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ブラック・デモン・ダウン-4-

 作戦自体は割と単純だ。

 バシュトラが魔神に竜で近付き、奴の意識を引き付ける。

 俺たち地上組はその援護を行う、という形だ。

 まあ地上から遠隔で攻撃出来るのは俺と奏の二人になるのだが。


「しかしバシュトラは大丈夫か?」


 颯爽と竜に乗って飛んでいく姿を見届けた後、俺は不意にそう思った。

 何を考えているか分からんやつだが、一人であの魔神を引き付けるのは無理があるんじゃないだろうか。


「まあ、適任が彼女しかいない以上ね。なるべく、一人だけに負担をかけさせないようにしないと」

「と言っても、僕らじゃどうしようもないんですけどね」

「うむ」

「違いない」


 ははは、と笑う不謹慎な男連中。

 いやいや、馬鹿な事を言ってる場合じゃない。

 ほら見ろ。奏のやつが睨んでやがる。


「しょうがない。こんな時の為に溜めてたポイントを使う時が来たようだな」

「ポイントって……敵を倒さないと増えないんじゃないの?」

「実は前回分の残りだ。戦いが終わったらリセットされると思ってたが、継続してるみたいだな。

 ついでに、魔神に攻撃を加えてるだけでも、少しずつ増えてるから、倒す以外でも増えるらしい」


 この辺のポイントの仕組みはいまだに分からない事も多い。

 今度じっくり調べた方がいいかもしれない。

 まあ今はこのポイントを使って魔神を倒す事を優先する。

 前回分と、今回稼いだポイントで、合計は800近くある。

 よし、こいつを使うか。


「来い! ヴァイパー!」


――AH-1Z "Viper(ヴァイパー)" arrival――


 言葉と共に、虚空に揺らぎが生じ、そこからヘリコプターが登場する。

 米海兵隊で使われている攻撃ヘリ、ヴァイパーだ。

 安定した火力と機動力を有し、その汎用性はいかなる追随も許さない。

 まさしく空の毒蛇と呼ぶに相応しい性能である。


「へぇ、攻撃ヘリとかも出せるのね」

「まあ……オート操縦なんだけどな」


 誰が操縦しているのか分からないが、勝手に攻撃してくれるのだ。

 逆に言えば、勝手に動かれるので、意外に役に立たないという一面も持ち合わせている。

 しかし今回みたいな状況では、きっと頑張ってくれるはず。

 頼んだぞ、ヴァイパー!


 俺の期待に応えてか、ヴァイパは空高く舞い上がり、魔神へと接近する。

 ヘリのローター音が遠ざかっていく。

 両舷の短翼にあるハードポイントに取り付けられた武装は 空対空ミサイル(サイドワインダー)だ。

 放たれれば最後、相手を撃墜するまで執拗に追い続けるガラガラヘビである。

 ヴァイパーは正面に魔神を見据え、敵を捕捉する。

 そして、両翼から空対空ミサイルが放たれる。

 白煙を撒きながら、ミサイルは真っ直ぐ魔神に向かっていき、そして――


 ボン、と虚空で爆発した。


 あれ?

 もしかして、またバリア復活してる?

 先ほど無くなっていた魔術障壁がいつの間にやら直っているようだ。

 魔神が再びヒレのような羽を広げる。

 あ、あれヤバイやつじゃねぇか。

 逃げろ、誰か知らんがパイロットの人!


 しかし俺の願いも空しく、魔神の羽先から光の弾が放たれる。

 光弾は空に軌跡を描きながら、ヴァイパーへと迫る。

 一応の回避行動を取ったヴァイパーであったが、そんなもので魔神の攻撃をかわせるはずもない。

 光の弾丸が、鋼鉄の戦闘ヘリをズタズタに引き裂いた。

 爆発炎上。

 無残である。


「全然駄目じゃない」

「……まあヘリが出てきたら墜落するのはお約束だから」


 様式美というやつである。

 しかしまあ、一瞬でポイントがパアだ。

 無駄な使い方をしてしまったと後悔。


「こうなってくると、本当にバシュトラに託すしか無いな」


 俺たちは、空にいるバシュトラに思いを馳せるのだった。








「……いくよララモラ」


 声を掛ける。

 ララモラは私の言葉に答えるように、喉を鳴らす。

 いつも通りだ。

 ララモラはいつも私の思いを汲んでくれる。

 小さい時からいつも一緒だった。


「……ふっ」


 長槍(UG-5)を取り出し、構える。

 風が気持ちいい。

 空は好き。ずっと空にいられたらいいのに。

 昔、お父さんにそう言ったら、笑われた事がある。

 竜じゃないお前に空は遠すぎる、と。

 よく分からない。

 どうして私は竜に生まれなかったんだろう。不思議。

 どうして私には羽が生えてないんだろう。残念。


 目の前に魔神がいる。大きな魚みたい。

 魔神。

 よく分からない。

 戦う理由も分からない。

 でも、戦わないと駄目らしい。

 お父さんがいつも言っていた。

 困っている竜は助けるべきだと。

 竜は助ける。でも人は助ける必要ある?

 分からない。


「……?」


 遠くで何か聞こえた。

 爆発の音。

 赤い炎が空中に広がっている。

 爆発。戦闘機械みたいだ。

 多分、あの銃を持った人の武器。

 よく分からないけど、あの人は飛行機や銃を使って戦ってる。

 名前はよく覚えてない。人の名前を覚えるのは苦手。

 竜だったらすぐ覚えられるのに。


「……私だけで十分」


 ララモラもきっとそうだと言ってくれる。

 味方なんていらない。

 魔神なんて、一人で倒せる。


「はっ!」


 魔神はその体の周囲に、エネルギーフィールドを展開している。

 高密度の鏡面フィールドだから、物理的な攻撃をほとんど防いでしまう。

 でも、無駄。

 私のUG-5は、あらゆるエネルギーを破壊する。

 この槍をくれたのもお父さん。

 私の宝物。槍も鎧も……全部。

 名前以外はお父さんがくれた。名前は……人間がくれたもの。


「個体識別名バシュトラの名に於いて、今ここに契約は成就する。

 黒竜の(あぎと)に怯え、万物(ことごと)く我が前より退け。

 UG-5――原子分解」


 槍が震える。

 刃の共振作用により、穂先に触れた物は、たとえ何であっても、原子レベルに分解される。

 たとえエネルギーフィールドであっても、それが物理的な力場であるならば。


 一撃で破壊する。


 槍の刃を力場に突き立てる。

 手応えは無い。

 紙を裂くよりも簡単に、エネルギーフィールドが壊れる。

 弱いね。


「このままいく……」


 エネルギーフィールドを突破。

 そのまま魔神の体表に近付き、刃で切り裂く。

 魚の鱗みたいな表面が剥がれていく。

 ララモラに声を掛け、飛翔。

 槍を刺したまま、そのまま一気に加速。


「三枚に下ろすのは無理、だね……」


 大きいから、槍の一撃ではそんなにダメージを与えきれない。

 でも――そんな事はどうでもいい。

 何度も何度もやってれば、そのうち倒せる。

 魔神の高度を下げさせろって言ってたけど、私には必要ない。


 一人で倒す。


 魔神は全部、一人で。

 12体全部倒せば、きっとお父さんも褒めてくれる。

 だから――


「……終わり」


 止めを刺そうと思って、魔神の頭部を狙う。

 でも、それが失敗だった。

 過信。

 倒せると思ったから。

 私は。


 魔神の口から放たれる閃光を、回避する事が出来なかった。


 光が、私の体を包み込んだ。

 お姉ちゃんが言っていた。

 バシュトラは、いつも詰めが甘いって。

 ブラックアウト。






 放たれた閃光が、バシュトラたちを襲うのを、俺たちは地上から見上げるしかなかった。

 おいおい、さすがにそれはやべぇだろ。

 山を吹っ飛ばす威力のある攻撃だぞ。

 いくらあの鎧娘がちんちくりんでも、それはきついだろう。


「バシュトラ!」


 奏が叫ぶ。

 無理もない。俺だって叫びたいくらいだ。


「……無事のようだ」

「え?」


 おっさんは静かに空を指差す。

 その先に、光に覆われた何かが空に浮かんでいた。

 何だあれ。

 まるで光で出来た繭みたいな、そんな物体だ。

 ゆっくりと、地上に降りてくる。


「もしかして……バシュトラか?」

「そのようだ。閃光に触れる瞬間、あの殻が二人を守っていた」


 二人ってのはバシュトラとドラゴンの事か。

 という事は、二人とも無事なのか?

 光の玉が割れ、中からドラゴンが飛び出してくる。もちろんバシュトラも一緒だ。

 竜騎士はそのまま空を旋回した後、タイニィゲートまで戻ってくる。

 無事だったみたいだな。


「大丈夫か?」

「……お腹すいた」


 戻ってくるなり早々に、バシュトラはぽつりと呟く。

 人が心配してるのも知らないでまあ、呑気なもんだ。

 逆に感心してしまう。


「何か食べるもんないのか?」

「何であたしに聞くのよ」

「ほら、手品で出せるんじゃないのか」

「手品って……まあ出せるけど」


 奏はそういうと、携帯を操作し、そしてブロックタイプの栄養食品を取り出す。


「奏がいたら遭難しても生き残れそうだな」

「魔術で物出すのは、エネルギー効率悪いのよ。すぐ倒れちゃうもの」


 そんなもんか。

 バシュトラは受け取ると、はむはむと食べ始める。何つうか小動物みたいなやつだ。


「しかし戦闘中に飯を食うってのもあれだなぁ」

「トラ様は仕方ないのです!」


 いきなり割って入ってくるのは、人型になったララモラだ。

 いつの間に変身してたんだ。


「トラ様の装備してるアサルトリアクティブアーマーは、熱量を消費して機能するのです。

 だから機能した分、お腹が空くのは仕方ないのです!」


 先ほどの光の殻も、そのなんちゃらアーマーが作動した訳か。

 熱量って事は、カロリーを使うのかな。


「着てるだけでカロリー消費するの? ちょっとそこのところ、詳しく教えてよ」


 一人、妙に食いついているやつがいる。

 どこの世界でも、女性というのはあれなもんだな。


「何よ?」

「いや、別に痩せる必要ないんじゃないのか? ……胸以外」

「死ね」


 殴られた。

 そうこうしている内にバシュトラの食事が終わる。

 カロリー補給は出来たようだ。

 しかしまあ、中々にタフな魔神だ。

 近付けば口からの閃光と、ヒレから出す光弾にやられてしまう。

 なまじでかい分、耐久力も高そうだ。魔導砲を上手く当てないと勝てそうにもない。


「どうしたもんか」

「……私に良い考えがある」


 おっさんはどこかで聞いたようなセリフを口にする。

 そのアイディアは、途轍もなく現実的で――馬鹿げた内容であった。


「魔神に縄をつけ、引っ張って地面に下ろそう」



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