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FPSゲーマーは眠らない

 カチカチカチ。

 室内にクリック音が響く。

 ディスプレイは、どこか遠くの戦場を映し出している。

 もちろん、本物映像じゃない。

 ゲーム。戦争を題材にしたゲームだ。

 一般的にはFPSと呼ばれている。


「あばよ」


 呟きと同時にマウスクリック。

 画面の中の俺の分身は、狙い通り、相手プレイヤーの頭を撃ち抜く。


――ナイスキル


 画面のログが流れる。

 俺は慣れた手付きで打鍵し、返答を返す。

 同時に、スコアがクリア上限に達し、ゲームが終わる。

 圧勝で、俺たちのクランの勝ちだった。


「弱すぎだっつーの」


 一応相手も有名クランだったが、俺たちの敵ではなかった。

 今日の戦果をチャットに書き込んだ後、反省会に移る。

 と言っても、ほとんどが各々の役割をそつなくこなしていた。

 ポイントマンであるクラン員が多少ミスってたくらいで、まあ概ね問題はないだろう。

 来週は、今やっているゲームの日本大会が開かれる。

 そこで優勝すれば世界大会に招待され、成績を残せば、それなりの賞金が手に入るはずだ。


「乙っと」


 別れの挨拶を書き込み、ゲーム画面を閉じる。

 FPSにハマったのは小学生の頃から。

 6つ年上の兄がやってたのを見て、俺も自然に始めていた。

 おかげで20にもなって、大学にも行かず、毎日ゲーム三昧。

 日本有数のトッププレイヤーの所属する有名クランにも加入しており、俺はずっとスナイパーを続けていた。


 スナイパー。

 その名の通り、遠距離狙撃を専門とするクラスだ。

 現実のそれとは異なり、FPS世界におけるスナイパーの地位は、あまり高くない。

 そもそも走り回って範囲の限定された場所でキルを量産するゲームで、動かずにじっと獲物を待つスナイパーは嫌われて当然だ。

 また大抵のゲームでは比較的弱く設定されており、上手くヘッドショットを狙わない限り、一撃でキルを奪えない――カウンターでやられるなんて日常茶飯事だ。

 でも俺はずっとスナイパーを続けている。

 理由なんてない。

 スコープ越しに覗いた獲物を撃ち抜く感触が好きな以外には。


「あ? メール?」


 メーラーが起動し、一通の受信メールが届いてる。

 タイトルが「魔神討伐のお知らせ」。

 SPAMか?

 消そうかと思ったが、もしかしたら何かのゲームの通知かもしれん。

 とりあえずクリックした。


 その瞬間、俺の体は別の世界にログインしたらしい。






 だだっぴろい空間に俺はいた。

 なんだここ。

 さっきまで自分の部屋にいたはずなのに。

 何もない、白いだけの空間。精神と時の部屋か。


「あなたが最後みたいですね」


 声をかけられて、振り返ると一人の男が立ってた。

 年は20前くらいか?

 俺よりもいくつか年下だろう。

 日本人離れした掘りの深い顔をしている。

 つーか日本人か? 普通に外国人っぽいぞ。

 柔和な笑みを浮かべており、若手ハリウッドスターと言われても納得しそうだ。

 なにより、そいつの恰好が現実離れしている。

 まるでコスプレみたいな恰好だ。

 ゴテゴテとした出で立ちで、腰にはなんと剣まで佩いている。

 すげー、外国のコスプレは本格的って聞いてたが、マジモンみてぇだな。


「ええっと、ここはどこです?」

「分かりませんが、同じような疑問を持った人ならそこに」


 青年はそう言って後ろを指す。

 背後を見ると、数人の男女が固まってた。

 なんだ、他にも人がいるのか。

 しかし安堵よりも疑問が浮かぶ。

 そこにいた連中は、揃いも揃っておかしな恰好をしたヤツばっかりだったから。


「ちょっと早くしてくんない? 待ちくたびれたんだけどさ」


 奥にいた女が気怠そうに言う。

 黒いドレスのような服装の女は、年齢なら女子高生くらいか?

 こいつも外国人みたいな顔で、何より体が日本人離れしている。

 胸元が大きく空いた衣装だからか、胸の谷間を見せつけている。

 まったくけしからん――とは思ったけど、しばらく見ていると、女と目が合う。


「死ね」


 ひでぇ。

 おっぱいを見てしまうのは男の本能だ。嫌なら見せるな。


「…………」


 一人離れたところに立っている女がいた。

 いや、女というより少女と呼ぶべきか。

 下手すりゃ小学生くらいの身長だったが、こいつも異様な服装だ。

 というより服じゃない、鎧だ。

 全身を青白い鎧で固めて、気合いの入ったファッションだ。重そう。

 背中には女の倍以上の長さもある槍を背負っていた。重そう。

 話しかけようと思ったが、生憎子供の相手は苦手だ。ほっとこう。


 そして目線を移すと、その一番奥にいた人物が視界に入る。

 2mは軽く超えている大男。

 腕なんか丸太のような太さだ。

 何より上半身がほとんど裸みたいな服装で、体中が傷だらけだ。

 年齢的にはこの中で一番上っぽい。おっさんと呼んでも差し支えなさそうな年だ。

 ムキムキのおっさんが腕を組み突っ立っている。

 それに話しかける勇気は俺には無かった。


「全員揃ったね」


 声が響く。

 そして一人の人間が現れる。

 人間? いや、もっと別っぽい存在だ。

 なにせ顔が猫なんだからな。


「語尾にニャとかつけそう」

「つけないよ」


 ぼそっとした呟きもしっかり拾う猫人間。

 猫だから耳が良いのか?


「あんたが呼び出したわけ?」

「その通りだよ、万物の魔女よ」

「……あんた、スミオンゲートの管理者ね」

「さすが、多次元世界を事象として捉える世界の方は話が早いね」


 ムチムチ女と猫頭が変な会話をしている。

 夢か?

 一人自分の頬をつねる。痛……くない!

 やっぱこれ、夢だわ。


「ここでは痛覚なんかは遮断してるから、痛みはないよ。

 だからと言って夢ではないんだ」


 見てたらしい。

 ムチムチ女が、俺の事を鼻で笑う。くそぅ。


「とりあえず、説明をお願いしてもいいですか?」


 コスプレにーちゃんが話を切り出す。

 ムチムチ女と違い、他の連中は理解してないらしい。

 俺だけじゃなく一安心。


「まず初めに、ここは君たちの元いた世界とは違う。

 どこでもない事象の果ての世界。

 スミオンゲート、異界門、真理の扉。

 まあ好きに呼んでもらっていいよ」


 いきなり電波が飛び出した。

 突っ込もうと思ったが、文句の言いそうなムチムチ女が何も言ってないので止めた。


「元の世界とは違うというのは、どいういう事だ?」


 半裸のおっさんが問う。

 見た通り、低くて厳つい声だ。

 声だけでヤクザも道を開けちゃうね。


「世界は一つじゃない。異なる法則や事象を持った世界が、多重に重なりあっているんだ。

 これを多元連立世界と呼ぶ」


 どっかの学者が提唱してた多元宇宙ってやつか。

 世界は層になって重なりあってるとか、泡で互いに触れ合えないとか。


「ここはそういう多元に連なる世界と世界を繋ぐ門。

 それぞれの所属する世界によって、呼び方は変わると思うよ。

 彼女の世界ではスミオンゲートと呼ばれている。

 あなたの世界では、恐らく絶海の果て、なんて呼び方をされたんじゃないかな」


 おっさんはそう言われると、むう、とだけ答えた。

 なんだその返事は。


「そして僕はこの扉の管理者。名前は特にないから好きに呼んでよ」


 そんな無茶な。

 なんで顔が猫なんだ?


「デザインに関しては、まあ気にしないでよ。

 本来の僕の姿は、君たちには刺激が強すぎるからね。

 少しデフォルメしてるんだ」


 リアルな猫の顔は逆に怖いわ。


「それで、僕たちを呼んだ理由はなんですか?」


 コスプレにーちゃんが核心を切り出す。

 猫人間は待ってましたと言わんばかりに、


「君たちには、神を殺してもらう」


 と答えた。


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