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プライベート・クレイモア-4-



「結局、魔神が来るのはいつだっけ?」

「一週間後って言ってたから、今日が四日目……明々後日ね」


 てことは結構まだ時間があるのか。


「少しその辺を見回ってみましょうか」

「では道案内は私がしよう」


 声をかけられる。

 振り返ると、ファラさんが立っている。


「お仕事は大丈夫なんですか?」

「貴君らを監視するのが今の私の仕事だよ

 まあ、監視と言っても、ただ見てるだけだがね」


 そう言うと、彼女は歩き出す。

 俺たちはその後をついて歩く。


「そうだ、ファラさんに聞いておきたいことがあるんですが」


 道すがら、奏はそう切り出した。


「私で答えられる事なら構わんよ」

「ありがとうございます。

 こちらの世界は大陸という話ですが、具体的にどれくらいの広さがあるんでしょうか?」


 ふむ、と彼女は少しだけ考える。

 そういや、そういうの考えたことなかったな。

 飛行船で飛んできた感じ、それなりに広い大地のようだったが。


「人づてに聞いた話ではあるが、大陸の端から端まで、飛行船で大体15日程度掛かるらしい。

 どこぞの冒険者が以前に王の命で調査したそうだ」

「飛行船の速度が時速80kmとすると……ざっと3万kmくらいね」


 それってどれくらいの距離だ?


「そうね、あなたに分かりやすく説明すると、日本で考えるなら、北海道から沖縄までが大体3000kmちょっと。ちょうど10倍くらいかしらね。

 ユーラシア大陸の端から端が確か3万キロ弱くらいだから、この大陸の大きさに近いかもね」


 ユーラシアつうと地球の最大の大きさの大陸だっけか。

 となると、それくらいはあるのか。結構広いな。


「移動手段は主に飛行船ですか?」

「いや、飛行船網が発達しているのは、大陸の北西部くらいだな。

 それ以外の場所では魔素の影響で中々難しいというのが現状だ」

「魔素、というのは飛行船の動力ですか?」

「ああ。大気中の魔素を集め、それをエーテライズしてエネルギーに変換させる」


 この世界は魔力を動力として使うようね、と奏が呟く。

 なんつうか、RPGめいた話だな。

 しかし奏はさほど疑問には思わないみたいだ。

 まあ元々、魔法みたいなもんがある世界の住人だから、理解が早いんだろう。

 火力や風力、原子力に頼ってる俺としては、夢の技術ではあるが。


「大陸にはどれくらい国があるんですか?」

「どれくらいか。それは分からないな。

 人間域には少なくとも、二十以上の都市国家があると思うが」

「人間域、と言うのは?」

「大陸の南部は主に亜人種の住まう亜人領域となっている。

 今は争いはないが、基本的には両種族の交流は少ないな」

「亜人って聞くと、いきなりファンタジックになってきたな」


 エルフとか獣人とか、そういう系か。


「まあエルフなどは大陸東部の大森林に住んでいるはずだから、厳密には亜人領とは別だがな。

 そういう風にこちらの世界ではいくつかの種族が生息域を分けて住んでいる」

「なるほど。主と北と南で分かれてるんですね」

「ああ。そして中央には中央教会の総本山がある」


 そういや、昨日も出てたな、その中央教会の話。

 こっちの世界の宗教はよく分からんが、今一つ信用されてない感じだったが。


「中央教会は数百年前、灯火の聖女が興したとされている。

 かつては大陸でも大きな影響力を持っていたが、今はそれほどでもないな。

 まあ大抵の都市には教会が存在するし、教会も武装騎士を所有している。

 今回の魔神討伐も、独自で動いているという噂だ」

「噂ねぇ。そいつらがやってくれれば、俺らも楽なんだけどな」


 そうね、と奏も同意する。


「教会は教会で、色々とあるのさ。

 さて、ついたぞ」


 俺たちが連れられたのは砦の見張り塔だった。

 周囲が一望出来るその光景は、まさしく絶景。

 周囲は森と草原で囲まれており、遠くには集落も見える。

 彼女と二人で来ようもんなら、一発だね。

 なんて思って横を見ると、奏はあまり興味無さそうだった。


「そういえば、俺たちが今いるのは何て国なんだ?」


 自分が今いる国の名前すら、聞いていなかった。

 既に奏は知っていたらしく、


「トリアンテという名前らしいわ。

 城壁都市と呼ばれる事もあるみたいね」


 なるほど、そういや城があった街は、かなり巨大な城壁を構えていたな。


「しかし、そうなってくると、もし他の国とか地方に魔神が出たらどうなるんだ?」

「それは……」


 ファラさんが言いよどむ。奏も少し顔をしかめた。

 もしかして、聞いちゃいけない話だったのか?


「まあ、貴君らにならいいだろう。

 その時はその時で、こちらにとっても都合がいいのさ」


 それはつまり、見捨てるって事か?


「陛下は無論、すぐさま支援をお送りになられるだろう。

 だが議会がそれを許すかどうか。

 特にゾラン卿などは、それに乗じて戦争をしかねない」

「何て言うか、ひでぇ話だな」

「ま、こっちの国にはこっちの国の事情があるんでしょ。

 あたしたちが無為に首を突っ込む必要もないわ」


 ドライな考え方だが、それが正しいのかもしれない。


「まあ実際にトリアンテ以外に魔神が出た場合はそれこそ中央教会が対処する事になるだろう」

「でも、俺たちがいなくて大丈夫なのか?」

「さあな。だが教会は教会で、既に予言の五人組を確保したという噂もある」

「俺たち以外にも来訪者がいるってのか?」


 あの猫野郎はそんな事、一言も言ってなかったが。


「そこまでの情報は来ていないが、我々は一種のプロパガンダだと認識しているがね」

「嘘ってことか?」

「嘘と言うよりは、それなりに腕の立つ五人組を集めてきて、勇者を名乗らせているのだろうと」


 なるほどな。

 教会なんて聖人君子の集まりかと思いきや、それなりに面の皮は厚いらしい。

 むしろ自分たちのとこの予言だから、他国に横取りされたくない、みたいなもんらしかった。

 いつの時代も、権力ってやつは厄介なもんだ。


「そんな事で争ってもな。

 ほら見てみろよ。

 ここから見える大地に、国境なんて見えねえんだぜ?」

「……それ、ゲームかなんかのパクリでしょ」


 バレていた。






 それからファラさんに色々と案内してもらう。

 砦から離れる事は出来なかったが、まあ暇つぶしにはなった。

 一通り見終わった頃には、日も暮れ始めている。


「そういや電気とか無いのか?

 ああ電力が無いんだったな。そうなると……」

「灯りは多分、魔力で賄ってるんじゃないかしら」


 ほら、と奏が指で示すと、そこには砦の壁に取り付けられた照明に明かりを灯すシーンがあった。

 どうやら一つ一つ、手で点けるらしい。

 一人の男性が、照明に手をかざす。するとぼんやりとした明かりが生まれる。

 よく分からんがすげえ技術だな。


「一度反応させれば後は周囲の魔素で光り続ける。

 貴君らの部屋の照明も同じタイプのはずだから、やってみるといい」

「俺にも魔力なんてあんのかな。ちょっとドキドキだぜ」

「あなた、魔法使いっぽいからいけるんじゃない?」


 年頃の娘さんがどぎつい下ネタを言うんじゃない。

 というか俺はまだ二十歳だ。


「え、よく分からないけど、男の人って魔法使いになるんじゃないの?」


 意味も分からず使ってたらしい。

 男に向かって二度と魔法使いなんて呼ぶんじゃねぇ、と釘を刺しておく。


「さて、夕食にしようか」


 ファラさんの言葉に従い、食堂らしき場所で飯を食う。

 晩飯はそれなりに豪勢だったが、相変わらずパンは堅くて不味い。

 奏は変な色のジャムを付けて食べていたが、それも今一つだったらしい。


 食事の後、ファラさんや兵士の人たちと一緒にゲームしたり談笑したり。

 この国の遊びや、この間おっさんに教えてもらった鬼の首獲ったの誰だゲームをしたり。

 ちなみにせんだみつおゲームももちろんやったが、相変わらず不評であった。


 そんなこんなで、俺たちは楽しい夜を過ごした。

 そして――時計の針が十二時を示した時だった。




 奏の携帯が鳴った。





 それは、終わりの合図。





『さあ、魔神が来たよ。勇者の時間の始まりだ――』

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