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ブラック・デモン・ダウン-3-

 タイニィゲートの成り立ちは、今から100年ほど前に遡るらしい。

 当時、中央教会は積極的な亜人の排斥を行っていたそうだ。いつの時代も、ろくな事をしない連中だ。

 南方に追いやられ、さらに生存圏を奪われた亜人たちは、それぞれの種族が手を組み、連合を結成する。

 十氏族同盟の誕生である。

 ゴブリンやエルフ、リザードマンら、十の種族によってつくられたこの同盟は、人類との戦争を開始する。

 名も無き闘争と、ファラさんは答えた。

 何でも、この戦争に名前は無いらしい。

 この時の戦いを教会は戦争とは認めておらず、あくまでも亜人たちを滅ぼす聖戦であると謳っているそうだ。


 結果的に、この戦争は両者共倒れに終わる。

 当初は技術力と兵力に勝る人種族の圧勝と思われた。

 しかし亜人たちの協力によって生み出された技術により、戦いは膠着状態へ。

 特に、南方の境界線に建造された巨大な要塞門――ヘルモンドゲートの存在が大きかったという。

 ドワーフの技術、ゴブリンの冶金、エルフの魔導技術、ドラゴニュートの科学力。

 亜人たちの総力を結集してつくられたヘルモンドゲートは、何十万の人間の軍勢を跳ね返し、戦局を五分へと持ち込んだらしい。

 しかし、長引くと思われた戦争も、結末は意外な形で終わる。


 元々同盟には非協力的だったエルフが方針の違いから脱退し、東の大森林へと撤退。

 さらにドワーフの王を人質に取られたドワーフ族が人種族へと寝返り、同盟は瓦解する。

 泥沼化を嫌った当時の教会の和平交渉により、戦いは一つの終わりを見せる。

 もっとも、その火種は未だに燻り続けているようだ。


「その時、人間に寝返ったドワーフ族によって造らせたのが、このタイニィゲートだ」


 目の前には巨大な門が広がっている。

 これが、タイニィゲートか。


「ヘルモンドゲートよりも小さいが、その性能は折り紙付きだ」

「なるほど。だから タイニィゲート(小さな門)な訳か」


 まあこれだけで見るとかなりデカイ門だけどな。

 俺たちは馬に乗ったまま、門の中へと進んでいく。

 振り返り、空を見る。まだ魔神の姿は見えない。


「バシュトラのやつ、大丈夫かな」

「無事を祈るしかあるまい」


 おっさんの言葉に、俺は頷くしか出来ない。

 まあ俺なんかが心配するだけ無駄かもしれないが。


「それで、ここでどうやって迎え撃つんだ?」

「あれだ」


 そう言って彼女が示した方向に視線を向ける。

 そこには、超巨大な砲台が天を仰ぐように鎮座していた。

 でけぇ。

 砲身長だけでも、50mくらいありそうだな。


「あれもヘルモンドゲートにオリジナルがあり、ここにあるのはレプリカだな。

 もっとも、威力はほとんど一緒のはずだが」

「あれを使って魔神を倒す訳か。あんなもんあるなら、最初から使ってくれよ」


 最初の魔神の時から使えばいいのにな。

 そう思ったが、使えぬ事情もあるらしい。


「あれは魔導エネルギーを使い、それを砲弾にして放つ。

 あれを一発撃つのに、我が国の国民のひと月分の食糧に等しいエネルギーが必要だ」

「そんなにか……」

「ゆえにそう乱用出来ん。まあ今回は一発だけは許可が下りた」


 つまり一発で仕留めろって事か。それはそれで無茶な事を言う。

 魔神が来るまで、まだ少し時間はあるようだ。

 俺たちは少し体を崩し、伸びをする。


「そもそも、あんな魔砲を使うんだったら、僕ら要らないんじゃないですかね」

「一理ある」

「まあ、何かあった時の為にって事じゃないの」

「こういう時は大抵、何か起きるように出来てるんだ」

「変な事言わないでよ」


 大体、撃つ間際になって部品が壊れたり、充電が足りなかったり。

 主人公が体を張って修理するってのが、よくあるB級映画のラストシーンだが。


「先に向こうから攻撃されたらどうなるんだ? あんな破壊光線、防げるのか?」

「それに関しては安心してもらおう。タイニィゲートには、大規模攻性魔術も防げる魔術結界が施されている。

 あの攻撃も一発くらいは耐える……はずだ」


 おいおい、不安だな。

 まあ山を吹き飛ばすほどの威力なんだ。不安にもなるか。


「見えました! 魔神です」


 兵士の一人が報告を伝える。

 俺たちも砦の物見へと上がり、魔神の姿を観測する。

 確かに、遠くの雲の合間に、細長い蛇のようなものが見える。

 まだ距離はあるようだ。


「……バシュトラもいるようだ」

「おっさん、見えるのかよ。あんな小さいのが」

「うむ」


 マジかよ。視力6.0はありそうだな。


「魔導砲の準備を始めろ」

「はっ!」


 兵士たちが慌ただしく動き始める。


「一度準備を始めると、もう後戻りは出来んのだ。

 これで失敗でもすれば、私の首が飛ぶな」

「失敗したら、首どころか、塵も残らんから大丈夫だ」

「かもしれんな」


 俺たちの軽口に、ファラさんはふっと笑う。

 この人も色々と大変そうな役回りだ。中間管理職というやつだろう。


「しかしバシュトラがあそこにいたら巻き込まれるな。誰か伝えてこないと……」

「どうやってよ?」

「……飛ぶ?」

「じゃあ飛んできなさいよ」


 無茶な事をおっしゃる。

 しかし、飛ぶのは無理にしても、何とかして伝えないといけないな。

 一瞬、狙撃銃で狙うというブラックな事を思いついたが、流石に自重する。

 多分、袋叩きに合うだろう。

 現実的に、離れたところにいる相手に伝える手段と言えば……


「手旗信号とかかな」

「……やるなら一人でやってよね」


 はい、と渡される手旗。なんであるんだよ。

 と思ったけど、ここ軍事施設だもんな。手旗くらいあるよな。


「いやいや、やり方なんて知らねぇから」

「それなら、バシュトラだって知らないでしょ、あいこよあいこ」


 何のあいこだ。

 しかし突っ込みも空しく、俺はそれから十分ほど、手旗を振り続ける事になったのであった。






「……何か用?」


 しばらく手旗を振り続けた結果、バシュトラは俺の動きに気付いてくれたようで、竜に乗ったまま、こちらに近付いた。

 俺は息を切らし、ぜぇぜぇと呼吸をする。

 手旗は結構きつい。全身運動だこれ。


「出来ればもう少し……早く気付いてほしかった、な……」


 まあ気付いてくれたから良しとしよう。

 気を取り直し、バシュトラに今後の説明をする。

 しかし彼女は少しだけ眉をひそめるだけだった。


「……あの魔神、なんか変」

「変って何が?」

「……分からない」


 ふるふると首を横に振る鎧娘。

 野生の勘が告げているのだろうか。

 しかし魔導砲は既にチャージを始めてしまっている。ここで止めては本当にファラさんの首が飛ぶ。


「とりあえず、魔導砲を使おう。駄目ならその時はその時だ。当たって砕けろの精神でいこう」

「そういう時は大抵砕けるんですよねぇ」

「オチをつけるのは止めろ」


 ともあれ、俺たちは魔神をへの砲撃準備が整うのを待つ。

 既に魔神の姿はそれなりに大きく見える。

 もう十分だろう。

 そう思っていた時だった。

 兵士の一人が悲痛な叫びを上げる。


「隊長! 砲の角度が合いません!」

「なんだと!?」

「魔神の位置が高すぎます! これ以上、仰角は狙えませんよ」


 何という設計ミス。設計者の首が飛ぶのか。

 もう少し考えて作れよ。角度とか。

 まあおそらく地上の軍勢を攻撃する為に作った兵器なんだろう。

 あんなに空高く飛んでる敵は想定していなかったのかもしれない。


「やっぱり、言葉通りになったわね」

「まあ……薄々は気付いていたがな」


 こういう時は大体、トラブルが起きるもんだってのはさ。

 ファラさんが申し訳なさそうに俺たちを見る。

 いいってことよ。


「とりあえず魔神をあの大砲が届く距離に動かせばいいんだろ?」

「ああ。無理ばかり言ってすまないな」


 まったくだ。

 しかしまあ、今更言っても仕方のない話である。


「という訳だ、バシュトラ。後は分かるな?」

「……」


 こくり、と頷くと、再び竜を操り、空へと飛び出した。



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