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黒面のグラディエーター-4-

 翌日、俺たちは予定通り、武闘大会へと出場する事になった。

 俺たち、と言ってもアムダとブリガンテのおっさんの二人である。

 あんな脅迫紛い――というか脅迫そのものなやり方でもぎ取った出場権で、果たして大丈夫かという不安はあったが、意外にもすんなりと受理された。

 基本的に方法は問わない、というのがこの街のやり方らしい。さすがは自由都市。


「さて、アムダとおっさんは勝ち進めるかね」


 残りのメンバーである俺たちは観客席から応援となる。

 大会は八人からのトーナメント式だ。

 三回勝てば優勝となる……のだけど。


「別に優勝はしなくてもいいのよね、よく考えたら」

「そういやそうか。魔神さえ倒せばそれでいいんだもんな」


 なので、出来れば一回戦から戦えるといいんだが。

 逆に一回戦でアムダとおっさんが潰し合う事になるのが一番まずい。

 それだけは神に祈るしかないところである。

 そんな事を考えていると、試合会場に一人の男が上がってくる。

 服装から察するに、司会進行役の人だろう。男は両手を広げ、観客席に向かって告げ始める。


「さてお集まりの皆様方。本日は自由都市の名物イベント、武闘大会の日でございます。

 いずれも一騎当千の猛者ばかり。

 心行くまで、お楽しみいただければ幸いでございます」


 観客の歓声が高まる。


「この大会って、月に一回開かれてる定期大会みたいね」

「ふーん、結構やってるんだな」


 年に一回とか、そういう頻度の大会かと思ってたが。


「まあ、この街の目玉らしいから、定期的にやってるんじゃない?

 経済流通はともかく、観光による外貨獲得は重要だもの」

「よく分からんが、観光客向けのイベントって事か」


 そんなアットホームな大会に、果たしてなぜ魔神が出ているのか、いまだに謎ではある。

 しかし大会は既に始まろうとしている。

 会場の男が片手を上げ、大会の参加者たちを紹介していく。


「まずは前回大会の優勝者にして、卓越した技巧の剣士!

 二刀流のサイコス・ガークス!」


 まず最初に呼ばれた男が入場する。

 背中に二本の曲剣を背負っている。邪魔じゃないのか。


「続いてぇ! 今大会唯一の女性剣闘士の登場だぁ!

 深海都市より、『惑乱の』ギネヴィアが来たぞぉ!」


 20歳くらいの女性が片手を上げて声援に応える。


「お次はこいつ! 久しぶりに来たぜ、伝説の魔術士の後継がここに!

 魔天都市評議会から、ルクス・ルクス!」


 フードを目深にかぶった小柄な男だ。まだ年は若そうだった。


「この男を忘れてはいけない! 破天荒過ぎて中央教会から破門された男!

 元聖典騎士、アンドリュー・シャルノス!」


 騎士姿の男が大仰な動作で観客席へとアピールする。


「この鍛え上げた肉体を見よ! 突然参加を表明した謎の多き剣闘士だ!

 その名も、『死を知らぬ』ブリガンテ・ファボック・ハイムベルスゥ!」


 紹介を受けたおっさんは、軽く観客席に向かって拳を見せる。


「そしてぇ! 闘技大会にニューヒーローの誕生か! この甘いマスクが嵐の目となるか!

 こちらも突然参加だ! アムダ・コードウェル!」


 アムダが観客に向かい、片手を振った。

 途端、観客席からキャーという女性客の悲鳴にも似た声援が沸く。爆発しろ。


「今や知らぬ者はいない謎に満ちた漆黒の剣士! その正体は果たして何者なのか!

 黒面の魔剣士! 魔神レヴァストラの登場だぁ!」


 一際大きな声援が響く。

 しかし当の本人は一切動じず、ただそこに佇むだけ。


「最後に! 我らの英雄が帰還したぞ! 前人未到の無敗記録は未だ破られず!

 伝説の剣闘士、《黒獅子(アイゼンレーヴェ)》カリオン・フラッドマンの凱旋だぁ!」


 会場のボルテージは頂点に達し、まるで津波のような声援が、一人の男に注がれる。

 カリオン――昨日、酒場で出会った男だ。


「彼、永世チャンピオンらしいわよ、ここの」

「昨日も誰か言ってたな、そんな事」

「何でも、闘技場では一度も負けた事が無いんだって。

 少し前に引退して、剣闘士は辞めたみたいだったけど、戻ってきたみたいね」

「確かに、ただもんじゃない雰囲気はあるな」


 八人の戦士たちが会場の上に立ち並ぶ。

 闘志をむき出しにする者や、それを受け流す者、マイペースな者、様々だ。


「さあ剣闘士の紹介も終わったところで、組み合わせの発表だ!

 まず第一試合は、サイコス対アムダ!

 前回大会の覇者と期待の新人、はたしてどちらに軍配が上がるのか!」


 お、アムダはいきなりか。

 とりあえずブリガンテのおっさんと対決するのは免れたようだ。


「続いて第二試合は、ルクス対レヴァストラ!

 謎のヴェールに包まれた魔神に、伝説の魔導がどこまで通用するのか!」


「魔神は第二試合ね」

「という事は、順当にいけばアムダと二試合目に当たる訳か」

「ある意味、理想的かもしれない展開ね」


 少なくとも決勝まで勝ち進めないと戦えない、という事は無くなった。

 おっさんとアムダが別々のブロックに分かれたのも大きいな。


「第三試合は、ブリガンテ対ギネヴィアだ!

 巨漢と美女の共演だ! 見逃すなよ」


 おっさんは三試合目。

 まあここは何とかなりそうか。


「そして第四試合、アンドリュー対カリオンだ!

 無敗記録が続くのか! それとも伝説を打ち破る者が現れるか! 要チェックだ!」


 例のチャンプは最終試合か。二回戦でおっさんと当たるな。

 いや、そもそも二回戦第一試合でアムダと魔神が当たるんだから、そこで勝てばおっさんは戦う必要は無いのか。


 第一試合の準備の為、出場者の面々が一旦奥へと引っ込む。

 待つ間、俺は奏に話し掛ける。


「誰が優勝するか、賭けようぜ」

「好きねぇそういうの。まあいいけどね」


 どうせあたしのお金じゃないし、と乗ってくる。

 ちなみに俺たちの活動資金は一応、トリアンテ国が出してくれている。

 正直、こちらの世界の貨幣価値がよく分からんから、金銭の管理は奏にほぼ一括管理してもらっている。


「俺はブリガンテのおっさんに賭けるぜ」

「じゃああたしはアムダにしとくわ。ファラさんはどうします?」

「ふむ……職務上、あまりそういうのはアレなんだが……。

 では、私はカリオンに賭けるとしようか」

「あの人の事、知ってるんですか?」

「まあ風の噂程度だがな。

 引退した後は、プリエスト帝国に渡ったとか聞いたが、まだ剣闘士をしていたか」


 やはりあのおっさんはそれなりに有名な剣闘士だったらしい。

 ついでにバシュトラとララモラにも聞いておくか。


「お前らはどうする?」

「……誰でもいい」

「トラ様はそんな下々の事など、どうでもいいのです」


 だそうだ。

 下々で悪かったな。





「それでは只今より、一回戦第一試合を開始いたします!」


 歓声が沸き起こり、そして二人の戦士が入場する。

 片方はアムダ、もう片方は対戦相手であるサイコスとかいう剣士だった。

 前回大会の優勝者らしいし、腕は立つはずだ。


「さて、どうなるか……」


 二人の剣士が一礼し、同時に構える。

 サイコスは前評判通り、曲刀を両手に構えた二刀流だ。

 対峙するアムダは右手から炎が湧き出て、それが剣をかたどる。

 炎の神剣カシュミオン・レンドだ。


「では――参ります」


 先に仕掛けたのはアムダの方だ。

 一気に距離を詰めた後、横薙ぎの一撃。

 しかしこれをサイコスはひらりと回避する。

 お返しとばかりに片手の剣を振るう。

 アムダはそれを、刃で防ぐと、剣から炎を放ち、男を牽制する。


「おお、すげぇな」

「相手も中々やるわね」


 一進一退の攻防が続く。

 しかし遠目から見ても、アムダはあまり全力でやっているようには見えなかった。


「あいつ、流してるのか?」

「……あれじゃないかしらね」


 奏の視線の先に、その男はいた。

 魔神レヴァストラが、会場の外から、アムダの戦いを、じっと見詰めている。


「なるほど。敵に己の手の内を知られたくないって訳か」

「それか、単に楽しようとしてるのか、どちらかでしょうね」


 ありうる。あいつならやりかねん。

 そんな俺たちの批評を露知らず、アムダとサイコスは剣戟を繰り広げる。


「吹っ飛べや!」


 サイコスは二本の剣を一気に振り下ろす。

 剣で弾こうとしたアムダであったが、逆に膂力で負けたのか、アムダの神剣が弾かれる。

 虚空を舞う剣に、無手になるアムダ。

 その隙を見逃すほど、サイコスは甘くは無い。


「もらったァァァ!」

「――残念」


 迫り来る二刀を、アムダはあっさりと――再び作り出した神剣で防いだ。

 サイコスの顔に驚愕の表情が浮かぶ。


 なぜなら、その剣は今吹き飛ばされたはずの神剣なのだから。


 逆にサイコスの剣を弾くと、そのまま彼の体を吹き飛ばした。

 飛ばされた体は二三度バウンドした後、そのままリングアウト。


「実はこれ、何本でも作り出せるんですよね」

「勝者! アムダ・コードウェル!」


 高らかに宣言され、観客がその勝利を祝う歓声を上げた。

 やれやれ。まあ危なげなく、という感じかな。


「まずは一勝ね」

「これで二回戦で魔神と戦えるな」

「体力も温存してたみたいだし、期待出来そうね。

 ……その魔神が出てくるみたいね」


 入れ替えが終わり、二試合目に対戦する二人が入ってくる。

 漆黒の鎧を全身で覆った魔神レヴァストラと、魔導士ルクスだ。


「こいつがそのまま倒してくれたら、一番楽なんだけどな」


 もちろん、そう上手くいかないのが世の中の常である。

 試合開始の合図が告げられ、ルクスは最初から全力だ。

 何やらよく分からん力を使い、炎やら氷やらを呼び出して魔神を攻撃する。

 試合場に爆炎が吹き荒れ、魔神の姿すら確認出来ない。

 それでもルクスは魔術の連打を止めない。

 それが止まった時が自分の最後であるかと確信している、そんな攻撃の嵐。


「やったか!」


 もちろんやってない。

 魔力が尽きたのか、肩で息をするルクス。

 煙が消え、その中から現れたのは――いまだ無傷。漆黒の鎧であった。


「……では、参る」


 ゆっくりと剣を抜き放ち、真っ直ぐ魔術士を見据える。

 ルクスは再度、魔術の詠唱を開始する。防御の術式だろうか。

 だが――遅い。


「……ッ!」


 気が付いた時には、魔術士の体が宙を舞っていた。

 昨日のような見えない攻撃により、ルクスは斬り飛ばされる。


「そなたの魔術の躍動、実に素晴らしきかな。

 相手が我で無くば、この場に立っていたのはその方であったろう」

「しょ、勝者! 魔神レヴァストラ!」


 わぁぁぁ、と歓声が巻き起こった。

 あれだけの怒涛の魔法を受けてもなお、無傷か。

 本当に化け物じみた性能だな。


「あんな野郎に勝てるのか、本当に」

「……勝ってもらわなきゃ困るけどね」


 奏の言葉に、俺たちはただ頷くしかなかった。

 

 

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