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プライベート・クレイモア-11-


 魔神を見つけた。

 すかさず、M25で魔神に狙いを合わせる。

 どこが頭なのか、正直なところよく分からない。

 しかしまあ、吹っ飛ばせば何とかなるだろ。


「消えろ――」


 この糞ったれが。

 ありったけの殺意を込めた弾丸が撃ち出される。

 夜の闇を、マズルフラッシュが照らし出す。

 俺の狙い通り、弾丸は銀色の魔神のど真ん中を撃ち抜いた。


「キキキ――」


 撃ち抜かれた魔神の頭部と思しき場所が吹き飛んだ。

 しかし、すぐさま再生する。ちっ、こいつもそういうタイプの奴か。

 照準を合わせたまま、再度引き金を引く。

 しかし今度の弾丸は、魔神には届かない。

 周囲にいたゴブリンたちが、魔神の正面に立ち、壁になったからだ。

 弾丸は数匹のゴブリンを射抜いたものの、魔神には当たらなかった。

 自分はこそこそ隠れて、安全なところで高みの見物ってわけか? 敵ながら見下げ果てた野郎だ。


「バシュトラッ!」


 俺の言葉よりも早く、バシュトラは反応していた。

 竜に騎乗し、空から魔神の下へと飛ぶ。

 魔神が空を見上げる。そして触手をバシュトラへと向けると、そのまま触手が槍のように伸びる。

 彼女はそれを槍で払う。バシュウ、と音を立てて触手が消滅する。


「キキキキキ!」


 魔神の絹を裂いたような悲鳴。いや、悲鳴かどうかも分からない声だ。

 銀色の体の色が変色していく。

 銀色から黒色に。やがてゴブリンと同じ色に変化していく。


「あいつ、ゴブリンに擬態する気よ」

「つくづく卑怯な奴だ」


 姿が変わっていく。ぐにゃり、と。

 あの糞目立つ姿が先程まで見えなかったのは、ゴブリンに擬態していたからだろう。

 うねうねと変動した後、魔神は一人のゴブリンに姿を変えていた。

 そしてすかさず、ゴブリンの群れの中へと飛び込み、逃げようとする。

 また隠れるつもりか。そうはさせるかよ。

 銃口をゴブリンの足に向ける。

 弾丸は、走っている魔神の右足に直撃。吹き飛ばすまではいかずとも、歩けるような傷でもない。


「キ……ニンゲン! ニンゲンンンンンンンンンンンンン」


 喋れるのかよ。なら神に祈りな。

 (ごみ)みたいなテメエのちっぽけな祈りは、人間様にゃ届かないからよ。

 さらに銃弾を続けて撃つ。弾丸がゴブリンに化けた魔神を貫く。

 擬態が解けて、再び銀色の宇宙人っぽい姿に戻った。そっちの方が似合ってるぜ色男。


「キキギギギキキ!」


 魔神は触手を伸ばす。今度は周囲にいるゴブリンに触手を伸ばすと、ゴブリンの頭部に触手を突き刺した。

 あいつ、今度は何をやるつもりだ。

 さらに触手を増やし、ゴブリンたちに刺していく。

 ゴブリンたちは逃げず、そのまま呆けたようにされるがままだ。

 何やってるか知らねぇが、おかしな真似はさせない。

 M25の引き金を引き、弾丸を撃つ。

 銀色の肉体の一部を吹き飛ばすも、魔神は倒れない。しぶとい奴だな。

 弾が切れたので弾倉交換を行う。

 その時、魔神は触手で突き刺していたゴブリンをそのまま持ち上げ――こちらに投げ飛ばした。

 6体のゴブリンが宙を舞い、こちらに飛んでくる。マジかよ。魔神との距離は結構あるんだぜ。

 さすがにゴブリンの体を撃ち落とす訳にもいかず、咄嗟に退避。

 しかし、それがまずかった。

 ゴブリンの肉体が空中で炸裂し、閃光が闇を照らす。

 うお、まぶし!

  閃光手榴弾(フラッシュバン)か! あの野郎、ゴブリンを閃光手榴弾代わりにして投げ込んできやがったのか。

 視界が遮られたのは時間にして数秒程度だった。

 しかし、俺たちが魔神を見失うには、十分な時間でもあった。


「逃げられた!?」

「まだそんなに遠くには行ってないはずよ」

「バシュトラ! あいつがどこに行ったか分かるか!」


 空にいるバシュトラに尋ねるも、彼女も閃光で目がやられていたようで、首を横に振るばかり。

 くそっ、ここまで追い詰めたって言うのに。

 その時だった。


「魔神はそのゴブリンだ!」


 声が響く。

 はっとそちらを見詰めると、戦場の中、騎馬に乗った女性がいた。

 ファラさんだ。

 彼女は一人のゴブリンを指差している。

 そのゴブリンの右足に、ゾンビ犬が食らいついていた。

 必死にゾンビ犬を剥がそうとするが、ゾンビ犬の牙はゴブリンの肉をえぐり、離さない。

 ゴブリンは歯を見せ、怒りを露わにしている。あのゴブリンが……魔神なのか?

 考えるよりも早く、バシュトラの駆る竜が空を舞う。

 槍を構え、一閃。

 ゴブリンの首を刎ね飛ばした。

 だが、飛ばされた首は、空中で消滅し、残された体は銀色に姿を変える。

 ナイスだ犬コロ。後で骨をくれてやる。


「そして――テメエには、こいつをくれてやるよ」


 リロードも既に完了している。弾の数も問題無い。

 あとは――テメエをぶっ殺すだけだ。


「消えろ屑野郎」


 引き金を引く。銃弾は放たれ、魔神の銀の体を貫く。

 一発、二発……弾丸が貫く度、魔神の肉体が抉れていく。

 だが、止まらない。止まる必要もない。あの糞ったれは許す必要もない。

 五発、六発、七発……まだまだ引き金を引き続ける。

 照準を合わせたまま、一切視線は逸らさず。ただ殺意だけを弾丸に込める。

 十発、十一発……もはや魔神は原型をとどめていない。穴だらけのチーズみたいだ。


「こいつで終わりだ。くたばれマザーファッカー」


 合計二十発の銃弾に引き裂かれ、魔神の肉体が大地に散らばる。

 生き残ったゾンビ犬たちが一斉に細切れとなった魔神の体を食らう。あんなもん食って腹壊さないのか?

 まあもう死んでるからいいのか。


「……終わった、か」

「みたいね。ほら」


 奏の示した方向を見ると、夜闇の中に何かが浮かんでいる。

 目を凝らして見つめると、どうやら飛行船のようだ。アムダたちがやってきたようだ。

 やれやれ、遅ぇよ。


「何とかなったわね」

「……だな」


 一時はどうなる事かと思ったし、実際何度か死に掛けた。

 でもまあ――


「終わり良ければそれでよし、だな」

「まったくね」


 顔を見合わせて笑う。


「あ、そういえばあんた、戦いの最中にあたしの事、名前で呼んだでしょ」


 突然思い出したように奏が俺を問い詰める。

 名前で呼んだって……そういや、呼んでたかな。無我夢中で何も覚えてないが。

 でも――


「そういうお前だって俺の事、名前で呼んだじゃねぇか」


 覚えているのは、危険を知らせる奏の声。

 あの声に、俺は救われたんだった。


「あたしは良いのよ、別に」

「なんでだよ。大体、俺の方が年上なんだから、少しは年上を敬うという気持ちをだな……」

「年上って……ゲームオタクを敬う必要ないでしょ」

「てめ……ミリオタ女に言われる筋合いはねぇな」

「ちょっと! だからミリオタじゃないって言ってるでしょ!」


 いがみ合いながら、不意に視線が合った。

 何秒か見つめ合った後、不意に笑いがこぼれる。

 まったく、さっきまで戦争をしてたなんて思えない会話だ。馬鹿らしくて泣けてくる。


「ま、今日は許してやるよ――奏」

「……そっちこそね、シライ」


 二人して笑っていると、バシュトラが俺たちの所にやってくる。

 なぜ笑っているのか、理解出来ないようで、首を傾げていた。


「気にするな。それより、助かったぜ。よくここまで来れたな」

「……猫さんに、ララモラを貰ったから」

「ララモラってのは……この竜の事、か?」


 バシュトラの隣に、ドラゴンが控えている。心なしか、俺の方を睨んでいるように見えるのは気のせいだと思いたい。

 つうか近くて見るとデカいな。


「猫さんって、スミオンゲートの管理人の事?」

「……うん。前回の功績って言ってた」


 俺たちが新しい力を貰ったみたいに、向こうの連中も貰っていたのか。

 まあ奏はストラップだったけどな。


「そうか、それで間に合ったのか。お前が来なかったらヤバかったからな。恩に着るぜ」

「あたしからも、ありがと」


 礼を言うと、ぷいっとそっぽを向く。照れてるらしい。

 ははは、と笑いながらバシュトラの頭にぽんと手を置いた。

 その時、プチッと言う音を聞いた。後に聞いたところ、あれは堪忍袋の緒が切れる音だったらしい。


「トラ様から離れろこのスットコドッコイ!」


 どん、と腹に衝撃を受け、思わず後ろに倒れる。

 なんだと思い、体を起こすと、見たことのない少女がそこにいた。

 仁王立ちで俺の事を見下ろしている。ってなんか怒ってる?

 どうやらその少女が俺に頭突きをかましたらしい。結構痛い。


「よーく聞くのです、このみそっかす。

 お前のようなみそっかすが、トラ様に気安く触れていいと思ってるのですか!」

「えーっと……トラ様?」


 流れから察するに、バシュトラの事のようだが……この娘は誰だ?

 バシュトラと同じくらいの背丈で、年も似た感じだ。

 銀色の髪を左右で縛っていて、いわゆるツインテールみたいな雰囲気だ。

 可愛らしい女の子ではあったが、目は殺気を放っている。俺に対してのみだが。


「……駄目、ララモラ」

「ですがトラ様。人間なんてのは腐った豆を食うようなイカれた連中なのですよ」


 納豆は別に腐ってねぇよ。

 しかし今、バシュトラが気になる単語を言っていた。

 ララモラって……


「もしかして、こいつ、さっきの竜なのか?」

「……うん」


 こくりと頷く。どうやら本当らしい。

 しかしまあ、大抵の事には驚かないようになってきたが、まさか竜が人に変身するなんて思わなかった。

 じろじろと眺めていると、再びララモラの頭突きを受ける。


「汚い目で見るなです、このみそっかす!」

「……すみません」


 謝るしかなかった。






 その後、アムダたちと合流し、砦の中庭で話し合う。

 兵士たちは事後処理に追われていた。

 ゴブリンたちは魔神を倒した後、正気に戻り、争いはひとまずの終結を見せた。

 しかし、彼らの領土侵犯や、そして戦争による被害の事もあり、そういった政治的な問題が今後は出てくるのだろう。まあ俺たちにはあまり関係のない話かもしれない。

 ファラさんは兵士たちに指示を出している。

 そういえば、あの人、最後の最後に美味しいとこ、持って行ったよなぁ。どこにいたんだろうか。


「無事で良かったです」


 アムダの言葉に、隣にいたおっさんも、うむ、と頷く。

 今回に関しては、この二人は何もしてないな。まあ仕方ないが。

 二人は既にララモラの事は知っていたようで、バシュトラに従う少女を見ても、何も言わなかった。

 なぜか俺だけ睨まれているが。


「急いできたんですが、間に合いませんでしたね。すみません」

「仕方ないわよ。バシュトラが間に合って良かったわ」

「そうですね。飛行船でそちらに向かう直前、例の猫人間の声が聞こえましてね」

「声って……そっちに音声デバイスなんかあったの?」


 あの猫野郎はいつも、奏のスマホから声が出てたが、アムダたちがスマホを持っているとは思えない。


「バシュトラさんの鎧から聞こえてきましたよ」

「……ここ、スピーカーになってる」


 そう言ってバシュトラは鎧の首元を示す。

 ほー、スピーカー内蔵とは多機能な鎧だな。音楽プレイヤーでも入ってるのか?


「そこで、僕たちも前回の魔神討伐の貢献度により、武器を解放してもらいました」

「って事はアムダたちもか?」

「ええ。僕は神剣の二本目を。ブリガンテさんは武器の斧をいただいたそうです」


 確かにおっさんは背に大きな斧を背負っていた。おっさんが斧持つと似合うな。

 そんな事を思っていたその時だった。

 電源が切れているはずの奏のスマホから声が流れる。あの猫野郎の憎たらしい声だ。


『おめでとう諸君。二体目の魔神ドロメアを倒したようだね』

「おい流石に温厚で知られる俺も、ブチ切れるぞ」

『ははは、ごめんごめん。でも良かったじゃないか。勝てたんなら』


 相変わらず人の神経を逆なでする奴だ。

 目の前にいたらぶん殴ってやるところなんだがな。


『では、まずドキドキの解放タイムから始めようか』

「あ? 何だそれ」

『先ほど君たちが話してたじゃないか。新たなる力の解放だよ。

 何しろこれからどんどん魔神は強くなるからね。

 君たちにも強くなってもらわないと困るんだ』

「ちょっと待ってよ」


 奏が遮る。


「だったら最初から全部を解放してくれてもいいんじゃないの?

 魔神を倒せって言う割りには不親切過ぎると思うけど」

『ははは、残念ながらそれは叶えられないよ』

「なぜ?」

『理由はいくつかでっちあげる事は出来るけど、君たちはそれで満足しないだろう?

 だから答える必要はないと僕は判断するよ』

「……端から答える気はないって事ね」

『まあそうだね。その通りだね。戦っていればそのうち元の能力が解放されるよ、うん』


 ふざけるな。それが人に物を頼む態度なのかよ。


『別に――戦う必要もないんだよ、君たちはさ。

 世界なんて見捨てて、好きに暮らしてもさ。ははは』

「……性格の悪い神様もいたものね」

『でも、出来るだけバックアップはするつもりさ。僕だって、魔神を倒したい気持ちは一緒だからね。

 じゃあまずは藤間君から行こうか』


 その言葉に反応し、ぽこん、と音がした。

 猫野郎からもらった携帯ゲーム機が反応したようだ。


『新しい能力をアンロックしたから、また確認しといてね。

 じゃー次はアムダ君だ。君にはこれ』

「……神剣ですね」


 見た感じは何か変わったように見えないが、アムダは何かを感じ取ったらしい。

 そう言えば、神剣が解放されたってさっきも言ってたから、三本目の神剣が手に入ったみたいだ。


『おっけー、じゃあ次はバシュトラさん。

 でも彼女は今回は無いんだ、ごめんね』

「無いとかあるのか?」

『うん。現時点での解放率の兼ね合いがあるからね』


 また訳の分からん単語が出てきた。どうせ聞いても教えてくれない以上、無視する。


『ブリガンテさんは新たな特性を解放するよ』

「……なるほど」


 おっさんは一人で納得する。まあ、何かしら解放されたならいいか。

 最後に残るのは奏だ。

 前回、まさかのストラップだったが今回は果たして……


「今度変なもん渡したらどうなるか、分かってるでしょうね」

『ははは、この間のはジョークみたいなもんだよ。

 今回はこれ上げるよ』


 ぽとり、と床に何かが転がった。

 拾い上げると、元の世界でよく似た物を、俺は知っている。

 これ……ケータイの充電器だ。


『それがあると充電出来るよ、良かったねー』

「ったく、最初からそれ渡してくれてれば今回だってもっと楽に出来たのよ」


 ぶつくさ言いながらも、奏は充電器を受け取り、さっそく自分のケータイに接続する。

 どうもアダプタ式ではなく、持ち運びが出来るタイプのようだ。電源とか要らんのかな。まあどうせ魔術がどうのとかのトンデモ技術なんだろうが。

 そんな事をふと思った時だった。


「あれ、よく考えたらさ……」

「何よ?」

「お前の魔法で、充電器出したら、もっと簡単だったんじゃね?」

「…………」


 ぴしり、と音を立てて奏が石化した。

 あれ、もしかして言っちゃいけない感じか、これ。地雷か?

 首をギギギと回して、こちらを向く奏。顔は笑顔だが目は笑っていない。


「……シライさん、今度それ言ったら、張り倒すわよ」


 怖い。


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