表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/102

FPSゲーマーは眠らない-5-


 巨人を見ると、顔面からモクモクと煙が上がっている。

 あいつらがやったんだろうか。

 いつの間にか、巨人が顔にかぶっていた兜が剥がれ落ちている。

 その下の、巨人の素顔が露わになる。


「おいおい、マジかよ……」


 思わず声が漏れるほど、醜悪な面だった。

 顔という顔に、口が浮かび上がっている。

 何千何万という口は、念仏のように何かを呟いている。

 気色わりぃ。


「あれが……予言されていた神だと?」


 俺の横にいた女騎士も、そのおどろおどろしい姿にビビってるみたいだ。


「分かっただろ。あんなもんに勝てる訳ねえんだから、早く逃げろ」

「ふざけるな! 貴様こそ、先ほどから何のつもりだ」


 知らねえよ。

 俺だって好き好んでこんな場所にいる訳じゃないんだ。

 帰れるならとっくに帰ってる。


――オオオオオオオオオオオ


 巨人の声が断続的に聞こえてくる。

 聞いているだけで胸糞が悪くなる、そんな声だ。

 顔中の口という口が一斉に叫んだ。


「くっ……」

「お、おい、大丈夫かよ」

「私に……触れるな」


 青い顔で女がしゃがみこむ。

 見れば、周囲にいた騎士たちも一様に生気を失って倒れている。

 なんだよこれ。

 何が、起きてるんだよ。


――オオオオオオオオオオオ


 声だけが、周囲に響き渡っていた。






 巨人の声は、呪詛だとあたしは気付く。

 咄嗟に魔術障壁を張り巡らせ、呪詛から身を防ぐ。

 呪詛――あるいは怨念と言い換えてもいい。

 対象に様々な悪意を与える最悪の魔術。


「気色悪いのは顔だけじゃないってわけね」


 あたしの最大火力の魔術でも、巨人を倒すには至らなかった。

 だが、全く効いていないわけではなさそうで、先ほどから動きが鈍い。

 ブリガンテさんたちは相変わらず攻撃を続けている。

 少しずつ、巨人の被害も増えていってる。


「もう一度、虚数魔術を展開する。アンフィニ」

『虚数領域が足りないよ』

「ちっ」


 舌打ち。

 あれだけ大規模な虚数魔術を行ったんだ。

 これ以上、事象を捻じ曲げるのは難しい。

 携帯端末じゃなく、きちんとしたサイコンがあれば話は別は違うのだけど。


「一旦システムを落として、再度虚数領域の構築を開始」

『システム初期化中だよ』


 しばらく時間はかかるが、もう一度、虚数領域を展開する。

 それまで時間を稼げればいいけれど。

 あたしの言葉は空しく、現実は厳しかった。


「なっ!?」


 巨人の口から洩れる声が消える。

 代わりに、口から何かが飛び出してくる。

 舌だ、と気づいたのは、あたしがその舌に絡め捕られた後だった。


「ちょ、気持ち悪いっつーの!」


 右足に巨人の舌が巻き付く。

 剥がそうとすると、今度は左手にも。

 そして全身に巨人の舌が巻き付く。

 正直言って、吐きそうなくらいの嫌悪感だった。


「奏さん!」


 意識をそちらに向けると、アムダがこちらに向かってきている。

 しかし彼にも巨人の舌が何本も伸びてきており、彼はそれを神剣で払い除ける。


「炎よ、意思を持って焼き尽くせ」


 剣から迸った炎が、巨人から伸びる舌を焼いていく。

 ついでにあたしに絡まっていた舌も焼いてくれたので、自由になる。

 ありがと、と軽く礼を言う。


「いえ、女性を助けるのは当然です」


 なんて言い放つ。

 イケメン勇者はやることなすことキザっぽい。

 などと考えていると、いつの間にかバシュトラやブリガンテさんもこちらに集まっていた。


「……固い」

「うむ、それにあの舌は厄介だな」

「僕らは前衛なんで、あの舌を掻い潜らないと攻撃出来ないですしね」


 確かにあれだけの数を捌きながら近づくのは至難だろう。

 あたしの魔術が使えれば、隙を作れるんだけど。


「魔術師の娘よ、先ほどの術はもう……」

「はい、今補充中ですが、少し時間が掛かります」

「闇雲に攻撃しても埒が明かないね。弱点か何かを探さないと……

 それがあれば話は早いんだけどね」


 アムダの言葉に、バシュトラが反応する。


「あそこ……」

「え?」

「巨人の顔のとこに、目がある」

「目って……」


 口が大量にあるのは見えるけど、目なんてどこにも見えない。

 でも彼女は確信を以て告げている以上、そこにあるんだ。


「顔に弱点の目があるなんて、それこそ出来過ぎた設定だけど。

 ま、出来過ぎた世界で、それを信じないのも野暮ね」

「決まりだね。ただ、あそこに近づくには……」


 攻撃が一番激しいところに近づくという事。

 しかしバシュトラは、こくりと頷く。


「……行ってくる」


 そのまま高く跳躍。

 あたしたちはそれを援護するために展開する。


「アンフィニ、虚数領域展開、いける?」

『代数処理1から3654まで完了したよ』

「それでいいわ。術式展開、10番」

『展開したよ』


 虚数魔術が展開し、M134ガトリングガンが顕現する。

 呼び出したそれは、残念ながらオートで撃つには虚数領域が足りていない。


「ブリガンテさん、それ使ってください!」

「これ、か」


 本来であれば人が持つ重量ではなく、人が制御する反動ではない。

 しかし、ブリガンテさんはいとも容易く持ち上げ、それを構える。

 さっすが、本物の英雄が使うと、映画みたいに恰好良いじゃない。


「引き金を引けば弾丸が出ます。それで、あいつを」

「分かった」


 引き金を引いた刹那、毎分8000発もの無慈悲な弾丸が吐き出される。

 その反動を、ブリガンテさんは肉体だけで堪える。

 まさしく戦鬼と呼ぶに相応しいその姿。

 火線が巨人の舌を蹂躙し、さらにその肉体を引き裂いていく。


「今よ!」


 空中にいたバシュトラが、そのまま空で軌道を変える。

 まっすぐ、巨人の顔面へ。

 槍を構え、顔面に中央に槍を突き立てた――かのように見えた。


「あっ!?」


 一瞬だった。

 死角から伸びていた巨人の舌が、バシュトラの槍を、すんでのところで絡め取る。

 槍を引き抜こうと体を捻った瞬間、巨人の舌があらゆる角度からバシュトラを覆う。

 そのまま弾き飛ばされ、バシュトラの体が地面へと叩き付けられた。


「バシュトラ!」

「危ない!」


 あたしの叫びと同時に、アムダの声が響く。

 一瞬遅れて、あたしは眼前に巨人の槍が振り下ろされるのを見た。



 そして、あたしの体は宙を待った。






「マジ、かよ……」


 巨人が暴れ狂う姿が遠くからでも見えた。

 巨人の声は止んだ。

 しかし、兵士たちは全員がその場にうずくまっている。

 遠くではっきりとは確認出来ないが、あいつらが槍で振り払われるのも見えた。

 無事、なんだろうな。

 俺と違って、あいつらは本物の英雄とやらなんだ。無事に決まっている。

 自分に言い聞かせる。


「くそっ」


 あれだけの爆発でもあの巨人は倒れない。

 仮に俺が伝説のスナイパーとやらでも、無理じゃねぇか。

 物理的に、不可能なんだよ。


「っておわあ!」


 何かが空から降ってきた。

 地面に深々と突き刺さったそれは、槍のようだった。


 これ、あの鎧ちびっ子が持ってた槍だよな。


 握りの部分に精巧な意匠が施されている。

 武器が無いと、戦えないよな。


「っと、これ結構軽いな」


 槍を引き抜き、俺は巨人の方を見やる。

 どういう状況かは分からないし、俺なんかがあんなところに行って何が出来るかも分からない。

 でも、武器を届けるくらいは、俺にでも出来るはずだ。

 俺は槍を握りしめ、戦闘が行われている方向へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ