表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/102

プライベート・クレイモア-2-

「ここで二組に分かれてもらう」


 俺たちは兵士に連れられ、城の外へ。

 兵士は俺たちを二組に分ける。

 例の仲の良い二人組作ってーというやつか。


「俺と姫宮か……」

「あたしとあんたな訳ね」


 メンバは俺と奏チーム。

 そしてアムダ、おっさん、バシュトラのチームになるらしい。

 てか何のチーム分けだ?


「そちらの二人組は南の砦、そっちのメンバーは北方のタイニィゲートだ」

「……よー分からんが、別々の場所に待機するってことか?」


 しかも待機する場所はここじゃないらしい。


「多分、あたしたちを一か所に纏めてると、不安なんでしょうね」

「なるほど」


 まあ疑いが晴れた訳ではないが、少なくとも魔神と同程度の力を持った連中だしな。

 一応、その辺は警戒しているのか。


「それだけではないがな」


 背後から声を掛けられる。

 振り返ると、金髪の女騎士が立っていた。

 この間の魔神退治の時の、女騎士である。

 ついでに言えば、俺たちを捕縛した張本人。


「もし魔神が現れたとしても、そこからならばすぐに駆けつける事が出来る。

 そう判断しての配置だ」

「信じてないんじゃなかったのか、俺たちのことを」

「……個人的な意見を言わせてもらえれば、貴君らには世話になった。

 部下や民たちも貴君らのおかげで救われた。礼を言わせてもらいたい」


 あっさりと頭を下げてきたので、調子が狂う。

 この間の時とは、態度が180度違っている。


「陛下とて、貴君らを予言の英雄と認めたいのだがな。

 なまじそうもいかぬ理由もある。許されよ」

「理由って言うと、あの禿げ親父のことかしら?」


 さすが、ねちっこく言われただけあり、奏の言葉にも悪意がこもっている。


「まあ……そういう事だな。ゾラン卿は元々、予言など信用してはいないからな。

 あの方は中央教会のやり方に懐疑的だ。

 ゆえに、予言の来訪者など、嘘偽りであると触れて回っているようだ」

「中央教会?」

「このバラージ大陸に広く分布している教会だ。

 魔神の予言も数百年前、教会の巫女が読んだとされているが、果たして本当かどうか……」

「あなたもそんなに信じてないみたいですね」


 アムダの指摘に、女騎士は軽く笑う。


「さて、な。神話だ伝承だの類は、信じない事にしている。

 もっとも、貴君らや魔神が本当に現れた以上、信じない訳にもいかんがな」

「でも、信じてないやつも多いんだろ? さっきの禿げ親父みたいに」

「中央教会の権威はかつてに比べると、そこまで高くない、というのが正直なところだ。

 特にゾラン卿は商業同盟の出身だからな。

 彼らの教義など、商機の前では鼻紙にもならんさ」

「あのおっさん、商人なのか」

「ああ。ゆえに陛下も手が出せないというのが現状だ。

 何しろゾラン卿は金の力で騎士団の運営にも口を出すくらいだからな。

 国を乗っ取るのではないかという、もっぱらの噂だよ」


 女騎士は、やれやれ、と言わんばかりだ。

 つうか大分危ないトークじゃないのか、これ。


「そこまで言っても大丈夫なのか?」

「構わんさ。貴君らがあの禿げ――もといゾラン卿に食って掛かって、我々もせいせいしたくらいだ」

「なるほどねぇ」


 やっぱり嫌われているらしいな、あのおっさん。


「一つ聞いてもいい? 予言ってのは、さっきのやつだけなの?」

「いや、正確にはもう少しあるそうだ。

 中央教会が秘匿しているから、一般には公開されていないがな」

「そう、ありがとうございます」

「構わんさ。さて、そろそろ移動するか。

 名乗り遅れていたな。私は銀凛騎士団の団長を務めている、ファラ・アルダスだ。

 貴君らの世話役を任じられている。何かあれば、好きに言ってくれればいい」

「へぇ、団長さんですが。その若さで凄いですね」


 よく分からんが凄いらしい。

 まあ委員長でも生徒会長でも、長と付く役職は偉いと決まっている。

 しかしファラは、


「なに、ただの七光りだ」


 とだけ答えた。





「で、そのなんちゃら砦まではどうやって向かうんだ?

 まさか歩いてって訳じゃないだろうな」


 さすがにそれは止めてほしい。


「安心しろ。特等席を用意している」

「特等席?」


 俺たちは言われるまま、ファラの後に付いていく。

 先ほどの城から既に十分ほど歩いている。

 目指す先には、何か巨大な建物が建っている。

 なんだろうなあれ。住居という感じはしないが。


「……なんか飛んでる」


 バシュトラが見上げる。ついでに俺たちも倣う。

 空を飛ぶのは飛行機のはずだが、なぜかこの世界では船が飛んでいた。


「っておお?」

「あれが飛行船だ。あれで貴君らを南砦とタイニィゲートに送り届ける」

「俺の知ってる飛行船と違うな」


 俺の知ってるやつは、中に空気よりも軽い気体を詰めた気球みたいな乗り物のはずだ。

 こんなどっからどう見ても船みたいなやつじゃない。


「世界が変われば常識も変わるみたいね」

「だな……ってバシュトラがいねぇ」


 気が付くと、バシュトラは飛行船の発着場に向かっていた。

 流石、空大好き娘だ。


「では、快適な空の旅を楽しんでくれたまえ」





 快適と呼ぶにはほど遠かった。

 もう揺れる揺れる。

 どうも大気が不安定みたいです、と乗組員の人が申し訳なさそうに言う。

 まあ3D酔いも何のその。

 こちとらFPSゲーマーですから、そんなの平気です。

 なんて言えるはずもなく、俺は憔悴しきった顔で、甲板にいた。

 風が気持ちいいぜ。

 何しろ10時間近くの航行な訳で、それなりに体力を消耗する。

 既に日も暮れており、空には星が瞬き始めている。

 空が近いだけあって、星もきれいだぜ、なんて似合わない感想も。


 ケチくさい事に、俺たちとアムダ、両方のチームを一つの飛行船で運ぶのだった。

 二隻用意しろよ、と思ったが、諸々の事情でダメらしい。禿げのおっさんの許可が出なかったのだとか。

 こんなところでも殺意が芽生える。

 先にアムダたちをタイニィゲートで下した後、次は俺たちの目的地へと向かっている。

 この二つの拠点は、この辺り一帯を空からカバー出来るらしく、魔神が出現してもすぐに向かえるらしい。


「でも、魔神のところまでこんな風に揺られたら、着く前に弱り切ってるような……」

「まったく軟弱ねぇ」


 俺の横に、奏が立つ。

 どうやらこいつも外の風に当たりに来たらしい。


「あと二時間くらいで着くらしいわ」

「まだそんだけかかるのか……」


 乗り物には強い自信はあったが、この独特の揺れは慣れない。


「だらしないわね。あんたの世界にだって飛行機くらい、あるんでしょ?」


 その通り。

 実は先ほど話していて気付いたのだが、俺と姫宮 奏の世界は、かなり近いらしい。

 距離が近い訳ではない。

 文明というか文化というか、少なくとも同レベルの技術力を有した世界になるようだ。

 だが一点、大きく異なる点がある。

 それが、彼女の使う魔術。

 俺の世界ではありえない、しかし彼女の世界ではありふれた技術が、魔術なのだとか。


「お前の魔術でこれ、何とか出来ねえの?」

「前にも言ったけど、虚数魔術ってのはそういうものじゃないのよ」

「よく分からん。そもそも何が出来るんだ?

 この間はドンパチやってたみたいだけど」


 俺の言葉に、しょうがないわね、と彼女は言う。

 心なしか嬉しそうだ。多分、説明するのが好きな人種なんだろう。


「虚数魔術を端的に言えば、『本来存在しない物を存在させる術式』となるわね」

「いきなりきな臭くなってきたが、大丈夫か?」

「問題ないわよ。それで、理屈を分かりやすく言うと、例えばここにリンゴはある?」

「ねえな」

「そう、今現在、ここにリンゴは存在しない。

 じゃあ、リンゴが存在する確率は何%くらいだと思う?」

「いや、存在しないんだから0パーじゃないのか?」

「そう、実数領域において、リンゴが存在する確率は100%か0%か、そのどちらかでしかない。

 じゃあこれが虚数領域ならどうなるか」

「どうなるんだ?」

「ちょっとは考えなさいよ。

 虚数領域において、ここにリンゴが存在する確率は仮に0.0000001%としましょうか」

「じゃあやっぱりないだろ、そんだけ低ければ」

「ええ、ここだけなら存在しない状態。

 でもこの0.0000001%を、世界中からかき集めてきたら、どうなるかしらね」

「えーっと……100%になる?」

「その通り。という訳で、これあげる」


 そう言って奏は俺に何かを投げて寄こす。

 それは……真っ赤なリンゴだった。


「え! ちょ、待てよ。今まで持ってなかったよな」

「虚数領域を展開し、周囲から存在しうる確率をかき集める。

 それを実体化させる技術体系――それが虚数魔術よ」

「よく分からんが、凄いってのは何となく理解した。

 これって何でも出せるのか?」

「何でもは無理ね。呼び出す物にはそれぞれ固有の虚数式が存在するの。

 リンゴみたいな簡単な物なら携帯端末で簡単に処理出来るけど、複雑な物はもっと強力な処理端末がいるわ」


 そう言って奏は俺に、例のスマホを見せる。


「このスマホで計算してるって事か」

「え、スマホ? 何それ」

「何って……これ、スマホだろ?」


 しかもいっちゃん人気のあるやつだ。


「違うわよ。これは 携帯端末(サイ・タブレット)

 呪式アプリ専用の端末」

「つまり、電話は出来ない系?」

「電話って……通信を電気技術で行うってこと? なんていうか、無駄の多い技術ね」


 鼻で笑われる。

 どうやらこいつの世界は科学技術とオカルトが密接にくっついてるらしい。


「まあ何でもいいが、その携帯っぽいやつで計算してるんだろ?」

「ええ。あと一番の問題は、私の世界の物以外は、呼び出せないってことね」

「つまり、俺のサイフを出してくれって言っても無理ってこと?」

「まあそうね。

 そもそも虚数魔術はあくまで存在可能性がある物しか呼び出せない。

 あなたのサイフのように、特定の存在や一点物は不可能なのよ」

「へえ、便利なようで不便なんだな……ん?

 でもお前、この前戦艦だのなんだの呼び出してなかったか?」


 確か、戦艦三笠だ。

 砲塔だけとはいえ、あんなもんがぽんぽん世の中に存在してたまるか。

 しかし俺の突っ込みに、「はあ?こいつ何言ってるの?」という顔をする。


「違うわよ。あれはミカサ。戦艦三笠とは別物よ」

「違いが分からん」

「全然違うじゃない。言うなら、あれは架空の兵器なのよ。

 虚数魔術は実際に存在してるかどうかは関係ないのよ。

 そこにある可能性がかすかでもあれば、何だって呼び出せるのよ。

 だからミカサはあくまで、戦艦三笠とは別物。

 その証拠に、実際の三笠の主砲は連装砲だけど、あたしの呼び出したミカサは単装砲だったでしょ?」


 でしょ、って言われても知らんがな。

 しかしまあ、この間から思っていた事だが……


「お前って、ミリオタだよな」

「な、なななななな! 何言ってるのよ! あ、あたしがミリオタって……

 そんな訳ないじゃない。ありえないし」


怖いくらいに動揺している。


「だって普通、そんな戦艦のことなんか知らんだろ」

「べ、別に、こんなもん常識でしょ。一般教養よ」

「それに、俺がこの前呼び出したC-130も、見ただけで分かってたじゃないか」


 普通の女子は、C-130輸送機なんて見ても分かるはずない。

 そもそもミリオタを、ミリタリーオタクと認識している時点でアウトだろ。


「それ以上言ったら、あんたの髪の毛、毟り取って、あの禿げ親父と一緒にするわよ」


 それはきついなぁ。

 そんなことを思いながら、俺たちは空路を進むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ