虚数魔術で呼び出した物体なの。

 だからそれを作用させるには、持った人間自身にも魔力が求められるんだと思う……

 正直、今までそういう経験が無かったからどういう反応を起こすか、分からないのよね。

 あたしの世界に魔力の無い人いなかったし」


 今日はよくよく魔力の話を聞く日だ。


「でも奏からもらった弾丸は使えてるよな」

「そこなのよね。だから試してみたんだけど。

 それ単体で作動する物――今回で言えば拳銃は魔力が無いと使えない。

 何かしらと組み合わせて使う物――銃弾とか、そういうのは組み合わせた方が使えればいいみたいね」


 俺自身で出した銃なら、奏が出した弾丸でも使えるが、奏が出した銃だと俺は使えないって事か。

 ややこしいな、それは。


「あたしが出した銃が使えるなら結構便利だと思ったんだけどね……」

「まあ仕方ないか。となると俺が奏に援護を頼めるのは、基本的に弾薬くらいなのか」

「まあそうね。地雷とか出しても使えないっぽいわね」


 そもそも俺の出す地雷と彼女の出す地雷は、全く別物だろう。

 俺のはFPS特有のトンデモ地雷だから、現実世界のそれとは大きく異なる。

 その辺も、俺が銃を使えない理由の一つなのかもしれないが。


「まあその辺が分かっただけでも収穫としておきましょう。実戦で失敗しなくてよかったわね」

「……そういや初めてって言ってたが……失敗したらどうなるか、分かってなかったのか?」


 俺の突っ込みに、彼女は涼しげな顔で答えた。


「大丈夫よ、どうせ爆発するだけだもの」


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